★ ギフト

 マンパンの大魔法使いの忠実なる僕である七大蛇。シャドラク曰く、彼らは大魔法使いが退治した大ヒドラの首から、死人返りの術でもって生み出した怪物だという。七本の首から生み出した大蛇それぞれを信奉する神々に捧げ、神々はそれに答えて「力」を与えたとのこと。
 ……だが、設定資料集『タイタン』を紐解くまでもなく、七大蛇に対応するのは邪悪な神々ではない。少なくとも太陽の女神グランタンカは、リブラと同じく善の勢力に組する神である。『タイタン』に記された、善悪の神々が争った”最初の戦い”で、彼女が作ったドラゴンたちが善側で参戦している。同じく『タイタン』に由れば、マンパンの大魔法使いが七大蛇をグランタンカを含む神々に捧げたのは、「趣味の悪い冗談か、あるいはこの時点で信仰していたか」としている。しかし、七大蛇がそれぞれの神に対応する力を備えているのは事実である。これを「趣味の悪い冗談で、それらしく演出した」と断じた場合、大魔法使いは地水火気及び、陽月に時の秘法に通じていなければ説明が付かない。彼がスローベンドアを設置して、マンパン砦の奥に閉じこもって身を守っている現状を考えると、ちょっとありえないと思える。そこまで力のある魔法使いであるなら、マンパンの勢力を実力で統制しうるだろうからだ。また、「趣味の悪い冗談で、神々に奉じた」と解釈した場合、これは神々が大蛇たちに力を授けたとは思えない。
 元々のヒドラがそのような特性を持つ種類だったと考えることも出来るが、残念ながらそんなヒドラの話は聞いたことが無い。もしもこのヒドラが、稀有な森羅万象の権化だったとしなたなら、それは魅力的な仮説であることは認めよう。だが、もしもそうだったとしたなら、当時の大魔法使いぐらいは返り討ちにしたのではないだろうか。それぐらい強力な存在でないとおかしい。
 色々考えて見たが、やはりヒドラを退治した時点で彼はこれらの神々を信奉していたようだ。

 またしても『タイタン』に由るが、コレトゥスが大魔法使いを襲った時点で、既に大魔法使いは悪の魔神たちと契約を交わしている。コレトゥスによる襲撃とヒドラ退治の時系列は不明だが、コレトゥスに関する『タイタン』の記述に興味深い点があった。引用しよう。


彼は若いころは冒険者で、マンパン砦の中に悪が生まれ始めたのを目撃した。これはマンパンの大魔王がカーカバード中に独裁を押し付ける究極の目的に向かって、まず手始めに行った行為だった。(『タイタン』185ページ)

 大魔法使いが砦を建設したことは、はっきりと『タイタン』に明記されている。にもかかわらず、ここでは「砦の中に悪が生まれた」と書かれているのだ。つまり砦を建設した時点では、大魔法使いは悪に染まってはいなかったということだ。もちろんザメンの鳥人たちをだましうちにしたりする具合だから、決して善人ではなかったろう。しかし、グランタンカやその他の森羅万象の神々を奉じていた可能性は高いのである。
 時が降り、アナランドから冠を盗み出す頃になると、もう冥府の魔王に転生しているぐらいだから悪にどっぷり浸かっているのは間違いが無い。

 さて、森羅万象の七柱の神々から大蛇たちに与えられた力(ギフト)だが、ゲーム中では難関として主人公の前に立ちふさがる。つまり、大魔法使いが悪に身を堕とした後も、この力は失われることはなかったということである。大魔法使いが悪の立場にありながら、グランタンカ他の神々への信仰を捨てていないという可能性は捨てきれない。善悪の立場というのは人間視点のものであり、神々の思慮は人間には計り知れないものだからである。『ソーサリー!』の冒険も、神々によるゲームとも取れなくもない。

 だが、自分は以下の説を推したい。それは一度与えたギフトは、もう取り消せないという神々のルールが存在するという説だ。『タイタン』を読む限り、そのようなルールがこの世界にあるとは思えないが、視点を変えて実際の神話体系を見てみよう。すると、ギリシャ神話がまさにこのルールを持っていることに気づく。トロイアの「正確な予言を行うが、絶対に誰も信じない」カサンドラが代表者だ。彼女はアポロンの寵愛を受け「正確な予言」のギフトを授かるが、その求愛を断った。アポロは予言の力を与えたことを悔やむが、神々といえども一度与えたギフトを取り消すことはできない。そこで、新たなギフト「だが誰一人信じない」(こうなると呪いだが)を与えたのである。
 そう、七大蛇たちにも同じような追加ギフトと思わしき制約が存在している。蛇の指輪を示す者にはマンパンの秘密を洩らさなければならないという、あのルールだ。大魔法使いには何一つ利点の無いこの制約こそは、悪に落ちたマンパンに対する神々からのささやかなギフトに違いない。

(8/1/12)

【追記】  
 決定的な証言をゲット! 土大蛇が蛇の指輪を突きつけられた際に「我らが神々の定めた掟に従い~」と言っている。大蛇たちと七柱の神々に関係があることは明らかになった。残るは七匹が生まれた段階で、指輪の制約ができていたという可能性だが……

(8/2/12)

★ グレド考察

 この単語に聞き覚えの無い方もいるだろう。これは創元訳では省略されてしまった文章に含まれている言葉で、フェネストラの台詞の中に登場する単語である。


(前略)グレドの名にかけて、この森でなにしてる?  (第三巻 パラグラフ282)

