クリスタタンティの出口は一風変わった場所だ。この村からカレー方面へは二本の道が続いていて、どちらかを選ぶことになるのだが……その際に風景描写が皆無なのである。
どうでしょうこのすがすがしいほどの情報の無さ。『ソーサリー!』全体でもここまで徹底しているケースは多くない。というか、こんなのは他には第四巻の「暗夜の間」ぐらいである。「暗夜の間」は床から刃が不規則に立ち並んでいるというロケーションなので、いわゆる運任せに一歩一歩進むという状態をゲーム的に表現したというところだろう。だが、クリスタタンティはそうではない。
他の分かれ道ではこんな描写がされていないということは、ここにはそうするだけの理由が何かあるのではないか? 件の二路の先は、片方がリー・キであり、もう片方はアリアンナの家の近くを通ってダンパスへと続いている。これはもしかしたら、どっちに辿り着くのかを一切予測させない叙述ギミックなのではないか。リー・キとアリアンナの家のあたりを確認してみると、リー・キのほうは地名が出る前に「通常の二倍から三倍はある巨大な門」が登場し、次いで丘巨人がお出ましとくる。アリアンナのほうも立て札に「アリアンナ」とあるだけで、事前に情報を得ていなければアリアンナが人名だとは判断しかねる状況である。
これらの情報は、クリスタタンティの酒場で老人と話すと双方について同時に忠告をうける形で知ることができる。クリスタタンティを出て旅を続けた際、情報を得ていれば迫る危険を察知できるというわけだ。そしてどちらの忠告を心がけるべきかの判断に関してはプレーヤーの記憶力、状況分析力も問われることになる。不自然さが圧倒的なのはどうかと思うが、なんとなく意図は理解できる気がする。
……と書いては見たものの、実際のゲームではこのギミックは成立していない。描写皆無という不自然さを以てしてまで行き先を判断材料無しに50%50%にしているのに、アリアンナの家を出た後リー・キへ向かうことができるのである。どっちも通過するルートがあるのでは台無しと言わざるを得ない。
私見であるが、このルートは第一巻のパラグラフ構造想定が一度できた後で追加されたものだと確信している。折角の構造ギミックを揺るがしているのは勿論であるが、術の触媒アイテムに関してのバグが存在するのだ。
アリアンナの家では糊の小瓶を入手することができる。しかしリー・キを越えた後に発生する夜間エンカウントでGUMを選ぶと「呪文に必要な糊がないので問答無用で失敗」となってしまうのである。いや、持ってるがな。そしてアリアンナの家を出たあと、リー・キへ向かう道に入らなければ夜間エンカウントはもう発生しない。アリアンナの家から来なければ、リー・キ後の夜間エンカウント時に糊の小瓶を持っていることはない。
つまりゲームに奥行きを持たせるために新たにプロットの交差を追加したのではないかと思われてならないのだ。だが、やるならもう少し慎重にやるべきだったとGUMのバグが物語っているように感じるのである。
【追記】
実は後から追加されたと思わしきルートがもう一つ存在する。それもやはりクリスタタンティを超えた場所にあって、先ほどの「アリアンナ⇒リー・キ」のバイパスの逆を行くルートだ。つまり、クリスタタンティをリー・キ側へ出た後に、アリアンナの家へと方向転換できる道があるのである。
そして後から追加されたと思える理由だが、やはりこちらのルートにも(幸いにもバグとは言えないレベルだがが)不具合が存在しているのだ。アリアンナを檻から助けようとする際に、合いそうな鍵を試してみることができるのだが、これは普通の選択肢選択ではなくて「鍵に施された数字」を使うパラグラフジャンプとなっている。正解の鍵の番号を元に進んだ先ではかの魔女を助け出すことができるが、間違った鍵だと檻は開かない。
問題の鍵であるが、アリアンナの家にたどり着く前に手に入る可能性があるのは以下の通り。エルヴィンの集落で見つかるものと、シャンカー鉱山で手に入るもの。そしてクリスタタンティを出る際に盲目の物乞いから譲られるものの3つである。
アリアンナが言うように彼女を閉じ込めたのはエルヴィンたちで、正解はエルヴィンの集落の鍵となっている。シャンカーの鍵を使うと「鍵は合わない」という専用のパラグラフが用意されている。指示される行き先をたどれば、元のシーンに戻ることができる。だが、最後の鍵に関しては状況が合わない(全く関係のないシーン)へと飛ばされるのだ。指セーブをしていなかったら、ゲームの続行すら怪しくなる。鍵を試す前のパラグラフで「この番号を覚えておくこと」という指示はない。同じくパラグラフジャンプ後に元の場所に戻ってくる仕組みになっている夜間エンカウントシーンでは、はっきりと「元の番号を控えておくこと」という指示があることから、この鍵に関するパラグラフ構成がイレギュラーであることは明確だ。
