魔法のかかった大理石の像であるラムは、普通に考えればゴーレムの一種だ。だが『モンスター事典』に記載された石ゴーレムは技術点8、体力点11であり、技術点13、体力点12を誇るラムの力はあきらかに異常だ。攻撃回数も前者が2であるのに対し、ラムのほうは4。しかもダメージ二倍の特性持ちとされている。以上の数値は『超・モンスター事典』におけるラムのデータであり、ゲームブック本編では問答無用で痛めつけられるイベント敵となっている。どうあがいても勝つことはできない。祝福の槍を持っていても事態は一切好転しない。
両者の力の差は明らかであるが、似ている点も多い。どちらも一塊の石から彫り出されていて、魔法使いによって生み出される存在だ。こうなると術の差、あるいは単純に術師の力量が出来に表れていると考えたくもなってくる。『モンスター事典』で紹介されているゴーレムは一般的なものであるのに対し、ラムはかの大魔法使いの手による唯一無二の被造物だ。しかもおそらくはスローベンの秘術が使われている。秘めた力に雲泥の差があるのは当たり前に思える。
さて、タイタン世界にはやはりゴーレムの類と思わしき怪物が他にもいる。『雪の魔女の洞窟』に登場する結晶戦士は石英でできているが、やはり一つの塊から彫り出す必要があり、力ある魔法使いによって生み出される魔導生物だ。『モンスター事典』によれば技術点11、体力点13と、先に見た石ゴーレムとラムの間に当たる力量を持っている。面白いのは、結晶戦士は二人の人物と印を一つ覚えることができ、印を持たぬそれ以外の者には襲い掛かるという記述。主である魔法使いの縁者や通行許可を得た者は通すということで、たしかにこれは歩哨らしい特徴だろう。こういった機能がないと、罠の道ならともかく主だった通路に配置することはできない。迷宮運営に支障が出てしまう。
ここで眠れぬラムに話を戻そう。『諸王の冠』の記述からは、どうやらラムもこの結晶戦士が持つ機能を備えているように思えてならないのだ。第四のスローベンドアの秘密を任されている衛兵隊長カルトゥームはドアの鍵を持っている。実際ゲーム中でアナランド野郎を伝令だと信じ込んだカルトゥームが自ら大魔法使いのところへ案内しようとする展開があるが、これはラムの前を通って鍵をあけるということだろう。その際、ラムの突進を必死で躱しながら鍵を開けるというのは考えにくい。結局変異ゴブリンたちが暴れているという報告が入り、彼はアナランド者に鍵を渡すことになるのだが……このことから、鍵を持っていればラムの前を通過できるのではという想像が湧いてくる。そう、この鍵には17という数字が施されている。もちろんパラグラフジャンプのためのものだが、この17という装飾こそが「印」という可能性を見逃すことはできない。我らがアナランダーが鍵の「印」をラムに突きつけるという機転を見せず、ただただ翻弄されてしまったのは残念だ。
こうなると気になるのはラムが覚えているであろう「顔」だ。一人は大魔法使い(以前の姿)であることは間違いない。スローベンドアを導入した張本人だからだ。では、いま一人は誰か。現在大魔法使いが隠れ蓑にしているファレンは最有力候補だが、ラムが造られたときにはまだファレンはマンパン砦へ攫ってこられていなかっただろうという問題がある。覚えさせる「顔」の上書きができるかどうかは不明だが、これが可能であるのならば、現在ラムが覚えているのはファレンに違いあるまい。
先に見たカルトゥームはどうだろう。例の鍵が本当に「印」なのだとしたら、カルトゥームは「顔」ではなく「印」を持つことでラムの存在をクリアしているといえる。わざわざ「顔」を覚える意味もない。そもそもカルトゥームを大魔法使いが信用しているとも思えない。奴の慎重さ(臆病さともいえるが)は相当なもので、誰一人信用してないぐらいだ。となると、最初から自分以外の「顔」は覚えさせてないという線が濃厚だろうか……きっとそうだ。それが最もらしい気がする。
【追記】
ほぼ同じ内容を以前あげてあったことに気付きました……5/13/18にUPした【追記】の部分だ。こいつぁやっちまったな。
ディンティンタを絡めるあたり、あっちのほうが面白い気がする。精進せねばーねばーねばー
『ソーサリー!』でお祭りといえば、カレーのカーニバルがすぐに思いつく。多くの者が輪になってジグを踊り、スリが横行するほどの賑わいを見せていたこの催しは、普段から他人を信用せず、罠を張って暮らすというカレーの住人とは思えないような開放感あるフェスティバルであった。
