★ 蟻団子

 変異現象団子(ミュータント・ミートボール)を頬張りまくったアナランダ―は、「美味かった」などとほざいている。こいつはどうやら普通に食えると判断したらしい。食ってみたら意外といけた、という感じだったのかもしれないが、少なくとも「何とか食えそうだ」ぐらいには思っていたのだろう。何しろ一掴みも食しているのだから。
 この団子は原文だと Mutant Meatball であり、つまりは Mutant Meatball 、蟻(ant)の肉団子と勘違いしたことになっている。アナランドでは蟻を食うことに抵抗が無いということだろうか?

 そこでちょっと調べてみると、蟻は意外と世界各地で食べられていることがわかった。およそ何でも食してそうな中国はもちろん、東南アジア、南米、ヨーロッパまで様々な食べ方をされているようだ。すりつぶしてパンに塗ったり、調味料的に使ったり、酒の材料になったり……そして、おそらくアナランドでは肉団子にしているというわけだ。
 薬効成分もあるらしく、こうなってくると肉体変異を起こすという効果もイメージが繋がって来るというものだ。ゲーム中の説明でも「スローベンの薬剤師」の手によるものとあり、まさしくという形となっている。 Mutant という綴りを使ったというだけでなく、イギリスの読者にとっては、いかにもな言葉遊びなのかもしれない。

(1/22/23)

★ ジグ踊り

 カレーのカーニバルで踊られているのはジグであると明記されている。この「ジグ」というのは、イギリスやアイルランドにおける民族舞踊の一種で、笛の根を聞いたものを躍らせる呪文 JIG の元ワードも間違いなくこれであろう。
 これが単に「踊り」「舞踊」であるのならスルーしていい。だが「ジグ」となると、先に述べた通りイギリス周辺の踊りに限定されることになる。これまで様々な角度から考察し、カーカバードは東方イメージで作られていると繰り返し述べてきたわけだが、このジグの存在により、やはり西方の可能性が出てきたことは無視できまい。

 一応辻褄が合うような抜け道はないかと探ってみよう。カーカバード=東方という考えは、決して旧世界全域に渡るものではない。おそらくアナランドは西洋風のはずだ……カーカバードが異郷の地であることを強調しようと思うのであれば、その描写はプレーヤーが扮するところの主人公が持つ常識とはかけ離れているほうがいい。つまり、主人公の故郷であるアナランドは常識的な場所、読者にとって、なじみ深い西洋世界をベースとしているのではないだろうか。『ソーサリー!』四部作を書いたジャクソンはイギリス人作家であり、最初に書かれたのはもちろんイギリス人の読者に向けてであった。
 西洋風の場所であれば、ジグが踊られていてもおかしくはないだろう。つまり、あとはアナランドなどのカーカバード外からジグ踊りがカレーに伝わる可能性があれば問題解決というわけだ。

 第二巻『魔の罠の都』冒頭部によれば、カレーという街の起こりは、大河ジャバジを行き来する船を狙う川海賊の野営地であったという。やがて町へ、都へと発展し、今では遠いカーカバード海からも船が上ってくる。ジャバジを渡るにはここしかないと言われてはいるが、北門を閉ざしている現状、陸路の要というわけではなさそうだ。しかし、港へは様々な品が各地から集まってきているだろう。なれば、異文化の持ち込みも日常茶飯事に違いない。船乗りたちが旅の宿でジグを踊ったことも一度や二度ではあるまい。カレーの中心市たる港で定着した結果、街のカーニバルでも踊られるほどになった……という流れは十分あり得るのではないだろうか。

(1/29/23)

★ 隠された塔

 マンパン砦に隣接して建っているが、魔術によってその姿を隠されている「大魔法使いの塔」。少なくとも、侵入者であるアナランド人の目には見えないようにしてあったわけだが、普段はどうだったのだろうか?と疑問が沸いた。

 これまで自分は、大魔法使いはこの塔の存在を砦の者たちにも隠していると考えていたが、もしかしたら違うのかもしれない。そう思いあたった根拠がいくつかある。まず第一に、件の塔に影武者がいるということ。表舞台に立たない影武者に何の意味があろう。そしてもう一つ。捕らわれたアナランド人が銀の笛を吹いたとき、ピーウィット・クルーら篤志家たちが塔にやってきたときの反応だ。使命を果たしてないのに呼び出したことに怒る鳥人たちだが、今まで知らなかった塔があったという驚きについては何も触れていない。むしろ、彼らは普段からこの塔の存在を知っていたとするほうが自然な描写に思える。要するに、侵入者であるアナランド人対策として、大魔法使いが一時的に塔の姿を消したのではないかという仮説だ。

 衛兵隊長カートゥームが、「大魔法使いの住処は第四のスローベンドアを入口とする別の塔」だと認識していることがネックとなるが、この点に関しては、大魔法使いの塔はそのまま「牢獄塔」であると普段から知られているとすれば問題なさそうだ。先に謁見用の仕掛けについて考察してみたが、普段は影武者がファレンの部屋を使っていると考えたほうがスマートな気がする。第四巻の表紙に描かれた大魔法使いの影武者は、振り子を手にしている。振り子は幻影の呪文であるKIDの触媒だ。主人公をだますために、本来の住居をみすぼらしく偽り、そして牢獄塔の尋問室を豪華な書斎に変える……そんなことも容易かろう。

(2/5/23)

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