★ 呪文詠唱

 アナランドの魔法を行使する場合、両手の自由が必要というのはよく知られたところではある。実際に捕らわれの身となり、両腕を拘束された状態で魔法を使おうとしても失敗するし、カレー南門の牢屋に入れられていた老人は腕を失ったことで魔法使いを廃業したと語る。

 ここでふと、アナランドの48の魔法には呪文詠唱があるのかどうかが気になった。作中の魔法を使う描写を見ていると、いわゆる詠唱というものは出てこない。各魔法はアルファベット三文字で表現されているが、これが出てくるのはあくまで魔導書の中と、選択肢においてのみなのである。「ギラギラギラギラ、ギラリンコ」とか、「キー・オーブス・プラタ・ロー 蝙蝠の羽より来たれ夜魔の王 我が爪に宿り 契約の効力となれ」みたいな具体的な呪文詠唱がないということだ。『ドルアーガ三部作』では呪文名をそのまま詠唱として使っている台詞描写があるが、『ソーサリー!』にはそれもない。実際のところ、アルファベット三文字での表記はあくまでゲームシステムの側面が強く、著者ジャクソンが好むエピック・ファンタジー的な魔法描写には合っていないように個人的には感じているので、これはわざとなのだとは思う。
 その証拠に、いわゆる呪文詠唱的な描写が『ソーサリー!』に無いのかといえばそうではない。カレー北門を開けるための四行詩はまさにといったところだ。「アルビル・マダルビル」も罠ではあったが、いかにもな詠唱だろう。しかしその一方で、大魔法使いの影武者との魔法合戦などを見ていると、詠唱無しに魔法を行使している様も読み取れるのは事実だ。ではアナランドの魔法はどうなのだろうか。

 冒頭のルール説明を改めて見てみよう。旧訳では「呪文」となっているが、新訳では「術」である。『スペルブック』も、それぞれ「魔法の呪文の書」「魔法書」となっている。これだけでも、旧訳では確実に詠唱が必須であろうことは読み取れる。呪文という言葉は「文」という文字が含まれている通り、言葉だからだ。実は新訳でも説明文において「術や呪文を教わった」とあるので、やはりアナランドの魔法は詠唱を伴うものらしい。そもそも原文の「Spell」が魔法の呪文、まじないの言葉という意味合いなので、これは断定しても構わないだろう。

 先の影武者との戦いは負け確イベントとなっているわけだが、詠唱の有無の差は大きかったに違いない。
 冠奪還の任務で主人公は詠唱無しの魔法の存在を知ったわけだが、このことはアナランドに大きな影響を与えるだろう。今後アナランドの魔法がさらに強力になっていくのは確実だ。

(10/16/22)

★ 『ソーサリー・キャンペーン』について

 色々と考察のネタにさせていただいている『ソーサリー・キャンペーン』であるが、個人的には二次資料と考えております。なんというか、単にゲームブックの内容をTRPGのシナリオにしてみました色が強いのですな。ゲームブック本家で書かれていたことの外へは出ていかないイメージというか。例えばマンティコアの洞窟やザメン山地の対岸の道などの顕著なのですが、ゲームブックの外へ足を延ばそうと思うと、「そこには何もない」と断言されてしまう感じなのです。本当はカーカバードってもっと広いはずなんじゃないかと、そう思えてしまうのですよな……

 というわけで、今後も面白いところは拾いつつ、でもそうでないとこは無視しちゃう感じの扱いになってしまうかと思いますです。都合のいい話かもしれませんが。

(10/20/22)

★ 『魔法書』の怪物たち

 『ソーサリー!』が誇る48の魔法。これらの魔法を収めた「アナランドの魔法書」には、それぞれの説明に合わせてイラストがついている。これら48のイラストには術者のみならず、巨人やゴブリンとその類型と思わしきデミヒューマン、クリスタタタンティ特有の例の髪形をした人物などが描かれている。そして、その中には本編では登場しなかった怪物たちの姿を見出すことができるのだ。アナランドの書物であるわけだから、これらの怪物は旧世界に住んでいるか、あるいは伝わっていると考えることができるのではないだろうか。
 実際にいくつかの怪物は『超・モンスター事典』で取り上げられている。GODの項に描かれた翼ある大蛇は「七匹の大蛇」に、FIXの昆虫は「キラー・ビー」に添えられているといった具合だ。七匹の大蛇について説明は不要だろう。キラー・ビーはアランシアに住むとあるので、知識として伝わってはいてもアナランドでは見られないようだ。

