アナランドから冠を奪ったマンパンの大魔法使いは、その力を以てしてカーカバードの統一をもくろんでいるという。そうはさせじとアナランドから送り込まれた勇敢な魔法使い、あるいは戦士が冠を奪還するというのが『ソーサリー!』の話の筋となっている。
しかしここで別の解決方法が見つかってしまったことを報告せねばなるまい。大魔法使いの本拠であるマンパン砦を無力化させることができたなら、後々冠の回収を別動隊が行うことは可能なはずだ。読者扮するアナランドの勇者は先発隊となって砦を完全攻略してしまえばいい。その鍵は第四巻冒頭で一夜を明かすあの洞窟にあった。三つある洞窟の中に、恐るべき病原菌を宿したシヒンブリの亡骸があるのを覚えているだろう。女サテュロスに恐れられる、かの震え病だ。こいつに罹ると体力の回復が一切できなくなるうえ、脳がやられて自在に魔法を使いこなすことに支障がでる。シハーザの話によれば猛烈な感染力を持つとのことで、こいつを体内に潜ませておけば、砦にたどり着くだけでもう目的を達したようなものと言えないだろうか。マンパン砦に巣食う輩は悪の軍勢にありがちな死者の群れではない。衛兵たちにせよ、鳥人にせよ皆生きている。震え病が広がるのは確実だ。そして、病の二つ目の症状は大魔法使いには致命的となるだろう!
アナランダーとして心残りなのは、篤志家たちを巻き込んでしまうことだ……だが希望は残されている。彼らはジャヴィンヌと仲が良い。そしてジャヴィンヌは病を治す力を持っている。マンパンで虐げられているジャヴィンヌが今更大魔法使いに手を貸すとは思えない。篤志家の翼によって、彼らはきっと逃れることができるだろう。ん? ジャン? ジャンは可哀そうなことになっちゃいそうですね……篤志家には嫌われてるし、翅も切られてるし。ゴメンナサイする他ない。
第四巻最終段で再会することになる豆人のジャン。彼とは旅の序盤で一度遭遇し、ひどい目にあった魔法使いの方々も多かろう。作中でもそのことは明記されており、この再会が決して歓迎すべきものではないことを伺わせる。
しかし彼のほうではそうではないらしい。ジャンはアナランド人のことを好ましい友達だと考えており、わざわざ後を追ってきたのだと語る。なんでもイルクララ湖で一度追いつきかけたとのことだが、渡し船が出てしまったので湖畔を迂回したと言う。あんなところで豆人にまとわりつかれていたら、下手をしたらLIXが無効になって時大蛇で詰んでいてもおかしくはなかっただろう。よかったよかった。
ちょっと気になるのが、イルクララで再び引き離したはずのジャンが、牢の先客になっているということだ。しかも「赤目に捕まった」らしい。マンパン砦にいる赤目が中庭で遭遇するあの三人だけなのかは不明だが、あんな連中が多くのさばっているとも思えない。冒険中に件の赤目たちを殺してしまうことができる以上、アナランド人が中庭にたどり着く前にジャンは砦に潜入していた可能性が高い。一体、いつの間に抜かされたのだ?
考えられるのは、ザメン低地から高地、マンパン砦に至る間の行程だ。険しい登山道で、アナランド人は二日とちょっとかけてこの道を登っている(第三巻のラストで日暮れまで、四巻冒頭でさらに一日、三洞窟から砦の外まででさらに一日)。この間の描写を見てみると、岩に沿って道が回り込んでいたり、うねうねと山腹を登っていっているのがわかる。対して豆人はどうか。連中には翅がある。ジャンもまだこの時点では翅を切られていない。なれば道に沿って登るのではなく、斜面にそってまっすぐに砦へ向かうことも可能だろう。ジャンはアナランド人に追いつきたい一心で、間違いなくショートカットしたはず。そして先に砦に忍び込んで……赤目たちに見つかってしまったというわけだ。
【追記】
もしも中庭で捕まったのなら、第一のスローベンドアを潜り抜けたということになる。ジャンがすごいのか、マンパンの守りが緩いのか……
カレーで奇跡を起こすスラングの聖人。彼は主人公がアナランドから来た者だと見抜いた。しかし、一体どうやって?
カーカバードを旅していると、時折神との対話が発生することに気付くだろう。マンパン砦に侵入する直前にはリブラと話をすることができるし、クーガとスロフはそれぞれの神殿で会話が可能だ。特に後者は信者でも無い者にもお声をかけてくださるということで、タイタン世界の神々はわりと人間とコンタクトを取るものらしい。なれば、カレーの聖人が己の信奉する神と対話をしていないわけがない。神ではないが、マナンカの霊も主人公の任務を知っていた。スラングならもっと色々とお見通しだろう。