この鍵をくれる人物はクリスタタンティからりー・キへ向かう道を選ぶことで遭遇できる配置になっているので、件のルートが無ければ、アリアンナの檻で試せる鍵は二本しかないことになる。これなら不具合も無いというわけだ。
以前にも触れたことがある「入口の間」。このヴラダの賭博場にしつらえられた一室にある「入口」、実は下水道直行のダストシュートである。原文では「Portal Room」となっていて、玄関や正門といった意味の他にも、抗口やトンネルの入口とも読み取れる単語が使われている。中に入ったあとで、看板を思い出してああそういえばと感じられるような作りになっているのだ。
だが実はこの「Portal Room」、単に掛詞としても読み取れるだけでそもそも「縦穴部屋」という可能性があるのではないだろうか。中に入ると衛兵がいて「また面倒な奴か?」というなり侵入者をダストシュートへ放り込む。つまり、衛兵はここの係員で入ってきた者を下水道におとすことが多々あるということだ。そしてここは賭博場である。客の中には破産する者も出てくるだろう。支払い能力を超えて賭けたうえで負けてしまい、何らかのけじめが必要となるケースもあるだろう。そう、このダストシュートはそういった不逞の輩を放り出す施設なのではないだろうか。そうなると「面倒な奴」というセリフの意味合いもわかるというものだ。番人が居るということはかつて「入口の間」から逃げ出そうとした輩もいるのだろう。だがその番人が率先して落としにかかってくるのだから、下水道のひどさは今では良く知られるところなのかもしれない。
もちろん元々は単にゴミ捨ての施設だったのかもしれない。何しろ一日中客がごった返す賭博場だ。イラストを見る限り飲み物も提供している。出るゴミの量も多いに違いあるまい。そして特別な「大きなゴミ」が出る可能性もあるのだ。
『タイタン』にギャンブルについての記載がある。そこには「ナイフィー・ナイフィー」なる勝負事が紹介されている。カーレ式ルーレットとも呼ばれるこのギャンブルでは、参加者たちが刃がひっこむ仕掛けナイフを己の胸に突き立てていく。本物のナイフが混じっていて、死んだら負けという所謂ロシアンルーレット的なルールである。カーレ式というからにはヴラダで行われていてもおかしくはない(実際の所、第二巻では遊ぶことはできない。だが残念がることは無い、『バルサスの要塞』で体験できるぞ!)。一人だけ生き残るまでゲームは続くとのことで、要するに死体がどかどか出るのだ。敗者たちの持ち物はおそらく勝者の総取りとなるのだろうが、問題は死体である。希少種族、あるいは見目麗しい、でなければ漢方や魔法の触媒に使えるとかの事情がないかぎり、死体の処理は必須であろう。賭博場に番犬や番獣がいるのなら餌になるかもしれないが、ヴラダにはいないようだ。そういうわけで、「入口の間」のような施設の必要性が出てくるのである。
我らがアナランダーの守護神たる女神リブラ。『タイタン』によれば善の勢力に属する、天秤を携えた正義と真実の女神である。Libra という名前だが、これはずばりラテン語で「天秤」を意味する。天秤座をライブラというが、これだ。実に彼女らしい命名と言えるだろう。
ところでリブラはアナランドの守護神である。今回マンパンが冠を盗に入った先がアナランドだったので、主人公はアナランド人で、その守護神もリブラとなったわけだ。もしもこれがフェンフリーやガランタリア、あるいはブライスなどの国が冠を持っていた時期に盗難が起きていたらどうなっていたか。リブラは旅の守護神になっただろうか。もちろんマンパンは悪の勢力なのだから、善の勢力に属するリブラの出番となる可能性はあるだろうが、それぞれの国の守護神がメインで出張ってくる可能性も高いのではないかな。信者でないと完全なサポートは難しいようですし。
ちょっと話はずれるけど、もしもブライスが冠を盗られたのならばきっと軍隊を送り出したと思うのは自分だけだろうか。48の魔法を誇るアナランドが魔法使いを送りだしたように、それぞれの国が最も信頼をおく者が任務を託される気がする。