★ 鬼神洞窟とマンティコアについて

 『モンスター事典』によれば、マンティコアという怪物は何世紀も昔に西の海の彼方の気狂い魔導士によって生み出されたという。同著にはアランシア西海岸部と、カーカバードの地図しか載っていない。おそらくは、この本が出版された時点でのタイタン世界はまだ狭かったのだろう。件の魔導士に関連する「西の海」という名称は、アランシアの地図の左半分にでかでかと載っている。後にタイタン世界の地図がまとめられた際、この先には旧世界が配置された。先の二つの地図しか付いていない『モンスター事典』において、旧世界といえばほぼカーカバードだと言っていい。つまり、マンティコアが生み出されたのはかの悪の吹き溜まりだったとみなすことができそうだ。

 そのマンティコアは、第一巻のボスとして登場する。遭遇地点はトレパニ近郊の鬼神洞窟だ。ここは天然の洞窟と遺跡が組み合わさったダンジョンであり、明らかに知的生物によって設置された数々の罠が待ち受けている。魔導士の住みかと言われればいかにもだ。『モンスター事典』の記述によれば、魔導士は自ら生み出したマンティコアによって殺されたとある。その後マンティコアたちは散り散りになったらしいが……この洞窟が本当にマンティコアの故郷であるのだとしたら、その中の一匹が残ったのか、あるいは放浪の果てに古巣に戻ってきたというのはありえそうな話ではないか?

 トレパ二の住人であるスヴィンたちに伝わる禁忌も興味深い。村の命運を握る娘を連れ去られてなお、彼らはこの洞窟に真っ向から立ち入っていかない。村が滅ぶことよりも禁忌を犯すことのほうを避けているのだ……もっとも、縦穴を掘って侵入するという裏技は用いているのだが、ちょっと悠長に思えてならない。これはよほどの強制力が働いていると見える。
 ところでスヴィンというのはマンオークのことなのだが、これは、かつてこの地でオークが人間と雑婚した事実があるということを意味している。マンティコアによって殺された魔導士がどれほどの軍団を抱えていたのかは不明だが、闇の軍団兵としてオークは定番だ。鬼神洞窟の遺跡部分がかつての研究施設であったのなら、粗野なオーク兵を立ち入り禁止にしていたとしてもおかしくはない。過去に魔導士に支配され、その魔力によって植え付けられた強制心理が今なお彼らの血統に残っているのだとすれば、これはかなり強力な使い手であったと言える。鬼神洞窟の罠の数々は数世紀を経てなお作動する。その中の一つ、魔の洪水に至っては本文中で「シャムタンティの歴史において、逃げ延びた者はいない」と評されるほどだ。機巧技術の腕も並大抵ではない。おそらくは、「諸王の冠の言い伝え」に出てくるカーカバードの戦卿たちの一人だったのではあるまいか。

(5/7/23)

★ Scholastic版Sorcery!のこと

 『ソーサリー!』は英語原文版でも何度か再販されている。自分が所持しているのはPuffin Books版とWizard Books版なのだが、実はもう一つ、Scholastic社による復刻が存在しているのだ。実は最近になって、このScholastic版の第一巻と第二巻では本文イラストがおなじみのBlanche氏ではないことを知ったわけでして、Amazonで調べてみたところいくつかの挿絵について「イメージを見る」でチェック可能であったと。こいつは穏やかじゃないぞ……!

 第一巻の表紙はやはりマンティコア。しかし、どうやら火を吹いているようにも見えます。本文中の挿絵は3点確認できましたが、疫病村のイラストと思わしき一枚にはなんと武装した人々が。一目でそれとわかるシャンカーのゴブリンはともかく、大蛇のイラストは尾が二股になっておらず、本文描写と乖離しているようです。正直魅力には欠けますが、これもまた『ソーサリー!』の一バリエーションであることには違いない。

 第二巻も同じようにいくつかのイラストを見ることができました。表紙はこれ、頭の触覚から判断するにおそらく肥喰らいですかね。やっぱりカレーの表紙はこいつなんだよな。では本文の挿絵も見てみましょう。シャムタンティと同じく、三枚確認できました。最初はカーニバルのレスリングのシーン。カグーがなんかものすごい体格で、アンバーに勝ち目はほぼなさそう。これでは賭けが成立する気がしない。お次は下水道の主。やっぱり表紙はいつものあいつだった……口怖ぁ。これはめっちゃ強そう。こんなん技量点16ぐらいあってもおかしくない。
 そして最後の一枚……北門の硫黄霊が描かれている!? これは従来の版には存在していない新イラストではないか! この一枚の存在が、Scholastic版のシャムタンティとカレーを買えと語りかけてくる……うーむ、やはり抑えねばならぬのか? 大いに迷うところである! 他にも新たな描写のイラストがあるのだろうか?

