第二巻の冒険において、四行の呪文を集めきれなかった場合、主人公は単にミッションフェイルドになるだけで特に命を失うことはない。再び南門へ戻り、再度チャレンジするように示唆されるわけだが、これだと二度目の冒険では「初回に知ることができなかった行」を見つけることさえできれば、四行すべてを揃えなくとも「初回」の分を合わせてクリア可能ともとれる形となっている。こいつは大分甘い設定ではなかろうか。
四行詩だけのことを考えるのならそれでもかまわないのだが、その他多くの部分で齟齬が出ることは否めない。わざと四行揃えずに繰り返すことで、金貨の荒稼ぎもできるし、アイテムの重複獲得もし放題だ。ヴァンゴルンを何度も殺したりできてしまうので、ここはやはり必要な呪文を揃えずに北門に到達した場合のバッドエンドを調整したくなるというもの。
呪文の組み合わせを間違えると登場する硫黄霊にお出ましになっていただくのもありかと思ったが、それだと北門に近づいた者が悉く死んでしまうことになる。北の守りについている衛兵たちもいることだし、解錠を試みない限り、硫黄霊は出てこないとするべきだろう。
金貨を握らせて遠ざけることもできる衛兵たちだが、やはり彼らに不審者として捕まり、投獄されてしまうという形がベストな気がする。荒々しい連中のことだ、つい致命的な怪我を負わせてしまったり、相手が魔法使いだと知ったらその片腕を切り落とすぐらいはやってもおかしくはあるまい。カレーを留守にしている第一貴人サンサスが戻ってくるまで牢屋の中というだけでも、諸王の冠奪還行の失敗につながるタイムロスになるだろう。
『真・モンスター事典』を繰っておりますと、アナランドでは早駆け種なる馬を用いているとあった。おそらくは足の速い馬に違いない。だが、そんな馬があるにも関わらず、我らがアナランダーは徒歩で旅に出た。一体何故だ?
マンパン砦が建つザンズヌの山々やヴィシュラミ沼、イルクララを渡る際に馬が適していないのは確かだ。スナタ森も厳しいかもしれない。だが、バクランドやシャムタンティを進むには馬は悪くない気がする。旅路の途中で乗り捨てざるを得ないとしても、冠奪還という任務の重要度からすれば馬旅も選択肢に入れてしかるべきだと思える。しかし、そうはならなかった。何か理由があるに違いない。
旅立ちの際に物見頭はこう言っていた。「カレーから先、常に見張られている」と。この旅はできる限り密かに行わなければならない隠密作戦だ。軍隊派遣のように目立つやり方だと失敗するのは必定だと、冒頭でもはっきり書かれている。
それに、『ソーサリー!』の冒険中、馬を見かけただろうか? ……ざっと調べてみたが、バクランドの人馬を除くと、カレーに暴れ馬がいるのと、セスター・キャラバンの幌馬車隊ぐらいであった。あとはシャドラクの言葉の中に出てくるが、実際に目にすることはあまりないと言える。カーカバードにおいては馬は珍しいのだとすれば、目立って仕方がないという理由は成り立つかもしれない。
悪名高いカレーの〈旅人の宿り〉亭であるが、ふと、この宿を利用する旅人とは何者ぞ? と思った。知っての通り、カレーの北門は固く閉じられているのだ。
カレーを通過しようなんて、普通にはない話だ。アナランドの英雄は例外中の例外である。だが、〈旅人の宿り〉亭が商売を続けているのは事実だ。客は確かにいる。カレーで宿屋を利用する者となると、南門から入ってきたよそ者ということになるだろうか。カレーに用があって一時的に滞在するわけだから、港で船乗りたち相手に取引を行う商売人たちかもしれない。他には、船でカレーに来た水夫たちが泊まるケースもあるだろう。普段船で寝起きしているわけだから、揺れないベッドが恋しいということも十分考えられる。
……となると、例の「水夫狩り」が気になってくる。カレーの港では、野宿している浮浪者を船に労働力として連れ込むなんてことは日常茶飯事だ。〈旅人の宿り〉亭でも、酒で酔いつぶしてさらっていくことが往々にしてある。浮浪者なら問題ないが、宿屋のほうは商売相手や他の船の人員がターゲットになるわけで、こいつはトラブルを引き起こしそうではないか!
まあ、翌朝にはもう出航するなら、後腐れなく堂々と人員調達を行えるという考え方なのかもしれない。むしろよその船員であれば、経験豊かな人材として利点しかないというわけだ。