★ オセロ

 オセロというゲームを御存じだろうか? 8×8の碁盤目のボードに石を交互に置いていき、挟むことで相手の石を自分のものにしていく遊びだ。ひっくり返すと白にも黒にもなる石が使われる。日本ではメジャーなので、知らない人のほうが少ないかもしれない。ちなみにオセロと言う名は、シェイクスピアの『オセロ』に由来する。
 『オセロ』はシェイクスピアの四大悲劇の一つで、『ヴェニスのムーア人』という副題を持つ。ヴェニスはイタリアの都市。一方のムーア人というのはモロッコなどアフリカの北西部に住む人々で、シェイクスピアの時代ではイスラム教徒のことを指す言葉でもあった。ムーア人故に黒い肌を持ちながらも将軍の地位にある主人公のオセロはヴェニスの元老の娘と恋に落ちるが、部下の恨みを買ったことで悲劇が幕を開ける。

 将軍、女、白と黒……。白と黒の反転はあれど、これはカートゥーム隊長を彷彿とさせまいか。オセロもカートゥームも異郷の地で肌の色の違う部下たちを率いている。カートゥームはオセロが愛し、殺したデスデモーナのような悲劇にこそ見舞われていないが、彼の想い人は失われている。『ソーサリー!』の著者ジャクソンはイギリス人である。そのイギリスの大先輩シェイクスピアが全く影響を与えていないとは言い切れまい。わかりやすい例として、シェイクスピアの『マクベス』に三人の魔女が登場するが、これは間違いなくジャクソンが書いた『バルサスの要塞』や『モンスター誕生』で出会う三人セットの魔女たちの原型だろう。

(6/20/22)

【追記】  
 かの悪名高きシャイロックも、同じ商人であるナイロックに影響与えてるよね。Shylock と Nylock だし、間違いない。

(10/23/22)

★ バーナバスの冒険

 さて、ここに一人の男がいる。名はバーナバス。生まれは定かではないが、今は『シャグラッドの危険な迷路』でひっそりと暮らす身。口を開けば嘘ばかり。カレーに虚言癖の若者が登場するが、アレの類者だと思っていただければ間違いはない。ただしこっちは髭がもつれたおっさんだが。
 何をどう間違えたのか、アナランドの勇者としてこのバーナバスが選ばれてしまったというのが今回お話だ。『ソーサリー!』の冒険において、主人公が吐ける嘘とは何だろうか? 皆様のご存知の通りかのアナランダーは時折ジョークをとばしたりするが、基本的には話さない。だがご心配めさるな。

 さあそうこうしているうちに我らがバーナバスはカントパーニ門を出る。物見頭は内心不安だろうが、まあ送り出してくれる。その心配をよそに彼は順調にカントパーニを抜け、一路カレーへと向かう。やがて日が暮れ、そろそろ野営の準備をしなければならなくなった……ここで何者かが問いかける。「今日食事をとっただろうか?」
 もちろん彼は嘘つきなので、たとえ何も食していなかったとしてもこう答えるだろう。「食べました」と。バーナバスは飯を食わぬとも体力ロスの危険無しに旅を続けることができるのだ。
 バーナバスは魔法を使うこともできる。アナランドの勇者だからだ。そしてここでも彼の嘘は有効だ。「●●を持っているだろうか? もっていなければ術は発動しない」という記述があればしめたもの。彼は嘘で魔法を使うことができる。何たる口八丁だろうか。残念ながら第一巻では「触媒が無いはずだ」と決めつけられてしまうことも多いが、旅を進めるにつれて大魔法使いさながらに魔導を極めていくだろう。

 と、まあ恐るべきチーターであるバーナバスだが、多くのプレーヤーも彼と似たようなことをしたことがあると想像難くない。そう、サイコロの目を偽るという嘘を重ねた覚えがない者だけに、バーナバスを責めることが許される。我らの多くもまた、バーナバスなのだ。もっとも、戦闘でサイコロを振ることすら省略してしまうケースが殆どではあろうが……

(6/20/22)

★ 敏腕衛兵隊長

 ios版の『ソーサリー!』では、スローベンドアの配置が原作とは異なっているという。どうやら4枚のドアが連続して設置されているらしい。これでは「スローベンドアは見てそれとわからない」という部分が台無しで、砦攻略から緊張感が失われると思うのだがどうだろうか。

 しかしながら、原作におけるスローベンドアの配置は中々に酷い。ここを守る者たちの身になって考えてみると、ドアによって隔たれたセクション間での連携は取れないというのは致命的だ。それにドアを通るための秘密は限られた者しか知らない以上、多くの衛兵が次々と記憶喪失になったり、消し炭になったりしているはずである。
 それだけじゃない。食堂は第二と第三のドアの間にしかない。尋問のために拷問部屋へ捕虜を運ぶのにもドアを通過しなければならない――そんなことは不可能に思える――し、そもそも各セクションに散っている衛兵を束ねるのはたった一人の隊長だ。砦の日常業務において混乱は必須である。どうかんがえても大魔法使いの身を守るどころか砦の守備システムをぶちこわしてそうなスローベンドアだが、そんな中、秘密が漏れることなく営みが続けていられることに感嘆せざるを得ない。カートゥーム隊長は滅茶苦茶有能だと思う。

(6/20/22)

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