★ カルトゥームの恋人

 マンパンの衛兵隊長、カルトゥーム。彼にはロケットの肖像画の女性と、なにやらスキャンダルがありそうな疑惑がもたれている。本文中にも「失われた恋人」なる文句が登場し、どうやらこの二人はかつて恋愛関係にあったらしいことがわかる。
 だがこのシーン、なんと主人公のでまかせ話のシーンなのだ。女性の肖像画が入ったロケットを持っていることを知った隊長の態度から、「これは重要そうだ」と判断し、主人公はあることないことでっちあげて話して聞かせるのである。隊長も涙を浮かべて聞き入り、なんと大魔法使いから任せられたスローベンドアの鍵を渡してくれる始末。公より私をとらせてしまうあたり、この女性はカルトゥームにとって特別な存在であることをうかがい知ることができるだろう。
 しかし主人公もなんと無謀なことをしたものである。カレーのさる貴婦人から言付かったとか、愛と共に隊長に届けて欲しいとか調子のいいことを言っているが、わずかでも事実とずれたことを口にすれば、たちどころに嘘は露見して大惨事を招くことうけあいである。たとえば、肖像画の女性は既に死んでいたとか、あるいは恋人ではなくて妹や母親だったりしたらどうするつもりだったんだろうか。

 それはともかく、本題に入ろう。プレーヤー(主人公)はカルトゥームの部屋の様子を描いたイラストを見て、そこに飾られている肖像画が第一巻で手に入れたロケットの肖像画と同じ女性であることを思い出し、何かこの女性がカルトゥームと関連あるのではないだろうか? と推理して、彼にロケットの話を振る。というのがゲーム的なギミックである。プレーヤーの記憶力が試される、すこぶる高難易度な仕掛けであると言えよう。
 主人公がうまくカルトゥームを言いくるめられた描写から察するに、実際にこの肖像画の女性はカルトゥームの想い人であったようだ。そして、カレーに住んでいる可能性が0ではない人物であったことになる。いったい、いかなる女性なのだろうか。

 第一の材料は、肖像画の女性はカルトゥームの想い人であるということである。これは先程見たように、ゲーム本文の描写から立証される。
 第二の材料は、主人公はそれなりの確信を以って、カレー在住の話をしたはずだということである。主人公の口八丁ぶりには迷いはまったくないし、なによりもこの話が運試しや技術点チェックの必要も無く成功することからも明らかだ。主人公は一体何を判断材料としたのだろうか。主人公がカルトゥームを見たときに感じたこととして、「カーカバードの東の国から来たに違いない」と考えている点があげられる。カーカバードの東というと、海だ。そして、海を越えて東へ東へと進むと、なんとそこにはアランシアが浮かんでいるのである。このことは『タイタン』の世界地図を見れば一目瞭然だ。
『タイタン』の記述に由れば、カーカバードを含む旧世界と、アランシアの間には定期便で船が行き来している。カルトゥームがアランシアの人間だったならば、その想い人はアランシアに住んでいる可能性が高いのではないか。マンパンで親衛隊長として働いているのだから、まともな渡航理由ではなかったはずだ。流刑か、あるいは逃走か。理由はどうあれ、彼らの仲は引き裂かれた。彼は恋人を残し、単身海を越えてカーカバードへと渡ったのだ。
 さて、もしも彼女がカルトゥームを追いかけてくるほどアグレッシブな女性だったとしたらどうだろう? アランシアからの定期便に乗り、旧世界へと来た彼女は、先ず港町に降りることになる。旧世界の東海岸に存在する港街といえば、アナランドのアークレトンと……そしてカレーだ。
 アナランド人の主人公は、なるたけその目的を晒したくは無いはずだ。となると、女性に出会った場所にカレーを選んだのもわかるというものだ。