(5/13/23)

【追記】  
 第三巻と第四巻はBlanche氏なのであるが、表紙に関してはScholastic版独自のものだ。第四巻はおそらくマンパンの大魔法使いと思わしき男性なのだが、ちょっと変わっているのが第三巻。なんとスナタ猫である。オリジナル版はフェネストラ、Wizard Booksの復刻と創土版では七匹の大蛇をモチーフとした新イラストであったが、ここへきてまさかの抜擢だ。その能力はもちろん、二か所で登場するなど確かになにかと印象的な敵ではあるが……正直意表を突かれた感じで面白かった。

(5/17/23)

【追追記】  
 件のAmazonはこちらのアドレス。是非チェックしてみていただきたい。

 https://www.amazon.co.jp/Fighting-Fantasy-Sorcery-Shamutanti-Hills/dp/1407186213
 https://www.amazon.co.jp/Fighting-Fantasy-Cityport-Steve-Jackson/dp/1407188488

(5/17/23)

★ Fly-plague

 創土訳では「蠅病」、創元訳では単に「伝染病」と訳されたこの単語。どこに登場するのかというと、第四巻で出会うジャヴィンヌが、憎き物見たちに対して言い放つ台詞の中だ。


 みんなまとめて蠅病で死んでくれても、涙なんか一滴だって流さんよ。(第四巻 パラグラフ302)

 蠅の疫病とくれば、まず頭に浮かぶのはペストだが、ここはマンパン砦だ。例のトイレのことを忘れてはいけない。あそこにも蠅が群がっており、受けるペナルティもあったはず……シャムタンティの流行病にしろ、バクランドの黄死病にせよ、この手のペナルティは疫病関連であることが多い。改めて調べてみたところ、技術点と体力点を共に1失い、後に条件を満たしたときにさらに両ステータスが1減点されるというものであった。本文中にもはっきりと「蠅は病気の運び手」「感染した」とある。これはもう間違いがあるまい。これこそが蠅病だろう。

 ちょっと気になるのは、トイレで嘔吐していても笑い声で返されるところだ。どうやら砦の住人達はあまり深刻な問題としてとらえていないらしい。あまりにもトイレが汚いためか、この手の出来事は日常茶飯事のように取れる。先に見た通り、病の初期症状は極めて軽度なので、事の重大さがわかりにくいのかもしれない。だが、ジャヴィンヌは治療師だ。彼女にはその恐ろしさがわかっており、やがては死に至ることも承知なのだろう。

(5/21/23)

【追記】  
 トイレと物見たちがたむろしている中庭の間には第一のスローベンドアがある。果たして病の蔓延には支障はないのだろうか? という点については、少なくとも中庭の空が開いているため、鳥人たちの行き来は可能だと思われる。トイレのあるセクションで起きている襲撃事件の容疑者は鳥人だったことも考慮にいれたい。さらに言えば、第一のスローベンドアの鍵は衛兵たちが管理している。鍵さえ使えば、誰でも通れるのだ。このドアを通る者が珍しくないのは、中庭に入ってきたアナランド人が物見たちに目撃されていることからも明らかだろう。正体がばれていない場合、このドアを通ったことで咎められることはないのだから。スローベンドアについては正直辻褄の合わない部分が多いが、少なくともこの第一のドアに関しては、多くの往来があると思われる。そうでなくては、砦の外へ侵略部隊が出ていくこともできないことになってしまうではないか。シャドラクの元へ衛兵が送られたことからも、砦の外へ派遣されるのが鳥人だけではないことは確実だ。そうでなくては困る。

(5/21/23)

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