★ 魔法剣士を考える

 『ソーサリー!』には2つのゲームモードがある。初級ゲーム「戦士」と、上級ゲーム「魔法使い」だ。技術点に優れ、何事もサイコロで解決していく戦士に対し、魔法使いはゲーム開始前に術の勉強が必須となる。技術点は戦士に比べて劣るが、48の魔法を駆使することで物事に対処していくことになる。
 どっちのほうがゲームとして面白いかといえば、断然魔法使いに軍配があがるだろう。戦士の冒険も、普通のゲームブックとして充分な面白さを持つが、シリーズ名にもなっている魔法を操ってこそこの本を楽しめるというものだ。事実、魔法使いにしか関係ないイベント(ジャンとの出会いなど)はあるが、戦士ならではのイベントは存在しない。(ヴィシュラミでの謎の声は、魔法使いでない戦士へのフォローイベントなので、戦士の醍醐味ではあるまい)

 さて、中級ゲーム「魔法剣士」を考えてみた。魔法剣士を普通に考えれば、「戦士の技術点」と「術」をフルに使える万能戦士が先ず浮かぶが、これは正直面白くない。完璧超人はゲーム性を殺すだけだし、なにより戦闘はサイコロ無しで勝利できる「凄腕の暗殺者」がカーカーバードを横行しているこの時代、中途半端なハイスペックに需要は無い。

 戦士の技術点は1D6+6。対して魔法使いは1D6+4。ならば中級である魔法剣士の技術点は1D6+5が妥当だろう。次に術であるが、「触媒の必要な術は使用できない(必ず失敗)」というのはいかがか。これなら専門職である魔法使いの優位性を残すことができる。使用可能な術の数は20。

 魔法使いと同じように術の勉強は必要であるが、実際の冒険では技術点を多くもらえる。いい感じに中級な気がするのだが、如何なものだろうか?

(6/6/10)

【追記】  
 指摘を受けて気付いたのであるが、この魔法剣士なる職業では第三巻で詰まることになります。(浅い考察での提案であることがバレてしまったw)そう、触媒有りの呪文が使えないために、沼ゴブリンとの意思疎通ができず、また戦士でないために天の助けも得られない。

 半端者は時大蛇に食われる運命。やはりエキスパートを選んだアナランドは正しかったのだ。

(7/25/12)

★ シンヴァ卿からシャム、眠らぬラムを考える


眠らぬ雄羊(ラム)をば眠らせたくば
偽者(シャム)と呼ばるる者探せ

 カレー納骨堂で死霊となっている哀れなシンヴァ卿。生きていたころはカレー第五貴人であったこの男、彼はいったいいつ頃生きた人間なのだろうか? シンヴァ卿から聞きだせる詩には、シャムと眠らぬラムについての情報が含まれているため、彼が生きた年代を特定するということは、シャムとラム両者についての考察の足がかりになるということである。

 さて、『ソーサリー!』本文中からシンヴァ卿についてわかっていることは
  ・老人である。
  ・かなり長い間呪われていた。(本人談)
  ・シャムとラムに関する詩は遠い昔に覚えた。(本人談)
  ・吸血鬼との噂のあるカレー第三貴人が、最近になってシンヴァ卿に呪いをかけた。(海賊船水夫談)
  ・彼が眠っている納骨堂は古びている。

 いきなり矛盾しおった(汗
 まぁ酒場での噂話も含まれているし、それに時間感覚は個人それぞれであろう。呪われた者にとっては少しの月日でも永劫にも感じられたりするのかもしれない。となると、実はシンヴァ卿が死霊となったのはここ数年以内のことで、彼が詩を覚えたのは遠い若かりし日という考察が成り立つだろう。シンヴァ卿が人間以外の種族であるとは、本文中のどこにも明記されていないので、彼は人並みの寿命を持っていたと考えるべきだ。つまり、50~70年ぐらい前に、彼は詩を覚えたという可能性が高い。シャムとラムはそれ以前から知られていたということになる。

 マンパン砦が建設された時期は『タイタン』の記述から計算すると50年~60年ぐらい前あたりだろう。シャムは外見こそ中年女だが、変身に長けた魔法使いである以上、実年齢を図り知ることは不可能と言える。手がかりとしては、第三巻に登場する羊皮紙<バク地方の秘密>に老魔女と明記されていることがあげられるだろうか。

 件の詩が、シンヴァ卿が覚えるどれぐらい前に作られたのかという問題であるが、これに関しては何の手がかりも無い。よって、シンヴァ卿の目の前で詩が作られ、その場で卿が覚えたという可能性が成立する。マンパン砦が作られ、その過程(あるいは直後)で大魔法使いによってラムが配置される。シャムはその危険性を感じ、即座に対抗手段を講じる。同時に詩がつくられ、シンヴァ卿の耳に入る。シャムがマンパンに組する者ではなく、主人公にラムや大蛇達に対抗する術を教えてくれる存在であることから、上記のような想像もありえると思われる。単に「貴様の術よりも上を行ってみせる」という魔法使い同士のプライドの問題かもしれないが。

 では次の可能性にいこう。上の仮定では「シンヴァ卿の時間感覚」が通常のそれとは違うという解釈をしているので、それを改善してみようと思う。つまり、シンヴァ卿はそれなりに昔に呪われたと考えるのだ。すると問題になるのは酒場の噂である。第三貴人は最近になってシンヴァ卿を呪ったというが……。噂が一部デマというのは簡単だが、それでは強引過ぎる。ならば噂の出所が第三貴人自身の言葉なのか、そうでないのかが問題となるのかな? 第三貴人は吸血鬼とのことで、もしそうなら時間感覚が常人とはズレているかもしれない。彼にとっては最近でも、実は(シンヴァ卿がかなり長いと思うほどに)昔の出来事なのでは?

