★ 『アルゴ探検隊の大冒険』との対比

 『ソーサリー!』は1963年の映画、『アルゴ探検隊の大冒険』(原題: Jason and the Argonauts )に大きく影響を受けていると思われる。その多くは映画のモチーフになっているギリシャ神話のエピソードであるが、細かいところを見るとやはり映画の影響を見つけることができるのだ。

▼GOBおよびYOB
 捲く歯はゴブリンや巨人のそれではないが、映画の中でヒドラの歯をまいて骸骨剣士を産み出すシーンがある。ギリシャ神話では産まれてくるのはスパルトイと呼ばれる完全武装の兵士だが、アルゴ船の話とは別の伝説で語られている。

▼カレーの青銅巨人像
 タロスと呼ばれる、やはり青銅製の生きた巨人が登場する。神話でも映画でも、胴体に存在する一本の血管の栓を抜かれると死んでしまう。

▼盲目の乞食とハーピー
 映画及び神話でも、神に罰せられて盲目にされた予言者ピーネウスを、さらに懲らしめるためにハーピーが送られるという話になっている。つまり、ハーピーは神の使いなのだ。一応。(ゲームでは怪物扱いされるのがおきまりになっているが。)神話よりも映画のほうが影響をあたえているなと思うのは、ハーピーが二羽だとおいうこと。神話では特に数を明記していない。

▼七匹の大蛇、神頭ヒドラ
 正確には、彼らの元の姿(生前の姿)である七頭のヒドラ。
 神話に登場するヒドラは、九つの頭をもっていたとするものが主流(百頭という説もあるが)だが、映画に登場するヒドラは七頭である。

▼諸王の冠
 これはちょっとこじつけの部類に入るかもしれないが、映画において主人公たちが入手を目指すアイテム「黄金の毛皮」には、国を繁栄させる奇蹟の力がある。諸王の冠のそれと同じ力である。

 ちなみにこの映画、私は高校の頃に美術のクラスで『ラビリンス/魔王の迷宮』と共に何遍も見せられたものだ。古い映画ではあるが、どちらもおもしろいぞ。

(5/29/09)

【追記】
 映画と『ソーサリー!』の間の話には直接関係ないが、七頭ヒドラに関して元ネタらしきものが見つかった。16世紀、トルコからヴェネツィアに持ち込まれたという怪物標本が、まさしく七頭ヒドラだったという。コンラート・ゲスナーの『動物誌』にその写し絵と思わしき図が載っている。正直、今日イメージされるヒドラとはちょっと違うが、それでもその七つの首の伝承は、『ソーサリー!』のみならず『アルゴ探検隊の大冒険』に影響を与えているに違いない。

 もしもインスパイア元がこの頭部ならば、七大蛇が流暢にしゃべるのも不思議ではない。かもしれない。

(9/20/12)

★ まだ見ぬマンパンの幹部たち

・マンパンの財務官
 ヴァリーニャの上司。彼は第一助手を名乗っているのだ。(原文、創土版のみ。創元訳ではヴァリーニャ本人が財務官。)しかし、第二のスローベン・ドアの秘密をヴァリーニャが握っている以上、実質的にはヴァリーニャよりも重用はされていない様子。金品蒐集による恨みの矛先を逸らすためにヴァリーニャに利用されている可能性も高い。というより、実は密かに始末されているのではないか……?

・バードマンの指揮官
 衛兵たちのボスがカートゥームであるなら、もちろんバードマンたちにもボスはいるはずである。赤目や物見たちとはちがい、バードマンは正規のマンパン兵なのだから。当然ながらカートゥームとは反りが会わず、ここしばらくの「篤志家狩り」のせいもあって、大魔法使いに大いに不満を抱いている。

・処刑人
 さらし台に晒された罪人を楽にする仕事を持つ。『ソーサリー!』の世界観の根底を成す中世ヨーロッパでは、処刑人は特別な職業であり、死を通じてこの世とあの世を繋ぐ存在として忌み嫌われると同時に恐れられた職業であった。となれば、処刑専門の人物がいると考えるのが自然である。ナガマンテが兼任している可能性は低い。彼は「より長く苦しませる」ことに歓びを見いだす性分なので、正直、処刑人の仕事には向いていない。

・大魔法使いの塔の衛兵隊長(あるいは獄長)
 マンパン砦の外にある大魔法使いの塔。大魔法使いの影武者が支配するこの塔にも、衛兵はいる。となれば、彼らを統率する者がいるはず。カートゥームが砦の中の衛兵と外の衛兵を同時に統率できるとは思えない。影武者自身が兼任している可能性もあるが、この塔が危険な捕虜を幽閉するための監獄であることを考えると、獄長的な存在はいてもおかしくはない。

 ……まぁ完全に想像だけど、こういうことをつらつらと考えるのも結構楽しいものだ。ここに本編に登場している幹部達(影武者、カートゥーム、ナガマンテ、ヴァリーニャ)を加えてマンパン八部衆などと名乗っても面白かろう。財務官はお飾りの可能性が高いので、七人衆のほうがしっくりくるかもしれぬ。

(5/29/09)

★ 絵描きとKIN

 KINの魔法。それは触媒である金縁の鏡に映した像を実体化させる、複製の呪文である。相手と同じ見た目の下僕を生み出し、戦わせるのが主な使い方で、大概の場合、敵と像が相打ちになって自分は戦闘を切り抜けることが出来るという術というわけだ。

 このアナランドの秘術に類似した魔法を使う男が、カレーに住んでいる。そう、両腕のない絵描きだ。彼の魔法は「宙に浮かぶ絵筆を操って肖像画を描き上げると、その肖像画はキャンバスから抜け出てくる」というものである。鏡像か絵かの違いはあれど、KINに酷使している。だが、流石はアナランド。似ている両者の術だが、決定的に違う点があるのだ。

 実は、絵描きが生み出す肖像画は「絵描きが知らない情報」は持てないのである。『ソーサリー!』本編において主人公が魔法使いであった場合に明らかになるのだが、相手が魔法使いだと絵描きが認識していなかったため肖像画は魔法を使うことができないのである。(絵なので、HOT一発で燃え上がる。)
 そこへいくとアナランドの魔法KINは優秀だ。初見ながら赤目の炎の視線もばっちり再現。魔法を見世物(そして強盗の手段)にしている男の術と、国家機密として扱われる魔術の差といったところか。

(4/11/10)

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