実は前々から考えていたことがある。『ソーサリー!』の最大のゲームギミックにして、シリーズ名にも直結する「48の術」についてだ。
過去二度にわたり日本語訳されたこのシリーズ。そのいずれにおいても、アルファベット3文字での術表記を原書から継承しています。なにを当たり前のことを……と思うかもしれませんが、ここに自分は引っかかってしまったのである。
ジャクソン氏が作り出したこの魔法システム。最初に英語で書かれたその時点でここに込められたゲーム性はこのようなものだったはずだ。
・冒険を始める前に魔法を覚えておき、プレーヤーは記憶を頼りに適宜選択して困難を切り抜ける。
・それぞれの魔法は内容を連想できそうな名称を持っており、冒険の初期には紛らわしい「偽の魔法」も選択肢に現れる。
私の言わんとしていることが少しでも伝わっただろうか?
そう、過去二度の翻訳のいずれも(そして『ソーサリー・キャンペーン』の日本語訳においても)2つめのゲーム性が失われているように思えてならないのだ。
英語になじみのあるプレーヤーであれば、HOT や BIG 、SIX などは覚えやすいはず。そして KIL なんかには惑わされるに違いない。実際 KIL は第一巻においては正しい魔法を全て退けて最も多く選択肢として現れる。(8回)
ほとんどの魔法には元となった単語や言い回しが存在し、プレーヤーは魔法を覚える段からすでに試される遊びとなっているのだ。
しかし日本人プレーヤーの多くは、上にあげたようなわかりやすい例を除くと3文字のアルファベットをただただ丸暗記するしかない。
今ままでの翻訳版では、ゲーム性のローカライズが不十分なのでは……そう一度考えてしまった以上、これはなかなか頭から離れてはくれないわけである。
このゲーム性を担保するにはどうすればいいか。大分考えさせられたが、一応の結論は自分の中では出た。(ただし、多くの共感を得られるとは思っていないが)
アルファベット3文字による表記をやめ、漢字にしてはどうかというのがその答えだ。
「解錠」はあっても「解鍵」は無く、「轟雷」「爆炎」はあっても「爆轟」は無い。ルビの助けはあれど、漢字による呪文表記自体は『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』や『Wizardry』日本式解釈にみられることを考えれば、あながち雰囲気ぶち壊しということもあるまい……少々強引とは承知の上。
参考までに、偽物を含む各魔法の元ネタワードと思わしきものをリストにしておきます。
これを踏まえてジャクソン氏が練り上げたゲーム性を100%楽しんでいたと言えるかどうか……。自分は残念ながらそうではなかったと考えざるを得ない。
ZAP | zap | 素早く打ち砕く |
HOT | hot | 熱い |
FOF | force field | (SFなどに登場する)目に見えない障壁 |
WAL | wall | 壁 |
LAW | law | 法令 |
DUM | dummy | ばか、まぬけ |
BIG | big | 大きい |
WOK | wok? | 中華鍋? カーカバード東洋説の裏付けがここにも…… |
DOP | door open | ドアが開く |
RAZ | razor | 剃刀 |
SUS | suss | 犯罪の疑いをかける、(…を)調べる、(…を)突き止める、見抜く |
SIX | six | 六 |
JIG | jig | ジグ(ダンスの一種) |
GOB | gob | ゴブリン |
YOB | yob | チンピラ、不良少年 |
GUM | gum | ガム、粘着性 |
HOW | how | どのように |
DOC | doctor | 医者 |
DOZ | doze? | まどろむ、うたた寝する? |
DUD | dud | 偽物、偽造品 |
MAG | magic | 魔法、魔力 |
POP | pop | 音を立てて |
FAL | fall | 落ちる |
DIM | dim | 頭の鈍い、おぼつかない、あいまいな |
FOG | fog | 霧 |
MUD | mud | 泥 |
NIF | niff | 悪臭 |
TEL | telepathy | テレパシー |
GAK | gak? | オエッ(不快感)? |
SAP | sap | 奪う、消し去る、搾り取る |
GOD | gold / god? | 金 / 神? |
KIN | kin | 同類の人、同質 |
PEP | pep | 元気、気力 |
ROK | rock | 岩 |
NIP | nip on to / nip into the store | ~へ走る[急ぐ] / 店までひとっ走りする |
HUF | huff | 激しく呼吸する、激しく吹く |
FIX | fix | 固定する、とどめる |
NAP | nap | まどろむ、うたた寝する |
ZEN | zenith? | 天頂? |
YAZ | ||
SUN | sun | 太陽 |
KID | kid | からかう、かつぐ |
RAP | rap | おしゃべり、雑談 |
YAP | yap | 犬の吠え声、絶え間ないおしゃべり |
ZIP | zip | (データの)高速送信 ※当時使われてた言葉かどうか気になる? もっと新しそうではあるが |
FAR | far | 遠い(時間) |
RES | resurrect | 生き返らせる |
ZED | zed | アルファベットの Z の発音(英国) ⇒ 最後(の呪文) |
FAK | fake | フェイク、偽造 |
NIT | nit | ばか、まぬけ |
SIT | sit | すわる、うずくまる、(鳥が枝に)止まる |
