クラタ族によって破壊されたスロフの神殿。しかし被害を被ったのは建物だけではなかったらしい。
「前略されどスロフは公正じゃ。命は助けてつかわす。ただし条件がある。信仰する女神リブラを捨て、これよりスロフをあがめよ。さすれば自由を与えよう。拒めば命はない。そなた次第じゃ」
「無理です! もう自分はスラング教徒なので……!」
荒ぶるスロフもリブラと同じく善の陣営に与する神。さすがにカレーにおけるアナランド人の棄教を知らぬはなかろう……なのに、なんたる記憶障害! いやいや、これには何か理由があるはずだ。このシーンで怒れるスロフは自らを象ったらしき像の口を借りているのだが、この像の後頭部――要するに脳――が損傷していたに違いない。クラタ族の棍棒おそるべし……
ダンパスとビリタンティをつなぐ道は何本があるが、その中の一つには橋守がいる。シャムタンティ特有の高い丘にまたがるこの吊り橋は別段特別な場所へ通じているというわけではない。にもかかわらず、一人の背むしの男が橋を渡る者を選んでいるのである。しかもただの男ではない……何やら怪しげな術を使う、魔術師だ。
ヴァンカスと名乗るこの背むし男は、橋を渡ろうとするアナランダーにいくつかの問いかけをしてくる。正解しない限り、橋を渡ることはできない。ゲーム的に見ればプレーヤーの記憶力を試すタイプの謎かけで、劇中の視点で考えてみると、どうにも不可解な問答となっている。彼の質問は二つ。シャムタンティに住む魔女・アリアンナの名前と、アナランドからこの橋までに通過した村の名前だ。先にも述べた通り、この橋を渡ることに特別な意味はない……先へ進む道は他にもあるし、実際問いに答えられなかった場合にはそちらへ回される。しかし、橋を渡ることに意味はなくとも、問いに答えることで得られる恩恵は存在する。見事に正解したアナランダーにヴァンカスは謎めいた詩を聞かせてくれるのだ。これは実は第一巻のクライマックスである鬼神迷宮の攻略ヒントとなっているわけだが……果たしてこれらの事象はうまくつながるだろうか?
ヴァンカスが迷宮のヒントを握っていることについてはさほど不思議ではない。彼は魔術師なのだ。それに、ちょっと進んだところにあるビリタンティには、すでに迷宮で起きている事件(スヴィンの酋長の娘が誘拐されている)の情報は伝わっている。正解者に対して迷宮攻略の手助けをするということは、この問いかけで事件を解決することができそうな者を見出せたということだろうか……しかしアリアンナと村々の名を記憶していることと、迷宮攻略との間に通じるものはないように思える。せいぜい彼の者の情報収集力が測れる程度ではないか?
では、次に事件解決そのものではなく、事件を解決することで得られる助力を見越していたとすればどうだろう。スヴィンの娘を救出すると、村総出で大喜びとなる。謝礼として金貨十枚がもらえるほか、カレーに入るための鍵が提供される。ヴァンカスがその怪しい魔力で以て、冠の盗難とその回収任務を知っていたのであれば、アナランドの代表戦士がカレーを通過する必要があることも掴んでいただろう。件の鍵の入手のため、アナランダーを導いたと考えることはできそうだ。例の問いも、アリアンナについてはよくわからないが、旅路における村々の名前のほうは順まで問うていることから、彼が本当にアナランドから来た人物かどうかを確かめたのだともとれる。ヴァンカスはカーカバードにおける数少ない協力者だったのかもしれない。
しかしこの鍵、実のところ第二巻冒頭で全く役に立たないのがなんとも締まらないわけでして……
【追記】
さて、このヴァンカスのくれる迷宮のヒントである謎めいた詩だが、要約すると「左へ行かないと死ぬよ」という内容となっている。
これは例の竪穴から迷宮へと降ろされた状況でのみ適応されるアドバイスであり、迷宮の正規の入り口から侵入した時にはそぐわない。実際にアナランダーは竪穴から迷宮に入ることになるからゲーム的には正しいのだが、この詩を教えてくれるヴァンカスの立場から見るとちょっとおかしいことになっている。彼はスヴィン達が使う竪穴の存在を知っていたのだろうか?
完全に推測の域ではあるが、個人的にはヴァンカスには見た者の未来をある程度読み取る力があるのだと思う。ヴァンカスは己が認めた相手を待ち受ける未来の試練を知り、詩の形でアドバイスしてくれたのだ。即興詩人にして予知能力者。それが橋守ヴァンカスなのではないだろうか。
生き躯との戦闘シーンにはイラストがあり、この敵のグロさがダイレクトに表現されている。トラウマになった方もいるであろうと想像できるが、自分の場合はむしろ超個性的な敵キャラとしての興味のほうが勝っていたようだ。昔作ったアナログゲームにも、似たようなバラバラゾンビを複数回登場させたことがある。
ところで件のイラストを見る限り、生き躯には腰パーツが無いようだ。ios版ではカレーの貴人のなれの果てだとされているわけで、腰(つまり性器)が欠損しているというのは、「子孫も残さぬ」的な呪詛のようにも感じる……と思ったが、よく考えてみれば遭遇時――つまりダメージを受けてバラバラになる前――は一体のパーフェクトゾンビ状態だったはずなので、最初から腰が無かったのではなくアナランダーの一撃で該当部位が粉砕されたというのが真相のようだ。死体とはいえ、初手から躊躇なく急所狙いに行くアナランダー。旅立ちの前にみっちりチョーベリーの学園で武芸を叩き込まれていたわけだが、どんな訓練をしていたか、その一端を掴んだように思う。