★ ラドルストーンにおける大蛇対策

 月大蛇を相手に炎を起こすための道具として、稲妻粉なるアイテムの存在が示唆されるシーンがある。原文では flash-fire powder と「火」が含まれていて、確かにこれは月大蛇には効きそうだと思える。しかしこの稲妻粉、実際に手に入ることはない。『ソーサリー!』全編を通じて、稲妻粉なるアイテムは登場しないのだ。眠れぬラムにおける「黄色い果物の皮」と同じパターンである。

 それでも探してみると、flash powder なる存在が見つかった。こちらは「閃光を放つ粉末」と訳されている。ラドルストーンからマンパンへと誘拐されてきたファレン・ワイドの発明品ということで、彼の説明によると矢をより遠くまで飛ばすことができるものらしい。火薬みたいなものだろうか。この両者が同一なのかどうかはわからないが、もしも同じであるならば、ラドルストーンは月大蛇に有効な対抗手段を持っているということになりそうだ。

(2/11/23)

★ すべて嘘っぱち

 第四巻の表紙イラストを見てみよう……創土版のやつではなく、創元版にも使われた原書のイラストだ。ここにはザメンの山々を背後に、大魔法使いと思われる男が冠を手にしている。この男が影武者であり、冠は「諸王の冠」であることは間違いあるまいが、気になるのはもう片方の手にぶら下げた振り子だ。こいつはアナランドでは幻を作り出すために使われる触媒の品だ。魔法のホブゴブリンを生み出すなど、大魔法使いの繰り出す魔法はアナランドのそれに近い。となれば、この振り子の使い道もおのずと想像がつく。

 大魔法使いは幻影を使いこなしている。時大蛇が守っていた「大魔法使いは見た目ではそれとわからない」という秘密が、これに関係していないというのは不自然だ。ゲーム中ではファレン・ワイドなるラドスルトーン人の中に冥府の魔王と化した魔法使いが潜んでいるわけだが、ここには幻影の要素は一切ない。そう、ないように見える。しかし、我々は知っている。大魔法使いにまとわりつく幻影の存在を。
 バクランドで出会ったケチな幻術使いレンフレンを思い出してみよう。奴は自らを死霊に見せかけていた。つまり、冥府の魔王という存在が幻であったという可能性は考えられないだろうか? あのクライマックスの戦いでファレンは悪魔に変身し、そして敗北して屍となると、再び人間の姿に戻る。そう、レンフレンと同じだ。
 ファレン・ワイドにはラドルストーンの科学者という肩書があり、マンパンへは攫われてきたと言うが……ジャンによればすべて嘘っぱちだという。普通に考えればジャンの知識が偏っているだけと思えるが、今回の考察においては、このミニマイトは正しく真実をついているということになる。ファレン・ワイドと名乗ったあのさえない男こそが、大魔法使いその人だったのだ!

 ファレンとシンの篤志家のつながりについても、こう考えることができるだろう……すなわち、ファレンはピーウィット・クルーたちをも見事騙していたのだ。大魔法使いが己を脅かすかもしれない鳥人の勢力を削るべく、篤志家狩りを行っていたとするのであれば、むしろ篤志家を守らなければならない。ピーウィット・クルーたちが殺されてしまえば、それ以上鳥人たちを抑え込む口実がなくなってしまうからだ。

 最後に残る辻褄合わせは、冥府の魔王を倒した後、ファレンの死体にRESをかけて生き返らせたときの展開についてだ。この時ファレンはいかにも「自分は大魔法使いに乗っ取られていました」という体で礼を言い、主人公が砦から脱出するための手助けをしてくれる。この流れは完璧に見える……だが、ファレンが大魔法使いであった場合を考えてみると、彼はこの恐るべき敵を一刻も早く厄介払いしたいのではなかろうか。安全な状態で体力回復を図り、体制を整えたいはずである。
 『ソーサリー!』のエンディングは、取り戻した冠を手にアナランドへ戻らんとするところで終わっている。果たしてこの冠が本物かどうか。確実な判定はされていない。まんまと一杯食わされたアナランド人が、偽の冠を手に引き上げてしまったという可能性は0ではないのだ。

(2/19/23)

【追記】  
 本編の記述をよく確かめてみると、ファレンその人が変身したのではなく、ファレンの身体が床にぶったおれている状態で悪魔が実体化しておりました。
 だが、このファレンの身体が幻影の産物ではないとは誰にも証明できない。幻影魔法は便利すぎて、トリック的に使いだすと収拾がつかなくなりますね……

(2/20/23)

★ 〈旅人の宿り〉亭廃業

 カレーの悪名高い〈旅人の宿り〉亭。ここの亭主は気が狂っている。寝静まった旅人の部屋に忍び入り、深夜うきうきと例のギロチン仕掛けを組み上げていく姿を想像してみるがいい……というのは、件のギロチン刃が部屋に常時仕掛けられているのだとしたら、旅人が寝るときに天井から吊り下げられたギロチンに気づかないわけがないからだ。あの男が夜中に寝ている犠牲者の枕元で作業しているのは確実なのである。それとも天井が開くようになっていて、常にギロチンは天井裏でスタンバイされているのだろうか。だがそれでも寝ている旅人の手首に縄を仕掛ける必要はあるだろう。それに枕の位置などの工夫はしているだろうが、確実に刃が首に落ちるように刃の位置を調整しなければならないはずだ。
 さて、そうなると仕込みを行っている最中に、万が一にも目を覚まされるわけにはいくまい。酒に何か仕込んでいるような宿なのだから、何らかの手段で一服盛っているのは確実だ。香などを嗅がせているなんてのはありえそうな話だろう。
 いずれにせよ、ただ単に殺すことのほうが簡単なのにそれをしないということは、どうやらこれはその過程を楽しむ質の悪い異常者ということらしい。

 ところで旅人が正しい選択をした場合、彼は悪態をつくだけで、あっさりと解放してくれる。港に集うような荒くれ水夫相手にこんなことをしたのなら、報復に店を叩き壊されていても不思議ではない。赤目だったりした日には、間違いなく焼かれてしまうだろう。おとなしそうな旅人だけを選んでいるのかもしれないが、今回彼が悪さをしたのはアナランドの英雄になりえるほどの戦士、あるいは魔法使いであった。いずれ〈旅人の宿り〉亭は廃業となるだろう……どう考えても彼の眼識は甘い。やっちゃいけない相手に悪戯を仕掛けてしまう日はそう遠くないと思われる。

(2/26/23)

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