★ 鳥人について

『モンスター事典』によれば、カーカバードに住む鳥人は文明化されているとのことである。確かにピーウィット・クルーらシンの篤志家たちはアナランド人と普通に会話ができる。理性も高い。武器として剣も使っている。反対側の部屋にいる鳥人たちはシンの者ではないが、同じくだ。ZENで上空から砦に忍び込もうとしたときに、鉢合わせしそうになる巡回警備の鳥人たちはイラストを見るかぎりポールウェポンで武装している。マンパン砦においては、彼らは文明化されているのは間違いなしだろう。もっとも武器はあれど、皆一様に衣服は身に着けていないようだが……。飛ぶ際には衣服など邪魔になるだけなのかもしれない。

 ところで、マンパン砦にたどり着く前にも鳥人と遭遇するシーンがある。ザンズヌの山道を登るルートによっては途中で鳥人の襲撃を受けるのだが、こいつは話し合いには応じてくれない。つんざくような鳴き声をあげるばかりだ。武器も持っておらず、どうも文明とは無縁の印象をうける。大きな巣がいくつもある場所での遭遇でもあるので、いよいよ野性味が増す。『モンスター事典』でいうところの、アランシア北部にいるという原始的な連中とは、まさしくこいつのような感じなのではあるまいか? あるいはアランシアの種はもっと文明色が無いのかもしれない。ザンズヌでは巣がいくつか近く固まっているっぽいので、一応は集落的なものがあるようにも読み取れる。いやまてよ。『モンスター事典』にはザンズヌの鳥人たちは高い岩場に作られた迷路状の街に住むとあったはず。どうもおかしい。本編での記述はこうだ。


左側の、ごつごつした崖のさらに上のほうに、大小の枝や苔で作られた奇妙な構造物がある。岩棚に巨大な鳥の巣があるように見える。  (第四巻 パラグラフ380)

 この後、登っていく選択肢がある。それを選ぶと巣に到達できるが、迷路状なんて描写は無い。つまりこれ、実は鳥人の住処ではないのではないだろうか? ソーサリー!本編にも『モンスター事典』にもそんな記載はないが、鳥人が別の鳥たちと仲がいいとか、そんな風習があれば説明はつくかもしれない。この大型の巣は鳥人のものではないが、巣の近くに立ち入った主人公を鳥人が襲ったとしてはどうだろうか?

 しかしこの砦内外の落差は一体何だろう。砦の鳥人たちは衛兵たちなど文明化された他種族の影響を受けていると考えることはできそうだ。彼らは他種族と話ができるし、武器も扱える。外に比べると贅沢に暮らしているので、野性味は薄れていてもおかしくはない。砦に侵入して潜伏している篤志家たちも同様の環境下にあるわけだが、大魔法使いに与しないグループ、つまりシンの鳥人が例の野生味ある連中なのだとしたら、ピーウィット・クルーたちはもう元の生活に戻れないんじゃないかと心配になってしまう。

 シンの鳥人と言えば、大魔法使いが砦の建設前に「話し合いをしよう」と言ってシンの長を呼び出してだまし討ちにしたのだから、最低でも会話ができる程度の知能はあるはずだ。と思ったが、大魔法使いがRAPに類する魔法を使うつもりだった可能性もあるか……。

(11/21/20)

★ リッド

 マンパン砦で出会うことになるノームのリッドは変わり者らしい。というのは、『モンスター事典』のノームの項を見ると「他の者と関わることを嫌う」とあるからだ。「素朴な暮らしに暴力その他の厄介毎を持ち込む他の種族の目に触れることを嫌う」ともあって、暴力沙汰が横行しているであろうマンパン砦にはとても居そうにはない。粘液獣の部屋への番をしているリッドはどう考えても普通のノームではない。主人公の正体に気づいた彼は衛兵を呼び、侵入者を見つけた手柄は自分のものだと主張する。こいつはちっともノームらしくないではないか。
 ノームと言う種族はちょっとした魔法を使えるという。リッドがその腕前を披露する機会は本編中ではなかったが、その腕を頼りにマンパンへ来たのかもしれない。砦内で出会うノームが彼一人であるところを見ると、ジャヴィンヌなどと同じく、ノームらしからぬ野心を秘めて、彼がザメンの道を登っている姿を思い浮かべることはたやすい。