その少し前にビリタンティを通過した時も、ちょうど子供祭りの日に当たっていた。ジャン曰く「年に一度のお祭り」とのことで、どうやら我らがアナランダ―が旅立ったのは、旧世界における祭の季節だったということらしい。『タイタン』によれば、カーカバードの子供祭りは暖の月、最初の高曜日に行われるという。同書には暦の解説もあって、「暖の月」は6月に当たるようだ。高曜日は一週間の7日目ということで、6月上旬にソーサリー!の旅は始まったことになる。
そういえば、件のアナランド人がマンパン砦に忍び込んだ時、一部の衛兵たちは酒を飲んで居眠りをしていたり、十あがりや磁石の柱での遊戯に興じていた。これはもしかしたら、砦内で催されていたある種の季節祭――多くの者が浮かれて気の緩む時期だったのかもしれない。ジャビンヌも「物乞いの宴会」と言っていたし、赤目たちもエールの盃を手にしていた。あの粘液獣イジメも、お祭り特有の高揚した空気の中で行われる遊びと考えることもできそうだ。それに、晒し台に繋がれた戦争屋の処刑も数日後には行われる予定だった。古くは死刑には見世物としての側面もあったし、タイタン世界において同様だとしても、それはそれで順当な気がする。
衛兵隊長カルトゥームのある言葉に違和感を覚えるのは自分だけだろうか? アナランド人に見事に騙された彼は、自ら大魔法使いのもとへ案内すると言い出すのだ。しかし、第四のスローベン・ドアを超えた先にはファレン・ワイドが閉じ込められているという「設定」になっている部屋があるきりである。その向こうとなると、砦の外へ出る隠し通路しか存在していない。一体カルトゥームはどこへアナランド人を連れて行こうとしていたのだろう?
考えられる可能性は二つある。実はカルトゥームはこの侵入者のたくらみを見抜いており、案内すると油断させて捕縛するなり殺すなりするつもりであったとみることもできるだろう。以前考察してみた通り、眠らぬラムがカルトゥームを攻撃しないのであれば、ラムに翻弄され、絶望して死んでいくアナランド人の様子を楽しもうとしていたのかもしれない。砦で最も悪知恵が働く3人の内の1人とシャドラクをして言わしめる彼なら、そんなことを考えていても不思議ではあるまい。
だが、ここで考えたいのは衛兵隊長が本当に大魔法使いがこの先にいると信じている可能性のほうである。この謎に何かしらの理由付けができれば、カルトゥームの存在に説得力が増すからだ。正直、今のところ彼は居もしない大魔法使いを守っているという、少々間抜けな男であることは否めないと思う。
時の大蛇はこう言っていた。「大魔法使いは本来の姿をしてない」と。実際、大魔法使いはラドルストーンから攫ってきた発明家であるファレンの姿に身をやつしているわけだが、ここで問題になるのはファレン・ワイドという人物は架空の存在ではなく、その肉体さえも存在しているということである。すなわち、大蛇が言う「本来の姿をしていない」というのは、変幻自在な変身ではなく、あくまでファレンという「肉体」を隠れ蓑にしていることを意味しているだろうということだ。つまり衛兵隊長カルトゥームが案内しようとしている先にいるのは、やはり冴えない中年男性であるファレン・ワイドということになる。
実によろしくない。大魔法使いがせっかく身を隠しているのに、これでは台無しではないか。
大魔法使い側が講じている対策として考えられそうなのは……実際には姿を見せずに、しかし確かにそこに大魔法使いがいると思わせる方法だ。ちょうど第四巻には使えそうなギミックが存在している。大魔法使いの塔の中、ヒドラの死体がある部屋から先に進もうとすると、扉の前で警告の言葉が響くのだ。この言葉は壁から発せられているので、これと同じ仕掛けをファレンの部屋の入口に仕掛けておけば、扉越しに謁見しているように感じさせることも可能だろう。
もちろん、我らがアナランド人がファレンの部屋に入ったとき、そのような仕掛けがあるような描写は皆無だった……しかし大魔法使いは侵入者の正体を見破っていた。影武者はもちろんだが、ファレンに潜む冥府の魔王とて同じだろう。アナランド人が自ら罠にはまるよう、だます気満々だったのだから確実だ。だとするのなら、あの場は無害な中年を演じ切らなければならなかったはずだ。謁見用の演出をひっこめておく必要があったのは明白であろう。