 ここまで考えてみて、1つ疑問が残る。それは彼女は本当に旧大陸へ渡ってきたのだろうか、ということだが、かなりの確率でYesと答えることができると思う。カルトゥームの反応からして、彼女は実際にそういうことをしそうな人物なのである。しかも彼がマンパンで達者にしていることをも突き止めても不思議ではない機知の持ち主ということだ。なんの手がかりも無く答えにたどり着けるとは思えないので、おそらくカルトゥームは彼女の元を去る時に「カーカバードへ向かう(あるいは流される)」と伝えていたのだろう。
 彼女の肖像画は入ったロケットは、シャムタンティ丘陵のかすめ草群生地で拾うことができる。つまり、ロケットを持った人物がそこを通ったということである。カルトゥーム本人がここで無くしたとは考えにくい。彼は「人から言付かった」ことを疑っていないからだ。
 となると、彼女は実際に旧大陸へ渡ってきて、実際に旅人にカルトゥームを探してロケットを渡すように依頼したのかもしれない。主人公のでまかせ話は、実は真実に近かったかもしれないのだ。

(9/11/11)

★ ナガマンテ伝

 マンパン砦の拷問頭ナガマンテ。この鬼こそは、タイタン中にその名が轟く拷問の名手である。鬼ながら「ナガマンテの拷問の書」を記すなど、その分野での功績は大きい。大魔法使いにその拷問の腕を買われて、マンパン入りをしたと思われる彼の素顔を見てみよう。

 特記すべきはその拷問部屋の手入れの見事さだ。同業者にしかわからないかもしれないが、拷問具一つ一つに至るまで丁寧に手入れされている。拷問手としてのプライドなのだろうか、彼自身もそれを誇りに思っているようだ。だがマンパンではただただ恐れられるか、あるいは拷問の有効性を認められているものの、その芸術性は無視されているようだ。鳥人たちは彼を「一つ目野郎」と蔑んでいる。もっとも、これは仕方が無いかもしれない。何しろナガマンテは「篤志家狩り」で、幾人もの鳥人たちを痛めつけてきたはずであるから。主人公が術でナガマンテの頭の中を覗いて、彼の願望を知り、拷問室の見事さを褒めることによって、ナガマンテはスローベンドアの秘密を漏らすのである。もともと「ナガマンテの拷問の書」を発表するぐらいの認めてもらいたがり屋である。鬼で、しかも片目であるがゆえの偏見に対し、色々と不満もあったに違いない。

 そんな彼の出身についてだが、私はおそらくカーカバードの近くで生まれ、拷問の腕を磨いたと推測している。根拠となるのはナガマンテ自身が語った「駆け出しの頃のすばらしい拷問」についての話である。それによると、彼は拷問手として働き出したころにクラタ族を相手に拷問を行っている。クラタ族というのは、その名のとおりクラタ平原に住む未開人だ。未開であるが故、はるか遠方へとでかけている様子は無い。マンパンに雇われている可能性があるが、まちがってもカレーの北門を越えることはできていないと思われる。
 ナガマンテは、盗みを働いたクラタ族を拷問仲間たちと責めたことがあるという。この拷問仲間というのは徒弟衆だろうか? すると彼は誰かに師事していたことになるが、なるほど『タイタン』には鬼は訓練次第では複雑な武器を使いこなせるようになるとある。確かに鬼が複雑な拷問器具を使えるようになるためには、訓練が必要だったに違いない。(もちろん天性の才能もあっただろう)
 さて、バクランドでそんな拷問機構はあったのだろうか? 考えられるのはカレー、セスターキャラバン、そしてバクランドを離れて見るとありえそうなのはマンパンのさらに奥、ラドルストーンだ。陰謀渦巻くカレーならば、鬼を拷問手に育てようと考える奇人もいるかもしれないが、その後ナガマンテが北へ向かうというのに無理が出る気がする。一介の鬼にあの北門が越えられるとは思えない。セスターのような黒エルフは、そもそも鬼を使おうとは思わないのではないか? 他にも似たような無法キャラバンが存在するかもしれないが、どこも同じようなものだろう。それに移動キャラバンで拷問、それも大掛かりな拷問器具が必要な職は無いだろう。

