以前後から追加されたっぽい道については触れたけれど、実は他にもある。それはエルヴィン谷方面から首狩りの村へ入る道だ。
そう思う理由としては、まず第一にこちらのルートから入る場合には例の首付きの杭が無いからです。運よく落とし穴の罠にはまって命を落としたときに「君の首も連中の仲間入りですぞ」みたいなことを言われるが、こっちのルートだと何のことやら状態である。首付きの杭はシャンカー側から来ないと見ることができないので。
第二の理由としては、カントパーニで得られる助言がある。シャンカー側の道を選ぶのであれば進む道にはしっかり気を付けておけ的なことを忠告されるのだが、実際のところはエルヴィン谷方面に行っても首狩りエリアへの分かれ道があるわけでして。つまり忠告の意味合いが薄れていると思うわけです。
アナランドとマンパン、そして冠を巡る今回の冒険へと続く事件の流れは、『ソーサリー!』冒頭にある「諸王の冠の言い伝え」で語られている。ここではフェンフリーをして「東の大国」とするのであるが、日本語版AFF2用の『ソーサリー・キャンペーン』では「西方最大の王国」としている。ゲームブック版では原文から一貫して「東」であり、原本である英語版の『ソーサリー・キャンペーン』でも「eastern world」だ。
なぜ西に改められたのかは、ちょっと考えてみればわかる。ゲームブック版よりも後に発表された世界設定資料集『タイタン』に載った世界地図を見ると、フェンフリーを含む旧世界のさらに西、海を越えたところにアランシアが浮かんでいるのだが、ポート・ブラックサンドをはじめとするアランシアの主な拠点は西海岸にあり、かつこの海を越えた勇敢な水夫が旧大陸にいたったという記事がのっている。東周りでも西周りもアランシアから旧世界へ至れるということなので、タイタンは丸いということになる。この段階では西でも東でも矛盾はないといういことになるが、『タイタン』が編纂されているのはアランシア西海岸のサラモニスという設定の上、火吹山をはじめゲームブックの舞台となった場所がアランシア西海岸中心ということもあり、アランシアから見た場合においてはフェンフリーを含む旧世界は西の世界と言うことになるのだろう。
『ソーサリー!』がゲームブックだけの冒険だったころには東の大国だったフェンフリーは、『タイタン』をして西の大国となった。『ソーサリー・キャンペーン』はAFF2のシナリオである。ならば『タイタン』を含むタイタン世界全体の一部でなければならない。そう考えると、今回の和訳『ソーサリー・キャンペーン』におけるさりげない変更は正しい処置と思うわけであります。
【追記】
第三訳となるFFコレクション版では、原文通り「東方」と訳されている。AFF2ではなくあくまで『ソーサリー!』単体を意識した邦訳なのかと思ったが、一方でアナランドの術師は「妖術師」となっているのだ。こちらは明らかにアナランドの魔法がAFF2では「妖術」という魔法カテゴリーになっているからだろう。正直ちょっと困惑していることは否めないが……まあ、タイタン世界は球体をしているのでアランシアから東へ向かっても旧世界へ至ることに違いはない。おかしいことはあるまいて。
ここに一人、魔術勉強中のアナランド人がいる。魔術書のDOCの項に目を通した彼の頭に浮かぶ疑問は「体力が1の時にDOCを使うとどうなるのか?」ということであった……。
DOCの効果は体力回復。消費体力は1。必要となる触媒は薬で、呪文を唱えるタイミングは「薬を飲む際に」となっている。はたして体力1の魔法使いに、DOCは間に合うのだろうか?
先ずは呪文が効くであろうプロセスを考えてみよう。呪文の有る無しに関わらず、そもそも薬を飲まない限り体力は回復しないだろう。つまり薬を飲む前に呪文を唱える――薬にあらかじめ呪文をかけておく――手順だと死んでしまうことになる。薬を飲んだ直後に、飲んだ者に魔法をかけることで効果を飛躍させるのだとしたら、これは体力が回復した後に1消耗させればいいことになる。だが呪文を実際に使ったシーンで「最大まで体力を回復していいけど、ちゃんと1点減らしておいてね」なんてことにはなっていない。超回復でDOCの消費体力分もリカバーなんてこともあり得るかもしれないけど、そうするとDOCの消費体力設定がいらない子になってしまう。流石にこれはゲームのルール的にありえない。そうなると、やはり回復の前に体力消費が起きると考えるべきであろう。
さてルール的にはともかく、実際の作中での描写はどうだろう? 第四巻でスログがDOCの効果を奪うシーンを見ると、彼女はアナランドの魔法使いが飲みさしの薬をひったくって自分も飲むが、はたしてスログの体力もまた回復してしまう。やはり薬に呪文がかかっていると思われる。もう一つの例をあげておこう。それは第一巻の疫病村での治療シーンだ。ここでははっきりと、薬に呪文をかけた後に村人に振りかける様が読み取れるのである。