ご存知ZEDの魔法は時間および空間操作の術であり、ゲーム中に使用することで旅路の途中へ放り出されたり、はるかな時間軸へ飛ばされてゲームオーバーなどの効果が起こる。一方で、『ソーサリー!』の魔法システムには触媒アイテムの存在があり、多数の魔法はそれぞれ特定のアイテムを持っていないと発動しないようになっている。この二つが合わさると、以下のような現象が起きる。「触媒を持っているにもかかわらず魔法が使えないと判断される」
時に『ソーサリー!』最大の不備、ZEDの効果は執筆途中で思いついた、などとも言われるこの問題。今回はこれを取り扱おうと思う。
さて、ここを見ていただきたい。 第四巻からの抜粋があるのだが、これを見る限り、はっきりと 「ZEDの効果は精神的なワープ、あるいは幽体離脱系」と読み取ることができる。 こういうメカニズムによる時間旅行であるならば、受け継がれるのは記憶だけで、 アイテムを持っていくことはできない。触媒がなくて術を失敗するのは当然なのであった。
しかし問題は残る。
はるか昔や未来に飛んでしまった場合、術者の肉体はそこには存在しないはずである。だが、ZEDによってそのような時代に飛ぶことは可能なのだ。古代生物アンティーロセットが空を飛ぶ太古の描写が本編でなされている以上、これは間違いのない事実だ。このケースの場合、肉体ごとワープしていると捉えるのが自然であろう。
魔法の説明パートに書かれている描写からは、ZEDを使用すると、術者の姿は消えてしまうらしい。スローベンの魔術師はZEDを使用した後、その姿を二度と見せることはなかった。となると、その肉体は時空を超えて旅していると考えるのが自然ではないか?
術者が「存在」している時間帯であれば精神的な移動、そうでなければ存在ごと移動。どうやらこれがZEDのシステムのようである。
……ちょっとゲーム的御都合主義が強いですねw? では、ゲーム中の描写と矛盾しない範囲で想像補完してみましょう。
術者が存在しない時代へ飛んでしまった場合、術者の精神は入るべき身体を見つけられず、その時代に存在する適当な生物の身体へ入ってしまうのではないか? 第四巻の該当パラグラフでも、周囲への驚きとあきらめの描写しかされておらず自身がどうなったのかの説明は一切無い。もしかしたら彼/彼女はもっと恐ろしい状況下にあるかもしれないのだ。知性的な生き物ならまだいいが、カエルとかそんな可能性も……
と、ひとしきり想像したところで、もう1つの類似問題を紹介しておこうか。ZEDではないが、冒険を繰り返すことができる場所があるのです。それは、第二巻。4行の呪文をそろえずに北門へ到着してしまったときで、新訳版は単純に「プレイしなおす」と読み取れるのであるが旧訳版だと「地理的に」南門へ戻り、もう一度カーレに入るところからやりなおせとも読み取れるのだ。(と個人的には思っている)言葉の問題だね。
【追記】
改めて読み直すとちょっとわかり難いと思えたので、改めてZEDについて要約しておくことにする。
・ZEDについて本文描写からわかること
1 ZEDを使用すると、時間軸、空間座標がランダムに飛ぶ。
(精神集中することで、「着地点」を固定できる)
2 精神的な移動であり、移動先の自分の精神を上書きする形で「着地」する。
記憶は残るが、アイテムなどは持っていけない。
(最も、「着地時点」の冒険記録紙を用意しておくのは至難の業なので、この点はゲーム的な不備とも取れる。)
3 術者の誕生前、あるいは死亡後にも飛べる。
(その場合、術者の驚きや目にしたものの描写はされていても、術者自身の描写はされていない。)
・ZEDについて魔術書の描写からわかること
1 術者の姿は消え失せる。
・上記に加え、ZEDはこのような術なのではないか?(考察)
1 術者が生きていない時間軸へと移動してしまった場合、術者の精神は
適当な対象となる生物の精神に上書きされる。