 残るラドルストーンだが、マンパンに近いところに海賊達の避難場所である、悪名高きカニ港町を見出すことが出来る。ここならば、ナガマンテがその腕を見出され、拷問の師匠についてその才能を開花させた場所としてふさわしいのではないだろうか。海賊たちならば、気心さえ会えば即戦力となる鬼を仲間に迎え入れても不思議ではない。それに、捕虜の拷問も重要な仕事だったはずだ。ナガマンテが人並みに文字が書ける(もっとも、「ナガマンテの拷問の書」の綴りはひどいものらしいが)のも、海賊たちとの交わりがあったからだと思うのだがどうだろうか?
 そして拷問手としての名声を得、自慢の聖伝を記した後、ナガマンテはマンパンに招聘されたのだ。マンパン砦の中では、執筆はともかくそれを世に送り出すことはできなかっただろうから。

(9/14/11)

【追記】  
 Titannica - the Fighting Fantasy Wiki を見ていたら、「ナガマンテの拷問の書 Seaday 23rd of Hiding, 277ACに発行。」とあった。

 『タイタン』のアランシア暦の記述に、「隠れ月」「海曜日」があるので、これはどうやらアランシア暦らしい。換算すると10月23日土曜日のようだ。最近だと2010年か。

 第一ソースは不明だが、277ACと断定されている。これが『ソーサリー!』本編よりも前か後かが判れば、ナガマンテの伝記はより詳しくなるだろう。ナガマンテが拷問の書を記したことを伝える『タイタン』では、マンパンの大魔法使いは未だ健在で、アナランドでは勇者を求めているとある。やはりゲーム上の時点では、既に書は発行されているということだろう。
 問題はそれがマンパンにてなのか、それともその前なのかだが……

(7/20/12)

【追追記】  
 Titannica - the Fighting Fantasy Wiki のアナランドの項に「283AC: The Crown of Kings was stolen from Analand by Birdmen from Mampang on Stormsday 16th of Watching.」とあった。

 つまり、冠がアナランドから盗まれる6年前には「拷問の書」は発行されているということである。先に書いた通り、マンパン砦から書物の発行、流布は難しいだろう。ナガマンテはマンパンに来る前には既に名声を得ていたと考えるべきである。戦争屋あたりにスカウトされたか、それともジャヴィンヌのようにマンパンに惹かれて自ら来たのか。どちらだろうか?

 ちなみに、先の「拷問の書」発効年もそうだが、これらの年代設定は『The Fighting Fantasy 10th Anniversary Yearbook』によるものとのことだ。

(5/24/19)

★ ヴァリーニャ

 衛兵隊長カルトゥーム、拷問頭ナガマンテときたら、次は守銭奴のヴァリーニャについて考えてみない手は無い。彼ら三人はマンパンの大魔法使いの手下の中でも最も悪知恵に長け、それぞれがスローベンドアの秘密を任されているのだ。なるほどカルトゥームの騙まし討ち、ナガマンテの質問、そしてヴァリーニャの毒碗と嘘は三者三様の引っ掛け具合である。もっとも、大魔法使いおよびその影武者のほうがよっぽど悪知恵には長けていると個人的には思うが。

 さて、ヴァリーニャである。前の二人に比べると、こいつの背景に繋がりそうな手がかりは非常に少ない。マンパンで豪勢な暮らしをしていること、そして砦の住人としては珍しく文化人であること。種族としては人間らしいこと。黒豹のハシを可愛がっていること。金貨が大好きであること。財務官の第一助手として働いているということ。そんなところか。
 財務官の第一助手でありながら、財務官その人を差し置いてスローベンドアの秘密を握っているという事実は、彼が非常に有能で、大魔法使いの信を得ている証拠と言えるだろう。ならず者同士の喧騒が日常となっていて、人死すら珍しくない中庭セクションで、悠々と暮らしているのだから、よほど身を守る術に長けているに違いない。だが、彼はどうみても肉体の力で実力を発揮するタイプではない。でっぷりと太っており、身体を動かすのも面倒くさそうだ。かといって、魔法使いでもない。主人公の術に対し、無防備に真鍮の振り子に見入る姿は、ヴァリーニャが魔術には通じていないことを証明している。
 そんな彼の武器は、ペットである黒豹のハシと、毒殺だと思われる。金貨を払わない者は部屋には入れないという態度も、おそらく彼の保身術の1つだろう。だが彼は金貨を集めるのが仕事であるし、なにより彼自身が金貨に目が無いため、金を払える来訪者だけは相手するのだ。そして毒入りの食べ物と、ハシが大活躍する。