JAP | jamp? / japan? | ジャンプ? / 漆? |
ZEL | zelotypia? | 熱狂症? |
DIP | dip | 漬ける、(水に)浸す、沈める |
RIS | rise? | 上昇? |
GOP | ||
PAP | pap | (幼児・病人用の)柔らかい食べ物,パンがゆ |
DOM | doom? | 命運、破滅? |
RAW | raw | 皮のすりむけた所,すり傷,痛い所 |
FAM | first aid materials / first aid measures | 救急品 / 救急処置 |
RAN | ran | run(走る、すばやく移動する)の過去形 |
HOP | hop | 跳躍 |
WIK | wicked? | 危険、悪ふざけ、とっても? |
FIL | fill | 満たす、埋める |
BAM | bam | 突然の非常に大きな音 |
YAG | YAG laser? | YAGレーザー? |
LAM | lam | 棒で殴る、打つ、やっつける |
MUG | mug | 悪党、ごろつき |
VIK | Vik | NPCの名前(ヴィク) |
BAG | bang | ぶん殴る、ドンドン |
KIL | kill | 殺す |
FIF | fif | 半分に分ける |
SUD | sud | 突然死、泡 |
【追記】
ここで問題になるのはVIKである。これは第二巻に登場する人物の名前で、原文だと VIK となっている。呪文の選択肢として現れるが、実は彼の名前そのままだということだ。
これを先の呪文表記法に当てはめようとするとどうなるか。まさかカレー在住のタイタン人の名前が漢字表記にすることはできない。やるなら八幡かぶれにアレンジしないといけないが、超訳どころか改変にまで踏み込むことになるだろう。
「比丘」……いや「日久」? 少々厳しいが、他の意味もありげな当て字しかない気がする。
あとはルビにアルファベット三文字をそのまま併記するか!
……ふむ。他の呪文もいい感じになりそうじゃない?
基本六魔法は、たとえばこんな感じかな。
……フォースは「理力」としたい世代なのです。
ジャクソン氏が手掛けたFFシリーズ第24作、『モンスター誕生』に「スナッタ猫の透明器官」なる存在が登場していると情報をいただきました。TRPG系(FF、AFF、AFF2)ならともかく、『ソーサリー!』以外のゲームブックは全くのチェック範囲外だったので、これは盲点でした。
さて、『モンスター誕生』を確認してみると……最終盤のガレーキープ内に、様々な動物のパーツや「地獄犬の発火器官」と共に件の「スナッタ猫の透明器官」の標本があったというわけです。この猫の持つ透明化能力は研究に値するという判断なのでしょう。
文中の描写によれば、緑色の小さな肉塊とされるこの器官。つまりスナタ猫の透明化は、連中の毛皮に備わっていたわけではないということです。肉塊というだけではこれが臓物なのかどうかはわからないが、仮に内臓だとしたなら、透明化を引き起こすホルモンを分泌しているのかもしれません。血流やリンパなどで運ばれたホルモンによって、毛皮が透明化するという線はありな気がします。
第三巻で姿消しに失敗していることに気づいた猫が透明化するシーンの描写などから、奴らはこの能力を意識的に発動させていることはわかっていました。猫自身が死んでいるのなら、剝ぎ取られた毛皮が何らかの拍子で透明になってしまう――つまり首狩り族のポロリの可能性はほぼあるまいと考えていましたが、今回のことで完全に100%安心安全だと確信できました。緑色の肉塊さえなければ、絶対に透明化することはないのですから。
カントパーニの住人に金貨二枚を支払うことで、受けることができるありがたい忠告がある。
ちなみに創元版ではこうだ。
「冷静でいろ」に「方角に気をつけろ」と、ここで解釈が違っているのだが……気になる原文は「keep your head」だ。
keep your head という英語成句は「取り乱すなよ」とか「慌てるなよ」という意味であり、ここだけを見ると創土訳が正しくて旧訳が間違っているように見える。しかし原文の続きを見てみると……
……となっている。Head onwards 、つまりしっかりと前に進んでりゃクリスタタタンティに着くだろうということで、Head 繋がりの文脈となっているわけだ。舳先を向ける、などの言い回しでも普通に head を使うので、なるほどこれならば「行く先を見失うな」という意味にとれる。
参考までに、日本語版『ソーサリー・キャンペーン』では該当する情報は「道から外れず進むことだ」となっている。しかし、調べてみるとこれは原文からして「steps forward and scowls at your approach.」と変わってしまっており、keep your head は消えてしまっていた。『ソーサリー・キャンペーン』では、旧訳と同じニュアンスで原作を解釈したということだろう。
どっちも解釈としてはありというわけだが、では実際にこの道を見てみよう。そう、カントパーニからシャンカーの間には分岐点がある。いわずと知れた首狩り族のテリトリーへ迷い込みかねないあの分かれ道だ。道を誤れば、クリスタタンティどころかシャンカーにもたどり着けない。こうなると、「行き先を見失うな」に旗をあげたくなるというものだ。
しかし自分としては第三の説を提示したい。
この分かれ道には首狩り族の犠牲者――つまり数々の首が掲げられている。keep your head 。文字通り「頭を取られるなよ」という意味も込められているのではないか?
それを踏まえると、こんな訳はどうかなと思う次第であります。