さしものマンパンでも手に余る手合いはいるらしい。物見や赤目らのならず者どもはもちろんだが、それ以上に手を焼いていると思われる輩も存在する。カオス極まる変異ゴブリンなぞは一部屋に押し込められ、衛兵隊長の言によれば幾度となく暴れて面倒事を引き起こしているらしい。そんなに面倒なら、いっそのこと大処分してしまったらどうかとも思うが、やはり無傷でとはいかないのだろう。黒い肌の衛兵たちと鳥人たちが対立するマンパン砦で、双方なるべく自分たちの被害は抑えたいのだと思われる。一応は砦の内情を知らない者(例えばアナランド人のような侵入者だ!)にとっては罠としても働く一面もある。お互いにここはいったん現状維持として、相手側が動くのを待って膠着しているにちがいない。
さて、他にも変異ゴブリンと同じような扱いを受けていそうな者が見つかった。「とげとげした奴ら」ことスパイニー・ワンズ。AFF2『ソーサリー・キャンペーン』にて正体が判明した大山荒だ。彼らもまた、真っ暗な部屋に押し込められている。わかっている範囲ではこの部屋はどこにも通じていない行き止まりだ。闇に閉ざされたこの部屋の奥にマンパンの秘密が隠されている可能性は0ではないが、『ソーサリー・キャンペーン』でも特に何も触れられてはいない。それに、直前の部屋にいるリッドが「とげとげした奴らに会いに来たわけはない」と話していることからも、例の部屋には秘密など何もないと考えるのが自然だろう。
問答無用で殺しにかかってくるこの生き物が、マンパンで厄介者扱いされている可能性は高い。どこに配置してもうまくいかず、結局誰も立ち入らないような行き止まりの部屋に幽閉せざるを得なかったに違いない。
実際にヤマアラシという生き物は夜行性なので、真っ暗な部屋で閉じこもっているのは不自然ではないかもしれない。連中がこの部屋を縄張りと認識しているのであれば、部屋から出てこないことも、侵入者に対するあの問答無用っぷりも納得がいく。
マンパン砦の第一セクション、例のトイレがあるエリアではこんな話を盗み聞きすることができる。
この最後に出てくる「叩くような音」というのは間違いなく直前に主人公がとった行動によるものだろう。アナランダーは砦に侵入する際、正門の上によじ登って足でノックしている。しかし気になるのはそこではなく、前半部分である。アナランダーが侵入する直前に、マンパン砦では何らかの事件が起きていたということらしい。夜番の衛兵たちに何らかの被害が出たように読める。
しかし実際のところ、衛兵たちは中庭で「10あがり」に興じていたりとあまり緊張感が無い。砦の外回りの衛兵に至っては酒を飲んで寝ている始末だ。この空気感の違いはどういうことだろうか? どうやらヴァラックやハヤンギら第一セクションの衛兵のみが被害にあったということらしい。
主人公が砦に潜入する前に、砦で起きていたであろう出来事はこんなところだ。しゃべりすぎた男が捉えられ、さらし台に繋がれる。砦に潜入した豆人のジャンが捕まる。あとは大蛇がアナランド人の情報を携えて戻ってくる、というのもありえるが、これは外したほうがいいだろう。件の台詞の盗み聞きは、大蛇を殲滅していても起きるイベントだからだ。
しかしながら、これらの事件が第一セクションの被害と何か関連性がありそうかというと、正直ピンとはこない。さらし台の男が何をしゃべったかは不明だが、それが衛兵に被害を及ぼすとは思えない。ひ弱なジャンが衛兵を倒したなんて、もっとありえそうにない。多少の混乱は引き起こしたかもしれないが、シンの篤志家たちが暗躍したなどと推測されるようなものではあるまい。
ここはやはり、衛兵の推測通り篤志家たちが第一セクションの衛兵を襲ったというのが一番ありえそうだ。篤志家たちが衛兵と鳥人の対立を煽っているというのは、彼らの目的――大魔法使いの野望を打ち砕く――からも外れてはいない。スローベン・ドアによって砦内が分断させられているという状態を、篤志家たちはうまく利用して立ち回っているのだろう。
「スカンク熊の舌」。このなんとも奇妙な名を持つ植物が『タイタン植物図鑑』に載っている。かの動物の舌に形が似ている小さなシダとのことで、FFシリーズ28巻『恐怖の幻影』に登場しているらしい。分布はクール北部となっており、その栄養価は森エルフに珍重されているとのことだ……ちょっと待て?
『モンスター事典』によれば、スカンク熊は「カーカバードの山地」にしかいないとある。カーカーバードは旧世界と呼ばれる大陸の、しかも人々の交流が乏しい辺境の地だ。海を遠く隔てたクール大陸に生えるシダの名前に、なぜこんな名前がつけられたのだろうか。
スカンク熊の毛皮は交流品になっている可能性があるので、これがクールまで運ばれたという可能性はあるかもしれない。だが舌がなくてはならない。頭部付きの毛皮であればと考えることもできるが、舌が普通ついているかと言われれば首をかしげたくもなる……普通、上顎までではないか? だが「スナタ猫の透明器官」がアランシアに渡っているという話もあるので、カーカバードの珍獣を好む連中が別大陸に居ることは間違いない。だがここでもう一つ問題がでてくる。「スカンク熊の舌」を珍重しているのは森エルフなのだ。やはり『モンスター事典』を頼ることになるが、そこでは彼らはタイタン中にいるが、大きな森の隠里に住むとある。カーカバードにも森はあるが、ここに森エルフが隠れ住んでいるという展開は『ソーサリー!』本編には無い。もしカーカバードに森エルフがいたとしても、クール北部のエルフたちと交流――それこそスカンク熊の舌の形状についての情報が伝わるような――がある、あるいはあったかどうか。『ソーサリー!』本編ではカレー、バクランド、スナタ森、そしてマンパンでエルフと出会うことがあるが、そのいずれもが黒エルフだ。著者ジャクソンの明らかな意図が感じられるカーカバードの荒れ具合からして、実は森エルフも住んでいるというのは無理がある気がする。カーカバードは悪の吹き溜まりであり、まともな者であればそんなところに住もうなどとは思うまい。森エルフの隠里なんて存在しないと考えるほうが自然だ。
『タイタン植物図鑑』の記載に今一度戻ってみると、確かにそこには「森エルフが珍重している」とはあるが、「彼らがその名称で呼んでいる」とは書かれていないことに気付く。人間がそう呼んでいるだけなのであれば、スカンク熊の舌の実物も運ばれていてもおかしくはない。旧世界とクールの間で交流は行われているからだ。スカンク熊の舌のほうが先に知られていて、後になってから森に踏み入った人間がシダを見つけ、そして森エルフに出会ったという流れであるのなら、この不思議な名称にも説明がつくというものではないか?
【追記】
カーカバードは長い歴史の中で、次第に悪に染まっていったという。なれば、大昔には森エルフがスナタ森などに住んでいたかもしれない。この地の汚染に耐えられなくなった彼らは清浄な森を求めて海まで旅をし、さらに新天地を求めてクールへ……もちろん、スカンク熊の舌を携えての旅だった。その後カーカバードでは件のシダは絶滅してしまったが、エルフとともに海を渡った地で再び大地に根を下ろしたのだ。
こんな想像も悪くはない。