 ……もはや強引な解釈というか想像になりつつあるが、一応これだと「古びた納骨堂」「シンヴァ卿自身の言葉」に説明が成り立つ。なにより、シンヴァ卿の言葉は本人から発せられたものであるのに対し、酒場の噂はあくまで噂である。しかもカレーに常駐してはいない海賊船の水夫の口から聞かされたものなのだ。信憑性という観点から考えれば、シンヴァ卿が死霊となったのは、それなりに昔であると考えたほうがいいのかもしれない。こちらの説を取るならば、シャムとラムに関する情報もその分時代をさかのぼることになり、マンパン砦建設以前からラムが存在していたことになる。シャムの張り合っていた相手は、マンパンの大魔法使いその人ではなく、ラムを作った何者かということだ。確かにシャムはマンパンそのものをライバル視しているというには程遠いスタンスの人物である。主人公への手助けも、その使命に同意したからというわけではなく、あくまで主人公からの贈り物への返礼なのだから。

 ここで、もう1つ問題が浮上してきた。
 シンヴァ卿がはるか以前に没した人物であるならば、北門開放の呪文の一節を「現在」知る者がいないということになる。第一貴人が全てを知っているとはいえ、北門の機能としては不完全な状態になってしまっている。この状況を説明するには以下のような仮説がなりたつだろう。
  ・ゲーム中には登場しないが、別に「一節」を伝える人物がカレーに住んでいる。
  ・シンヴァ卿を死霊とすることで、無理矢理「一節」を世に残している。
 前者であれば、ロルタグが「必要かもしれない」といって渡してくれる緑色のかつらの出番をカレー内に作れるかもしれないし、また後者ならば、シンヴァ卿が呪われた理由は第三貴人の不興を買ったからではなく、呪文をめぐる陰謀に巻き込まれたからと想像することができる。カレーをよりドラマチックに仕立てることに一役買ってくれるだろう。

(8/29/10)

【追記】  
 眠らぬ雄羊についてだが、実は大分前から「結晶戦士」の亜種ではないかと考えていた。簡単には傷つかず、侵入者に対しての防御として魔法使いが作り上げるという点がラムに類似していると思うのだ。(ラムは大理石、結晶戦士は石英で作れているという差はあるが)

 今回改めてラムについて考えるにあたり、このエントリーを思い出して読み返してみたのだが……やはりシャムの存在を考えると、ラムが作られたのはマンパン砦の建設よりも前と考える方が自然な気がする。
 ラムはスローベン・ドアの構成に必須の存在ではあるが、ドアそのものではない。あくまであの両開きの扉がスローベン・ドアなのであって、ラムはドアが作られる前から存在していても問題ないのである。

 結晶戦士は人間二人と、印を一つ覚えることができ、それらを提示する者に対しては襲い掛からないという。アナランドの勇者を「魔法使いへの伝令」だと勘違いしたカルトゥームは扉の鍵を渡すが、「使い終わってから大魔法使いに鍵を戻しておいてくれ」と言う態度からは、ラムによる妨害が無いものと捉えているフシがある。つまり、魔法使いの伝令であればラムは襲い掛からないと考えられるということだ。結晶戦士でいえば、印にあたるものを伝令なら持っているということだろう。
 ラムが覚えている人間二人のうち、一人は間違いなく例の影武者であると思われる。では、もう一人は誰か? 砦を建設する前、ラムが作られた時に大魔法使いの信認を得ていた誰か。それはおそらく今のマンパン砦には居ないだろう。個人的にはそれがシャム、バクランドのディンティンタだったら、面白いなと感じているところだ。

(5/13/18)

★ 死霊のしくみ

 『ソーサリー!』には死霊と呼ばれるモンスターが二体登場する。一人はいわずと知れたシンヴァ卿であり、いま一人は幻術士レンフレンによるまやかしである。ここでは偽者に関してはあつかわず、シンヴァ卿に限っての話としよう。

 この「死霊」であるが、皆様はいかなるイメージをもっているであろうか? 自分は死霊という響きと、イラストのイメージも手伝ってかいわゆる霊体だと思っていた。だが、あらためて読むと……なんと主人公、倒した死霊を「棺桶に放り込んでいる」ことに気がついた。つまり、実体があるわけだ。
 よくよくイラストを見ると、確かにナイフを握った手と、ローブの中からのぞく顔ははっきりと描かれている。だがローブのすそからのぞく足は無く、浮かんでいるように見える。想像するに、死体の上半身が核となり、霊気のローブで覆われる形で構成されているのではないだろうか。主人公は戦闘後、この上半身を棺おけに投げ込んだと想像するものである。

 ところで、この死霊には銀の矢のみが唯一効く武器として設定されている。つまり核である肉体部分をいくら攻撃しても意味は無いということなのだろうか? 死体の一部を核として霊気がシンヴァ卿を維持しているのであれば、この核は極めて重要な部位であるはず。霊気が消し飛んだ後、この部分に手で触れることが可能であるのだから、戦闘中には「触れることができない」と考えるのが自然ではないだろうか。

 霊気のローブは己を死霊として結び付けてる「記憶」のよりどころとしての核、すなわち死骸部を絶対防御する役目も持っているのだろう。

(9/14/10)

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