マンパンの大魔法使いは、特に重要な囚人を閉じ込めるための塔を建てた。物語終盤の舞台となる、あの塔である。そこに閉じ込められているのは、アナランドから見事マンパン砦まで切り込んできた主人公と、豆人のジャンである。他に囚人はいないが、基本的にはこの塔で長生きはできないので、たまたま2人だけだったのだろう。
主人公はともかく、ジャンのどこが「重要」なのだろうか? 特にマンパンに対して敵対心を持っていたとは考えられれない。ありえそうなのは、彼が豆人であるという一点である。
豆人という種族は、魔法を無力化する領域を持っている。これは意志の力でon/offできるものではない。大魔法使いにとって、この力は脅威だったろう。何しろ大魔法使いというぐらいだ。砦の中でうろちょろされて、万が一の時に魔法が使えないとなれば、これはあってはならない事態である。
そうなると、次の疑問が出てくる。なぜジャンは生きているのか。それほどの脅威であれば、即殺してしまうべきではないか。しかし、実際のところジャンは羽根を切られているだけで、生かされている。
ジャンから何か聞き出したい情報があるのだろうか。確かにジャンは主人公と旅を共にしたことがある。だがジャンは主人公の目的は知らないし、アナランド人だということすら知らないはずだ。つまり、アナランドからの刺客の情報源として生かされていたのではない。考えられる理由は1つしかあるまい。
ジャンは、魔法の心得を持つ囚人を閉じ込めておくための装置として、牢獄に組み込まれているのだ。
【追記】
この記事を読み返してみて、ちょっと引っかかったことがあったので、あらためて第四巻を繰ってみた。するとどうだ、パラグラフ4でジャンの奴「アナランドから来たあんたか!」と口走っているじゃないか。奴め、主人公がアナランド出身だと知っていたのだ。すると、大魔法使い(の影武者)が主人公の正体を見抜いていたのもうなずける。日輪大蛇だけでなく、ジャンから聞き出していた可能性が出てきた。(素直に考えれば、ファレン・ワイドの内に潜む大魔法使いその人から聞いたのだろうけど。スローベンドアを全て突破してきたよそ者がいて、アナランドを探っていた七大蛇が一匹ももどらないのでは、あからさまにアナランドからの刺客だと言っている様なものだ。)
ところで! だ。ジャンの奴はどこで主人公がアナランド人だと知ったのだろうか? 主人公は慎重に自分の使命を隠しながら旅をしている。実際に第一巻のジャンとの出会いのくだりを読み返してみても、秘密を漏らした様子は無い。道中で主人公を問答無用でアナランド人だと見抜いたのは、大魔法使いの影武者を除くと、スラングの聖人とシャムの二人。そしてシャドラク、シンの篤志家には主人公が自らの出身を告げる展開がある。彼らから聞いたのだろうか?
少なくともスラングの聖人はジャンと接触していないはずだ。ジャンはカレーの中には入らなかったと言っている。シンの篤志家も候補からは外される。彼らはジャンのことを信用していない(第四巻パラグラフ274)。残るのはシャムとシャドラクの二人になる。シャドラクには会わなくてもクリアすることが可能であるため、除外される。
残ったのはシャムである。彼女は主人公がアナランド人であることも、その使命も知っていた。シャムと話すシーン描写からは、ジャヴィンヌのように、主人公に触れて情報を聞き出した風には読み取れない。主人公とシャムが出会っていたかどうかに関わらず、彼女は秘密を知っていたと考えても問題ないだろう。
以前、魔法を無効化する特性を持つ豆人は、魔法使いからは忌み嫌われているに違いないと考えたこともあるが、最近はちょっと違う見方をしている。実は豆人という種族は魔法に詳しいのだ。ZEDの詳細をジャンが知っていたことからもそれは判る。そう、一時的に魔法が使えなくなる危険を冒してでも、豆人から魔法の知識を得るために話し込むことは充分考えられるのだ。
ジャンは主人公を追って旅をしていた。シャムは眠れるラムに対抗する術を研究しているであろう魔女である。豆人をマンパンに向かわせることで、対スローベンドアの実験をしようとしたのかもしれない。主人公の邪魔になるかもしれないが、そもそも彼女が主人公に託した秘策は魔法ではなくて「道具」である。それに主人公が戦士だった場合には、そもそもジャンは邪魔にはならない。
シャムはジャンに主人公の行き先を告げ、なぜマンパンへ向かったのかというジャンの疑問に答える形で、主人公がアナランド出身であることを漏らしたのではないだろうか。
