第四巻で再開することになる豆人のジャン。彼はZEDについてよく知っており、この呪文について説明してくれる。それによると、ZEDはアナランドでもスローベンでもなく、かつてマンパンで生み出された魔法だという。マンパンのクロナーダの司祭が創りだした秘術を盗んだミニマイトが、スローベンにもたらしたということだ。
マンパンの地にクロナーダ信仰があった。クロナーダは言うまでもなく時間の神であり、時の蛇の力の源である。大魔法使いがその覇業の礎としてマンパンを選んだのにはここにも理由があったのではないだろうか。高地ザメンは確かに要害の地ではあるが、カーカバード全域の支配を望むとなれば少々不便な気がする。護るにはいいが、攻めて出ていくことも難しいだろう。そこで鳥人が有用なのだろうが、混沌の軍を率いてカーカバード制圧に乗り出すには不便ではないか？ そのデメリットを抱えてまでマンパンに砦を築いたのは何故か。当時大魔法使いが信仰し、力を求めた七柱の神々の一つ、クロナーダの力を重要視していたからだとすると辻褄は合う。
『タイタン』を読むと、ローガンが異世界より見つけてきた「時」は「新しい神」とは言われるものの、名前は単に「時」でしかない。一方クロナーダは時間の神ではあるが、『超・モンスター事典』を見ると「カーカバードの神」と明言されている。マンパンにクロナーダ信仰があったとする第四巻の記述も合わせ、クロナーダはカーカバード固有の神であるということなのだろう。
大魔法使いが選んだ他の六柱は、いずれもタイタン世界全域で信仰されるメジャーな神々である。クロナーダだけが特別なのだとすれば、やはりマンパンに本拠地を構えたのはクロナーダ信仰が故なのではないかと思われる。
英単語として調べてみると、「（古）食料」とある。古い言い回しで食料を指す言葉らしい。
こいつは創元版ではカタカナ語でヴィトル、創土版では糧食と訳されている。第三巻のセスター・キャラバンで買うことができる食料だ。
『ソーサリー！』ではシステム的な食事は Provisions とされているため、 Vittle はこの「小さな球状の生地に、歯ごたえのある干し肉を詰めて焼いた」料理そのものを指すものと考えられる。つまりカーカバードに伝わる古い料理なのではないだろうか。
旅の携帯食として理想的であるという記述もある。カーカバードは昔から旅人が行きかう土地であったということか？ 確かに大きな町はカレーぐらいだ。何処へ行くにしても携帯食は必須だったろう。だがここは危険極まる地でもある。気軽に旅になぞ出られるわけもない。あるいはカーカバードのみならず、旧世界全域で食された料理だったということもあるかもしれない。カーカバード以外の地なら、旅の者も多かったのではないか？
だが、やはり『ソーサリー！』中心に考え、カーカバードに拘ってみたくもある。そうなると、最もありそうなのは……内乱に明け暮れたこの吹き溜まりの地で、戦争時の携帯食として広く食されたとかだろうか。
【追記】
『タイタン』によれば、アナランドでは旅に際しヴィトルを用意するとある。関連してカーカバードの記述は皆無だ。少なくとも『タイタン』が編集されたアランシアでは、ヴィトルはアナランドのものとして考えられているようだ。
セスターキャラバンでヴィトルを扱っているということは、彼らなりにアナランド料理を作ったのではないか。旅人から奪ったとは考えにくい。いかに携帯食とは言え日持ちの問題がある。そもそもの話、バクランドにアナランダーの旅人がそんなにゴロゴロいるわけがない。
セスターキャラバンも商品と認めるヴィトル。なかなかの優れものと思われる。
アナランドが誇る48の魔法。門外不出の国家機密であるこれらの魔法だが、実はアナランド固有のものというわけではないらしい。
例えばZEDの魔法は元々マンパンで作られたというではないか（魔術書を読む限り、ZEDはマンパンから直接ではなくスローベン経由で伝わっているように読める）。つまり、アナランドの魔法は、各地からより集められたものも混じっているというわけだ。
ZEDだけが特別ではないかと思われるかもしれないが、実はGAKもまた外よりもたらされた魔法の可能性がある。旅の途中で出会うことになるマナンカの霊は、GAKを知っていると語るのだ。奴は黒い仮面が触媒として必要なことも御存じだ。この精霊がアナランドに与するものではないことは、奴が主人公の使命を知りつつも妨害してくることから明らかである。アナランドの秘密が漏れてマナンカの霊が知るところになったという可能性はあるが、FOGでもってマナンカの霊を出し抜けるという事実がある。奴はFOGについては何も知らない。
たまたまGAKの秘密だけが知られているというのも無いでは無いが、ちと限定的すぎではなかろうか。GAKは恐怖をもたらす呪文であり、その性質はマナンカの霊のそれに近い気がする。元々彼ら悪しき霊の魔法だったと考えたほうが自然に思えるのだ。
ZEDに続きGAKもアナランドが外から取り入れた魔法である可能性がでてきた。ならば、他の魔法も純アナランド産とは限るまい。アナランド人は旅先で見知った魔法を国に持ち帰って研究を続けている……。そうなると、主人公のカーカバード横断行も新たな魔法をアナランドにもたらすかもしれない。すぐに思いつくところでは、LIXがあるよね。