 粘液獣と大山嵐のねぐらへ通じる部屋を持ち場として与えられている現状は、ある程度はその才覚を認められているということでもあるだろう。少なくとも中庭で暇を持て余しているであろう物見や赤目たちとは違う。彼らは哀れなジャヴィンヌをイジメたり、粘液獣にちょっかいを出して憂さ晴らししているわけで、要するに仕事もなく放っておかれているわけだから。
 それに、ここを通らないとヴァリーニャの部屋には行けない。ヴァリーニャは第二のスローベンドアの秘密を握っている。リッドが自覚しているかどうかはわからないが、彼は要所を任されているのだ。

(11/29/20)

【追記】
 リッドに限らず、カーカバードのノームは皆変わり者らしい。『モンスター事典』には前述のように記されているにも関わらず、カーカバードでは彼らは南カレーで集団生活をしている。生き躯を倒した 後、「子供たち」が安心して遊べると言って安堵している様子から確実だ。流石の彼らも、カーカバードでは団結しないとおちおち安心できないのかもしれない。カレーの城壁の内側に定住していることからも、この吹き溜まりがいかに過酷な環境なのかを示していると言えよう。

(8/30/22)

★ アナランド訛り

 第四巻で主人公が発する言葉の発音が変だと指摘されるシーンがある。


「変わった訛りがあるな、人間よ。カーカバードの者ではないのか? カーカバード語がそんなふうに発音されるのは聞いたことが無い」  (第四巻 パラグラフ244)

 ザメンの山地で出会った女サテュロスの指摘だが、これはアナランド訛りということかもしれない。普通カーカバードと言えば、アナランドは含まないだろうからだ。だが疑問は残る。このやりとりが無いままマンパン砦に潜入することは可能。砦の中庭で赤目たちに絡まれ、出身地を問われてごまかすシーンでは特に主人公の発音が問題視されることはない。カルトゥーム隊長相手に恋人話をぶっぱなすことすらやってのけるのだ。女サテュロスにのみ判るような微細な差なのだろうか。しかし女サテュロスという種族は高地ザメンの空気の中でしか生きられない種族だ。彼女たちは他の地からの旅人から外界の情報を仕入れている。マンパンの混沌の力が強まっている今、そもそもザメンを登る旅人は少ないはずだ。微細な訛りの差を聞き分けるほど多くの経験を持っているとも思えない。実に不思議である。

 不思議と言えば、カーカバード語というのも妙だ。主人公とカーカバードの住民たち、さらにはサマリタンらの鳥人、ラドルストーンから攫われてきたというファレンにいたるまで普通に会話が成り立っている。旧世界の中で国ごとに言語が違うという描写は見当たらない。タイタン世界ではどうだろうか? 八幡国とかは流石に言葉も違ってほしい。脱線脱線。
 実はこのカーカバード語という表現、創土訳にのみ登場するのである。創元訳では「そんなしゃべり方をする人間は初めてだ」となっている。気になる原文は以下の通り。


(前略)For never have we heard the language spoken in such a way.

 浅羽さんの翻訳スタンスとして、原文に忠実に訳していくという部分があるので、この「language」(言語)を「カーカバード語」に落とし込んだのだと思われる。

 話を戻そう。山羊は耳がとてもよいらしい。となれば、女サテュロスもまた聴覚には優れているだろう。サイトマスターの視覚並みとは行かなくとも、主人公の発音に違和感を覚える程度には耳の力があるのかもしれない。そう、赤目やカルトゥーム(彼は人間だしな)などとは比べ物にならないぐらいに。

(12/5/20)

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