主人公が魔法使いであった場合には、問題はもっと簡潔に解決する。豆人であるジャンならば、主人公が操る魔法がアナランドのそれだとすぐに看破できるにちがいないのだ。でもジャンと同行中、魔法を一回も使わすに第一巻のクリアは可能だった。やっぱりダメか。
第一、主人公が戦士だったときにはまったく見当ハズレの考察になってしまうからね。
カントパーニは不思議な集落だ。ここの住人達は商人にして盗賊。変わり身の早いならず者どもだという。実際、主人公がカントパーニで買い物をしたと見るや、町外れでは山賊がスタンバイとくる。買い物をしなかった場合には襲撃は起らないので、この山賊たちは「狙い撃ち」してきたことは疑いようが無い。自分としては、この賊は店とグルで、商品の「回収」をしに来たのではないかと考えている。
さて、カントパーニの住人がどういう連中かがわかったが、ここで疑問が起こる。商人にせよ、盗賊にせよ、相手となる者が必要な職業である。しかし、カントパーニの周りにはそのような場所が見当たらないのだ。近くには裕福なアナランドがあるが、何しろ物見たちが常勤する、かの大塁壁がそびえている。ここを守る物見の頭は、カントパーニの「お仕事」をきっちり把握しているので、ここを通ってアナランドに入り、「仕事」をしているとは考えにくい。
では別の方角はどうだろうか? ゲームの舞台でもある北西から見ていこう。カントパーニの先には3つの見所がある。エルヴィン谷、ゴブリンたちが働くシャンカーの鉱山、そして危険極まる首狩り族の村だ。正直どの連中も商売の相手になるとは思えない。彼らから何かを盗むことに旨みがあるとはもっと考えにくい。リスクが高すぎる。仕事になりそうなクリスタタンティへ向かうためには、上記のいずれかを通り抜けなければならないが、それでもクリスタタンティまで出向いて仕事を行うほうがまだありえる話だ。
次は他の方角を見てみよう。アナランドとクリスタタンティ方面以外の地域は、ゲームの舞台とはならないため、完全に想像と考察に頼らなければならない。最初は向かって右を見てみよう。シャムタンティ丘陵をしばらく行くと、ジャバジの大河に突き当たる。ジャバジの渡河は不可能だ。ここが渡れるのなら、主人公はわざわざカレーになど向かわない。ジャバジ河では、カレーとカーカバード海間を行き来する海賊船に出会えるかもしれない。海賊たち相手なら、商売ぐらいは可能かもしれない。盗みを彼ら相手に働くのは命がけになるだろう。
今度は逆側だ。こちらへと進めば、すぐにアナランドの大塁壁にぶつかってしまう。だがこの大塁壁、数箇所で途切れているのだ。このことはタイタン世界の設定資料集『タイタン』の、アナランドの項目に明記されている。その「穴」からアナランドに忍び込み、「お仕事」をしているというのは十分にありうることだろう。ハイリスクハイリターンの大きな仕事となるだろうが……。実際これは大掛かりな仕事であり、普段からちょくちょくアナランド侵入をしているとは考えにくい。
ここで1つの仮説を立てることにしよう。先ず、ゲーム中で主人公に与えられたルート選択は「アナランドからカレーへ続く道」に限られているということを念頭に置く。異論はあるまい。道中、アリアンナの家へ向かう道だけはイベント後「引き返す」描写がなされているが、これを例外とするのではなく、このような道がもっとたくさんあると考えるのだ。シャムタンティにはゲーム中に登場するだけでなく、もっともっとたくさんの集落や道があるに違いない。橋守ヴァンガスの問いに登場する、ゴレタンティなる集落もきっと存在するのだろう。
つまり、こういうことだ。カントパーニの連中は、こういった集落の間で物を売りながら、隙あらば強盗へと早代わりして「回収」を行うのを生業としているのである。
【追記】
ゴレタンティに関しては、おそらく黄死病の村の名前としておくのが鉄板だろう。どちらもゲーム本文中に現れる(つまり確実に実在している……ゴレタンティは少々微妙だが)存在だからだ。
【追追記】
黄死病の村の名前は、d20シリーズではタドパニ(Taddapani)ということになっている。これもポカラ周辺に似た名前を発見することができる。
【追追追記】
AFF2用のシナリオと比べると、d20版のほうが詳しい設定が追加されている様子。AFF2版には村の名前やNPCの名前などは特に追加情報が無い。タドパニはd20版のみの名称で、AFF2では原作と同じく名無しの村である。ゴレタンティは幻の村のままだ。
ご存知のとおり、カーカバードには危険が山ほど転がっている。今日はそんなカーカバードの中で、特に危険が密集している場所をお教えしよう!
それは第四巻、パラグラフ574から577にまたがる箇所である。なんとデッドエンドパラグラフが4つも連続しているのだ。