 
 この時点でグレドというのは何者かの名前だということがわかる。だが、それ以上の手がかりはまったく無く、その正体は不明だ。考えられるのはフェネストラが信奉する神か精霊、あるいは彼女にとって誓いの言葉になりうる程の人物、といったあたりだろう。

 フェネストラの信奉する神の名は一切『ソーサリー!』本編内では匂わされないため、彼女が信じるマイナーな神である線を否定するわけにはいかない。だが、グレドの名が設定資料集『タイタン』に見出すことができないという点は、グレドが神の名前であるという考えをぐらつかせるには充分だ。

『タイタン』では、フェネストラは黒エルフながら善の勢力に組する魔女とされている。彼女には黒エルフらしからぬ点が多くあり、父親の仇を討つことを目的としているとか、その父親が生きていたころには共に暮らしていたことを挙げている。だが、個人的には善というよりは中立な気がする。誰かのために戦うのはたしかに善のように見えるが、これが肉親のためとなると大いに私怨が含まれるからだ。いずれにせよ、フェネストラにとって、父親が大きい存在であることは間違いが無い。グレドの候補としての資格は充分にあるだろう。

(8/2/12)

【追記】  
 『ソーサリー探検帳』さんで「グレドはグレッド(『タイタン』に記されている幸運と運命の女神シンドラの別名)と同じではないか?」と考察されていましたが、FFのwikiにてシンドラの別名にGreddとあることを発見しました。『ソーサリー!』でフェネストラが口にするグレドも原文ではGreddとあり、『ソーサリー探検帳』さんの考察の裏付けがとれたことになります。『タイタン』と創土版『ソーサリー!』では訳者が異なるため、グレッドとグレドとそれぞれ違う訳となったわけです。

ところで『タイタン』によると、シンドラをカーカバードではチーラーと呼ぶとのこと。確かに盲目の聖人コレトゥスはチーラーの名を出していました。そして『タイタン』には続けてこう書かれています。ラドルストーン近辺やブライスではグレッドと呼ぶ、と。つまりフェネストラの生まれ、あるいは以前彼女がこれらの地方のどこかに住んでいたことがわかります。『タイタン』にはラドルストーンやブライスに黒エルフが住んでいるという記述はなく、また『モンスター事典』の黒エルフの項には「ほかのエルフがいないさびしい土地に住んでいる」とあります。ラドルストーンもブライスも決してさびしい土地ではないため、フェネストラの過去については不明のままということになります。

(3/22/15)

★ マンパンの騎兵

 マンパン砦の一室で、君はシャドラクの霊に出会うことになるだろう。彼は君に最後の力を振り絞って助言をあたえ、死に逝く。彼に死を与えたのはマンパンの衛兵たちだが、これは君と彼らがバクランドで行き違いになったという事を示している。拷問の末に放置されたシャドラクが力尽きるまでのタイムラグを考えると、奴らは君よりも足が速いということになる。以下は、君がシャドラクと接触してからの時間割である。

【初日】
 梢のシャドラクの顔(ここでマンパンに気付かれた可能性が出てくる)
魚尾ヶ岩のシャドラクのところで一泊

【二日目】
 バクランドで一泊

【三日目】
 スナタ森の入口で一泊

【四日目】
 フェネストラの塚を経由して、イルクララ湖畔で一泊

【五日目】
 時大蛇を倒し、ザメンに入ったところで一泊(第三巻の最後)

【六日目】
 三洞穴で一泊(第四巻の最初。実はここの間に1日山歩きをしている)

【七日目】
 砦のすぐ外で一泊

【八日目】
 マンパン砦に浸入、シャドラクから連絡来る。

 さて、「二日ほど前の夜に奴らは来た」ということは、六日目の夜ということになる。やはり徒歩で旅をしていた君よりも若干速い。衛兵たちがそんなに早く移動できる種族とはどこにも明言されていないし、本文中の彼らの様子は、あまり人間と変わりないという印象しか受けない。ならば、何かしらの移動手段に頼ったはずである。
 マンパンが誇る高機動力といえば鳥人である。だが、もしも鳥人が衛兵を運んだと考えると、もっと短い時間で到達できたはず。しかしこれは連中の仲の悪さからいって考えにくい。

 シャドラクの言葉の中に「魂は馬よりも速い」という表現があるが、これが単なる比喩なのか、本当に衛兵たちが馬に乗ってやってきたのかは判別つきかねる。だがバクランドの地理、特に沼地や森、ザメンの山地を考えるに、馬という可能性は低いのではないだろうか。

 馬ではないが、何か乗り物に乗っているようだ……答えとなりえそうな動物が、『モンスター事典』の中で見つかった。お化けトカゲである。アランシア南方のトカゲ兵らが騎乗用に訓練するというこのトカゲ、カーカバード北部にも生息するという。カーカバード北部といえば、もちろんザンズヌ連邦、マンパンである。それだけではない、マンパンの衛兵である毛むくじゃら種族の故郷であるティンパン川上流も、同じくカーカバード北部なのだ。これはもう間違いないのではないだろうか! 奴らには、お化けトカゲを騎乗用に調教する技術があるのだ。ゲーム内では登場しないが、マンパンは騎兵を持っているのである。

(8/2/12)

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