 創元訳では、ヴァリーニャの肌は黒いと表現されており、もしかしたらマンパンの衛兵たちと同じ種族なのかもしれない。ソンナフウニカンガエテイタジキガオレニモアリマシタ。仲間たちとは価値観が著しく違って腕力を誇示することを嫌い、毛を剃って御洒落な変わり者。文化かぶれ。そんな彼もマンパンで見出され、より力を発揮できる役職に抜擢されたのではないかと。でもそんなことはなかった。
 原文及び創土訳では、彼の肌は茶色であると明記されている。一方衛兵達は黒いと書かれており、明らかに別種族だ。茶色の肌というと、日焼けした健康的な小麦色かな? とも思ったが、ヴァリーニャの生活を想像するに、そんなことはしそうにない。毎日部屋に閉じこもって金貨を数えているに違いない。
 すると、元来茶色の肌をしているということになる。カーカバード、いやタイタンを見渡して該当する種族を探して見ると、『トカゲ王の島』に登場するオイスターベイのマンゴーなど、南方人がそれっぽい気がしてきた。どうだろうか?

 タイタン世界を省みずにヴァリーニャという人物を見れば、彼は『アラビアン・ナイト』に登場するようなペルシャの金持ちをモチーフとしていることは間違いない。金貨を溜め込む習性といい、頭に巻いたターバンといい、珍しい動物を飼っていることもそうだし、肌の色もそうだ。『サムライの剣』の八幡が日本をモチーフとしているように、アラビアをモチーフとした土地がタイタン世界にあれば、ほぼ間違いなくそこがヴァリーニャの出身地だろう。

 アラビアといえば「瓶の魔物」も『アラビアン・ナイト』出展の存在だ。女サテュロスに瓶の魔物をもたらしたのは人間とのことであるが、ヴァリーニャと関係があるかもしれない。シフーリが言うには、瓶の前の持ち主はもう死んでしまっているらしいが、ヴァリーニャがマンパンを訪れたときには、瓶を持った連れがいて……などと妄想するの面白そうだ。あの守銭奴が1人ではるばるマンパンまでやってきたとは思えないし、奴ならばマンパンで出世を重ねる間に、謀略を駆使したのは間違いないだろうからだ。ヴァリーニャと共にマンパン入りしたその人物は、砦の権力争いに破れ、「瓶の魔物」だけは奴に渡してはなるものかと砦を脱出したが、女サテュロスの村で力尽きたのである……。妄想は尽きない。

(9/20/11)

【追記】  
 『モンスター事典』によれば、黒豹は南方に生息するとある。ヴァリーニャが元々連れていたのか、それともマンパン砦入りして今の地位を得てから飼い始めたのかはわからないが、マンパンの地に黒豹が住んでいるとも考えにくい。砦に黒豹を売りに来た商人がいたのかもしれないが、ハシを失った時のヴァリーニャの嘆きを考えると、ヴァリーニャは昔からハシを連れていたと考えたいところではある……

(1/17/17)

【追追記】  
 AFF2の『ソーサリー!キャンペーン』シナリオを見返していたら、ここではヴァリーニャをして「the chief Tax Collecter for the Archmage」と紹介していた。英語原文では「First Assistant to the Lord Treasurer」であり、故にヴァリーニャはあくまで助手であり、組織上は上官が存在するのだと考えていたのだ。TRPGシナリオ化する時に、第一助手からチーフに昇進したわけだ。

 ところで「第一」助手であろうと、チーフであろうと、彼にも部下あるいは下位にあたる者がいるということである。
 マンパンの人員組織図がまた少し見えてきたと思われる。

(6/2/18)

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