ここからは蛇足になるかもしれないが、ZEDを繰り返し使い続ければ、ランダムに「戻ってこれる」可能性を検証して見ようかと思う。先ず、「スローベンの魔術師は結局もどってこなかった」という事実がある。そして、ZEDの消費体力点は7。ゲーム中でも「ある程度元気でないと使用できない」という書かれ方をしているという事を踏まえておこう。
時間軸がずれてしまうのだから「帰ってこれない」というのは不自然である。あらゆる時間における術者がZEDを使用する可能性があるからだ。時間軸上のどの点にも降り立つことができる以上、「帰ってこない」可能性が0になることはない。むしろ無限の可能性があるので、「帰ってこない」ほうが不自然なぐらいだ。
この無限の可能性を少しでも減らすことができないか考えてみることにする。ZEDは何べんも使えないと仮定すると、「帰ってくる」率を減らすことができる。考えられる理由は「体力を消耗して死ぬ」「何かの理由で術が使えなくなる」の2つだろう。だが、前者に関しては休息や食事で体力を回復させることができるシステム上、考慮する価値は無い。となると、後者の理由が重要となる。
私は先立って、術者の存在する時間帯から外れてしまった場合、「適当な生物として生きることになる」と仮定した。さて、本文の描写から、アナランドの魔法使いは両手が自由でないと使えないことがわかっている。ZEDは厳密にはアナランドの魔法とはいえないが、アナランドの魔法使いとして育ち、ZEDをアナランドの魔術書から学んだ主人公は「両手が使えないと魔法は使えない」と思い込んでいると思われる。思い込みというのは精神力の分野では重要な要素であり、したがって、そのような状況下では主人公の呪文成功率は著しく低下するはずだ。
つまり、一度「両手が無い生物」になってしまったらZEDはもう使えないということだ。そもそも呪文を唱えられる発音器官を持たない生物になってしまったらお仕舞いである。人間、しかも両手がそろった人間でなければZEDの旅は中断せざるを得ないのだ。
そして、時間が無限であることを考えると、先ほどは可能性を最大にまで押し広げていたこの要素が逆に働くことに気づく。そう、無限の時間の中で、術者が存在しているのは、極限に0に等しい僅かな瞬間なのである。違う言い方をすれば、「違う生物になってしまう」可能性はほぼ100%なのだ。これは厳しい。やはりZED使用者が「戻ってこない」のは当然だったのだ……。
カレーで遭遇するとして働く鞭叩き。この奇怪な生き物は、『モンスター事典』によると珍味を調理する技能に長けた種族とのことである。作中でも料理人として登場。『ソーサリー!』以外でも、創元/創土ゲームブック版『ドルアーガ』(第一巻)でこの種族に会うことができる。
さて、そんな鞭叩きのはずなのだが……そう、カレーで彼(?)が作っている料理、《棘棘獣の臓物煮込み》は決して美味いものではないらしい。主人公がかの料理を食べる描写によると無理やり口に押し込み、飲み物で流し込んでいるのだ。珍味=美味い というわけではないということかもしれない。
ところで棘棘獣が珍味なのかどうかだが、この動物、実は同じカレーに住むロルタグさんが飼っていらっしゃる。食用として飼っているのではなく、あくまで番獣のようであるが。『モンスター事典』によると、高価な珍獣とのこと。カレー指折りの知識人、ロルタグ長老なればといったところか。
棘棘獣の臓物が珍味なのはなんとなく理解できたところで、ある疑問がわいてくる。この料理人が勤めているのは、南カレーである。貴人が居を構える北カレーなら、珍しい料理に出会うのも不思議ではないのだが、よりによって南カレーだ。こんな所でお目にかかれる食材とは思えない。さらには鞭叩き自身、こんな場所で雇われていることが奇跡だ。
