ふと、『魔の罠の都』付録の剣社通信で、ジャクソンが「シャムタンティの村々はネパール地方がモデル」と 語っていたのを思い出した。そういえば、シャムタンティの大塁壁は万里の長城がモデルに違いない、と思考が飛んで、そこから次々と同じようなモチーフを見出したので驚いた。もちろん、中にはこじつけも多いが、そこは「いつものこと」と、おおめに見ていただけるとありがたい。
つまり、カーカバードのモデルとして、中国を中心とするアジア圏の情景を見出したのだ(近年における中国とその周辺の政治事情はさておき)。ネパール地方の山々はそのまま雲峰山脈を連想するには充分だし、 荒涼たるバクランドはタリム盆地やゴビ砂漠を彷彿とさせる。遥か内陸まで延びるジャバジ河も、黄河や揚子江のイメージと重ねることができるではないか? 「長城」が隔離する匈奴の地には、バクランドのセントールならぬ騎馬民族が駆け回っていたのだ。こじつけの部類に入るだろうが、白と黒に彩られた熊――スカンク熊――は、どことなくパンダを思わせる。そういえば格闘ゲーム『鉄拳』シリーズの熊/パンダには放屁技があったな。
それになんといっても「壜の魔物」の存在が大きい。戦士でクリアするには必須の条件となる、ZEDの代わりの魔物である。創元版では精霊と訳されているこの存在、原文ではジニー、つまりランプの魔神である。『アラビアンナイト』のジンなのだ。中国関係ないじゃんと思うなかれ。実は『アラジンと魔法のランプ』の舞台は東の大国、 中国なのである。ディズニーのは改変ですので。
最後に、これは蛇足になると思うが『中国の鳥人』という映画のことも思い出した。面白い映画であった。なお、この映画のは鳥人といっても、いわゆるバードマンではないと、一応補足させていただく。
【追記】
『ソーサリー!』の冒頭を飾る「<諸王の冠>の言い伝え」の中で、冠を発見したフェンフリーのチャランナが世界の東半分最大の帝国の皇帝となったと明記されている。やはり東方文化圏としてカーカバード周辺は設定されたということだ。そもそもカーカバードという地名そのものが中東を思わせる響きである。シャムタンティの村々がヒマラヤに実在する地名であることや、この項で取り上げた様々な要素がその証拠と言えよう。
おそらくジャクソンは『火吹き山の魔法使い』や『バルサスの要塞』とは一線を画した独自の世界での冒険を書きたかったに違いない。そのあらわれが、随所でカクハバードを彩る東方色なのである。それを踏まえると、浅羽訳は的を得ていると言えるかもしれない。(もっとも同じく浅羽さんが訳した『火吹き山の魔法使い』『バルサスの要塞』でもニュアンスは同じなのだけど)
海外のサイト「http://www.gamebooks.org/」を覗くと、ゲームブックの情報が色々と載っています。『ソーサリー!』を調べると、英語と日本語の他に、ドイツ、ポルトガル、スペイン、ハンガリー、チェコ、ブルガリア、デンマークの各国で翻訳されているようである。
このサイト、画像も充実していて各国バージョンの装丁を見ることができる。同じ言語でも、装丁が違うバージョンがあれば、それらも網羅しているのだ。その中に、以下のようなものがあったというわけである。
創元版や手持ちの英語版で見慣れていたあの表紙イラストは、実は半分だけしか見えていなかったというわけだ!
さて、先ずは第一巻から見ていこう。裏表紙に描かれているのはシャムタンティ丘陵だ。トレパニと思わしき集落も見える。想像していたよりも起伏が激しい様子。主人公の旅は、意外と険しい道だったようだ。流石はカーカバードといったところか。目に付くのは巨大なキノコである。これだけ大きいと、縊り藪や黒蓮レベルの危険要素と言われても驚きはしないな。
次は第二巻。おなじみカレーの下水道である。ここに描かれていたのは、下水道を走る管と、そこをうろつくネズミだ。この管は地上から汚物を下水道へと落とす管だろう。一方、肥喰らいが浸かる下水道そのものだが、本文挿絵とはちがって自然の洞窟のように見える。カレーの下水道は、実は地下に広がる天然の洞窟を利用して作られたものなのかもしれない。
このまま第三巻、第四巻へと話を続けたいところなのであるが、残念ながら画像を発見することができなかった。検索が甘いのかもしれませんが……。
それぞれフェネストラの塚の様子と、(大魔法使いの塔から見た)マンパン砦の威容なんじゃないかなと想像しています。
【追記】
第三巻の表紙の続きもありました。こちらの中盤ごろにございます。
フェネストラさんもっとキチンとしてるかと想像してましたが……これは……w
http://officialfightingfantasy.blogspot.com/2018/03/the-femme-fatales-of-fighting-fantasy.html?m=1
大分前に、大魔王考察と題して「ファレン・ワイドが篤志家のことを知っているのに、 大魔法使いは篤志家のことを知らない」件に関して述べたことがあるが、最近ふと思った。
もしかして、大魔法使いは篤志家の正体を知っているのではないか、と。
つまり大魔法使いは篤志家を探し出すことに必死になるあまり、罪も無い鳥人たちを何人も処刑してしまっていているのではなく、篤志家のあぶり出しを名目に、鳥人の勢力を削っていると考えたのである。 大魔法使いは誰をも信用せず、スローベンドアを駆使して身を守っているということを考慮すると、彼はマンパンで一大勢力を誇る鳥人たちを警戒しているに違いないのだ。ティンパン谷から黒い肌の種族をつれてきて衛兵としたのも、マンパン出身ではないカルトゥームを衛兵隊長に抜擢したのも、 対抗勢力を生み出して砦内での勢力の均衡を図った結果だろう。外部からならず者どもを集めているのも、ここに理由があった。アナランド出身の物見、カレーから は赤目、渡来人であるジャヴィンヌに、どこからか連れてきた粘液獣……。マンパンの豊かな国際色は必然的に生まれたものなのである。
本編内では登場しないが、鳥人にも長がいるはずである。それはゲーム中の鳥人たちの描写を見れば明らかだ。砦内の鳥人たちは、非常に軍隊然として規律がとれている。つまり、命令系統がしっかりしているということだ。その司令官はカルトゥームではあるまい。砦の入口を守る衛兵達の態度から、マンパンでは種族間の仲は決して良好ではないことがわかるからだ。鳥人の長は、鳥人以外には考えられない。
鳥人の長は、自分達が置かれている状況をわかっていたに違いない。篤志家探しを名目とした間引き行為はもちろん、そもそもスローベンドアの秘密を託された者は鳥人の中にはいないのだから…。だが反乱は分が悪い。鳥人以外は皆、敵とみなしていいだろう。だから、アナランドから冠を盗むという任務は失敗するわけにはいかなかった。おそらくは厳選された手練れを送り出したのだ。万全を期すため、長自ら出向いたかもしれない。いずれにせよ、任務は成功した。
しかし、大魔法使いが手を緩めなかったのは周知の事実である。主人公がマンパンに到達したときも、篤志家探しはおさまってはいなかった…。