 では残りの連中を見ていこう。魔法の書をめくっていくと、ZAPやHOTには術者の手が描かれているだけだが……LAWで何者かに出くわすことになる。特徴的な眉毛と鼻が印象的で、デミヒューマンの一種であることは間違いない。よく見ると足の指の間に水かきがあるのがわかる。だがスリックやココモコアではないことは確実だ。アナランドにあるリブラ湖か、そこから流れるスクールフィッシュ川(以上の地名は『タイタン』に由る)、あるいは海に暮らす種族だと思われるが、剣と盾を携えているので、湖や川に住んでいるのではないだろうか。水の流れが激しい環境だと、手に武具を持つというのは不便な気がしてならない。
 実はこやつ、沼ゴブリンの可能性もないではないが、第三巻のイラストと並べて同種族とするにはちょっと無理があるような気がする。

 次はJIGだ。頭頂部に角を持つ生き物が笛の音に合わせて踊っている。全身に毛が生えていて、長い尻尾が二本。腰に飾り帯だか草摺だかを着けているが、あとは素っ裸だ。なんとも不思議な奴である。

 DOZには二本足のケンタウロスが現れる。よくいるタイプのように馬の首から上半身が生えているのではなく、普通に馬の上半身――つまり腹部から前――が人型なのだ。実際このタイプのケンタウロス像は古いギリシャの壺とか皿にも見られるので、別に魔訶不思議というわけではない……が、マイナーであることは間違いない。タイタン世界にもこのタイプがいるということになる。

 FOGで見られるのは、所謂サチュロスっぽい生き物だ。角度的に胸が隠れているため、ワンチャン女サチュロスの可能性がある。だが鼻から口にかけての描かれ方が異なるので、これは別種族と考えたほうがいいだろう。まあ女サチュロスなんていうぐらいだから、普通のサチュロスも存在していると思われる。でなければ女サチュロスなんて呼び名にはならないはずだ。とは言えこいつがサチュロスなのかと言われると、現状では「わからない」としか答えようがない。

 GAKとRAPには一本角を備えたヒューマノイドらしき頭部が描かれている。構図のせいで身体のほうがどうなっているのかは不明だ。
 この二体は明らかに角の形状が異なるが、個体差の範疇かもしれない……そうか、鬼(オーガ)の可能性もあるわけだ。何しろ「同じオーガは存在しない」というぐらいだから、よくわからん奴は取り合えずオーガにしておけという乱暴な分類もありっちゃありか。

 KINの項に登場するのは、一見普通のゴブリンか何かのように思えるが、よく見ると足先が割れた蹄になっている。防具に身を固めているので体毛などはわからないが、悪魔的な種族ではないだろうか。あるいはオーガだ。角は兜の意匠かと思ったが、もしかしたら自前のもので、穴あき兜を使っているという可能性も残る。

 最後に紹介するのはHUFの項に登場する動物だ。熊みたいな体格の獣で、立派な二本の角を備えている。オーガと言えるかもしれない。牙や爪もあり、本来はさぞ獰猛な生き物なのだろうと思うのだが、はるか遠くへと吹き飛ばされる姿なのでどうにも可愛らしい。

 実は他にも亜人種が多く描かれているが、普通にゴブリンやオーク、ホブゴブリンなのでは?という連中ばかりなので、今回は明らかに知られていない種に限定して紹介させていただいた次第。今後AFF2関連の資料が充実していけば、彼らの詳細も明らかになることがあるかもしれない。あるいは、未だ翻訳されていない資料に既に収録されていたりする可能性もあり得そうだ。

(10/21/22)

メニューへ戻る

次へ進む

前へ戻る