先のロルタグのように、天下に名高い食通が南カレーに拠点を構えているのかもしれない。南カレーで手に入れやすい食材が他にも多数あれば、この説は信憑性を帯びてくる。だがそれっぽい食材は豚(密猟者に狙われてるが)ぐらいしか見当たらない。まさか銀魚が食用とは思えないし。
南カレーにこだわらず、カレーを中心に考えると、この地に食通が注目するのは理解できる。カレーを流れるジャバジ河を登れば独特の生態系を持つモーリスタシアには、珍味も多かろう。河を下ればカーカバード海も広がっている。カレーの南に広がるシャムタンティ丘陵では、ボンバの実が収穫できるし、もしかしたらあの黒蓮すら食べるのかもしれない。
なぜ北カレーでなく、南カレーなのか。北カレーは貴人たちが住む一等地であると同時に、赤目たちが闊歩するエリアでもある。よそ者にとっては、決して治安がいいとは言えない土地だ。海賊が夜な夜な騒ぎ、強制船員勧誘を行う港周辺もあまりよろしくない。つまり南カレーを選んだ食通とは、カレーの人間ではないということだろう。鞭叩きを雇えるということから、いずれにせよ名も金もある人物であることは疑いようが無い。
ZEDという、非リセットな「やり直し手段」はあれど、基本的にフォローしてないのが『ソーサリー!』。でも例外が存在する。第三巻のセスターキャラバンと、クラタ族×3による夜襲シーンで使えるGOD。それから同じく第三巻の土大蛇戦で使えるZENだ。
それぞれ黄金石、宝石細工のメダルが必要なのだが、それらの触媒が入手できるポイントはもう少し先のフェネストラの塚なのである。
つまり触媒を持っていることはありえないのに、魔法が成功する描写が用意されているというわけだ。ここだけZED対応というとことはないだろうから、単純にバグなのだろう。これらの触媒は、執筆段階において手前の地点で入手できた時期があったのかもしれない。
ならば、入手できたであろう場所を考察してみよう! これらの魔法の成功描写が無い地点を過ぎるまでは入手不可であったはずである。
1)GOD
最もアナランドに近い使用可能地点 … セスターキャラバン(第三巻) ※クラタ族夜襲よりもアナランドに近い
最もマンパンに近い使用不可能地点 … カレー(第二巻)の、妖精と小鬼がケンカしてるところ
第三巻では3箇所に登場するGODだが、キャラバンと夜襲を除く1箇所は渡し守テク・クラミン氏のところである。ここはフェネストラ遭遇後になるので問題ない。ケンカからキャラバンまでの間に、触媒「黄金石」入手のチャンスはあったはず!
《考えられる可能性》
・正直ハンナの幸運の箱の景品に実はあるんだけど、あの小さい奴が選んでくれない。
・「旅人の宿り亭」の主人が、食事のしこみ時に(あわれな犠牲者から)入手してたんだけど、主人公素通り。
・クアガの神殿にあったんだけど、ガーゴイルが怖いのでとてもとれなかった。
・シャドラクがくれるはずだったんだけど、つい忘れた。
・蛇遣いマナタが土壁の中に隠していた。
・人馬が実は持ってたんだけど、その日に限って家に忘れてた。
ぐらいしか思いつかないですな。旧訳が「装飾具」でなければ、バドゥ甲虫の巣穴の中とかもありかも?
2)ZEN
最もアナランドに近い使用可能地点 … VS土大蛇
最もマンパンに近い使用不可能地点 … カレー(第二巻)の交換屋ノーム
こっちは第三巻では1回しか登場してないようだ。つまり純粋に交換屋から土大蛇戦までの間ということになる。触媒が「宝石メダル」となれば考えられるのは……
《考えられる可能性》
・クアガの神殿にあったんだけど、ガーゴイルが怖いのでやっぱりとれなかった。
・シャドラクがくれたはずだったんだけど、やっぱり忘れてた。
・夜中に遭遇するクラタ族が持ってたはずだったんだけど、その日に限っておいてきた。
・セスターキャラバンで取り扱ってたんだけど、ちょうど売り切れていた。
・スロフの神殿に安置されていたはずだったんだけど、既に盗賊に盗まれていた。
・スロフの神官シャラが持ってたんだけど、すっかり存在を忘れていた。
……あたりだろうかね。