★ 侵略序盤

『タイタン』をめくっていて気になった点がある。それはマンパンの大魔法使いについて書かれた部分だ。それによるとマンパンに建てられた砦に大魔法使いが移り住んでから、三十年から四十年ほどは古代の秘儀の研究に没頭していたようだ。その間もマンパンの軍勢は周囲を脅かしていたが、十年から十五年ほど前にようやくアヴァンティの森やイルクララ湖まで到達した。同時期にバドゥ・バクも襲っていたとも書かれている。バドゥ・バク平原はバクランドに含まれる地で、イルクララ湖よりもよほどマンパンから遠い。もしかしたらバクランドから回り込むようにして、イルクララ湖の南岸まで到達したということなのかもしれない。だが、いずれにせよのんびりにもほどがある。明らかに不自然と言えるだろう。イルクララ湖の北岸からマンパン砦までアナランド人の足で三日しかかからない。バドゥ・バクにしても、数日もあれば充分な距離だ。なのに十五年以上もかかったと?

 考えられる可能性は二つ。最初の数十年の間は、まだ大魔法使いはカーカバードの支配を企んでいなかった、もしくは本格的な行動には入っていなかったというのが一つ。そしていま一つは、全力で別の方角を攻めていたのではないかということだ。砦の衛兵たちの故郷がティンパン河上流であることを考えると、征服か懐柔かは不明だがこちらを攻略していた可能性は高そうだ。現在のマンパン砦における衛兵たちの勤めっぷりは見事なもので、じっくりと時間をかけて――それこそ十年以上、世代が一つ変わるぐらいに――配下に置いたと思わせるには十分だ。

 第四巻に登場する赤目たちの言葉からは、アヴァンティの森には原始人が住んでいるらしいと読み取れる。イルクララ湖は沼ゴブリンの生息地だ。大魔法使いが軍勢の増強を踏まえて先ず攻略に乗り出したのがティンパン河流域なのだとしたら、その判断は正しい気がする。ちなみにティンパン河の上流はマンパンから見て、アヴァンティの森とは真逆の方向にあたる。

(10/31/20)

★ 彷徨えるクロナーダ

 時間の神という概念がカーカバードにあり、バクランドの昼と夜は太陽と月ではないものによって支配されているという。確かに太陽と月の蛇とは別に時の蛇がいる。つまりクロナーダとは天体の運行と切りはなされた時間概念という事だろうか?
 しかしクロナーダの聖地マンパンはバクランドではなく、ザメンの地にある。クロナーダの力がバクランドでのみ天体を超えるというのは妙だ。昼と夜の異常性が、マンパンでも起きているのであれば疑問はなくなるのだが……。だがカントパーニの門を護る物見頭は「バクランドでは」と限定して言及している。「バクランドより先では」ではないのだ。

 ところでマンパンがクロナーダの聖地であったのは遥か昔のことだと思われる。ZEDに対抗するLIXが「古い詠唱」であったと『超・モンスター事典』には書かれている。ZEDが生み出されたのはさらにその前なのだからこれは間違いがないだろう。そして今、マンパンでは時間に乱れはなく、クロナーダが力を及ぼしているのがバクランドなのだとすると……クロナーダが影響を与える範囲が移動したという可能性はないか?
 しかし『ソーサリー!』の冒険中、バクランドにおいてクロナーダと関連する出来事は、時の蛇との遭遇を除けば皆無である。スロフのように神殿があるわけでもない。クラタ族やホースマンたちに信仰されているとも思えない。聖地が何らかの理由でマンパンから移ったというわけでもないだろう。それでは、時間が乱れる領域が移動する要因になりそうな引き金として、どのようなものが考えられるだろうか?

 思いつくのはZEDのような、時間の異常を引き起こす呪文の行使だ。かつてスローベンのネクロマンサーと呼ばれる術士がZEDを使ったことは確実だ。もしも彼がZEDをマンパンよりも南西――バクランドの方角――で使ったのだとしたら? スローベンがどこかはわからないが、その確率は高かろう。なにしろ旧大陸の地形を見るにマンパンは北東の端に近いのだから。そのためにクロナーダの力が及ぶ範囲が時間の乱れが起きた方角へずれたという想像は、個人的には面白く思える。

 さて、第四巻で我らがアナランダーがZEDを使ったのはマンパンの地であった。再びクロナーダが北東へ戻る時が来るのかもしれない。もちろん、アナランド人の戦士がジンに頼った場合はその限りではないが……。

(11/6/20)

★ アナランド四面楚歌 

「諸王の冠の言い伝え」によれば、冠が盗難された後のアナランドは酷いもので、近隣諸国も疑惑の眼差しを向け、なんと侵略の噂さえあったという。原文を見るに、侵略を企んでいるのは疑惑の目を向ける近隣諸国のようだ。ところで旧世界の地図を確認すると、アナランドに侵略可能な近隣諸国はレンドルランドしかない。奥アナランドがアナランドとは別の国である場合はこれも当てはまるが、おそらくそれはあるまい。例の大塁壁が奥アナランドをも囲っているからだ。
 レンドルランドと言えば、アナランドよりも前に例の冠を授かってフェンフリー同盟に加入済みのはず。フェンフリー同盟加入国が同じく冠を授かったアナランド侵攻を企むとはどういうことだろうか? 冠を失ったアナランドに罰を与えにくるという考えもできないではない。取り決めでは、四年間の冠による統治の後に各国は同盟に加わることになっている。つまり、実はアナランドはまだフェンフリー同盟国ではないのだ。アナランドの失態で冠が失われた今、唯一アナランドと国境を共にするレンドルランドにアナランド征伐の役目が回ってきたとしても不思議ではない。

 もう少し原文を当たってみると、先に出た近隣諸国というワードは実は「neighborhood territory」だということがわかる。普通なら隣の国と訳すのだろうが、隣接する地域という解釈も可能ではないか? レンドルランドの他に、アナランドに隣接している土地は神々の金床、そして例のカーカバードだ。どちらも国としての体は成していないようだが、侵略の野望を秘めている者どもが潜んでいる可能性は高いだろう。

(11/14/20)

【追記】  
『タイタン』によると、レンドルランド東部には国家に反逆する輩が住み着いており、他国への侵略を繰り返して国の恥となっているらしい。レンドルランド東部と言えばモーリスタシアやアナランドと隣接する地であり、つまりアナランドの国境を脅かしているのはレンドルランドという国家ではなく、その反乱分子という可能性が高いことになる。フェンフリー同盟からの制裁のおそれは薄れたわけだが、決してあり得ないと断言することもまたできない。アナランドが重大な失態を冒し、同盟に大きな被害をあたえたのは変わらぬ事実だからだ。

(9/3/22)

メニューへ戻る

次へ進む

前へ戻る