カレーの納骨堂で出会うシンヴァ卿は死霊と化しているが、倒すと正気を取り戻し、「生きながらの死」から解放された礼をとずいぶんしおらしい様子を見せる。酒場で聞ける話によると、この「生きながらの死」を授けたのはカレーの第三貴人だという。なんでも吸血鬼ともっぱらの噂だとかで、シンヴァ卿は哀れな犠牲者だという印象を持つかもしれない……だが、とんでもない!
『モンスター事典』の死霊の項を見てみよう。
確かに第三貴人の手によってシンヴァ卿は死霊となったのだろう。だが、見ての通りそもそも彼にその資質――真に邪悪な――がなければ、死霊には成り得ないのだ。最期の最期にリブラの使徒の手助けをしたからといって、死後の救済が約束されるだろうか? 実のところ、彼はあくまでカレーの北門を通り抜ける助けをしたしだけで、我らがアナランダーは冠奪還という正義の任務について明かしたわけではない。おそらくはまだ生前犯した罪のほうが大きいだろう。何しろ真に邪悪な人物であるのだから。まず間違いなく地獄行きではなかろうか。
『真・モンスター事典』には、これ以前のサプリメントである『モンスター事典』及び『超・モンスター事典』の掲載モンスターをも含めた出典リストが付いている。グループSNEのサイトにエラッタ情報も出ていたりするが、これは仕方ない。何しろ物量が半端ないのだ。バグ取りも大変な労力であったろう。
さて、このリストだが……角魔人の出典が「七匹の大蛇」となっている。十中八九誤記であろう。しかし、もしも本当に第三巻の冒険中、このヤカーとも呼ばれる角のデーモンが登場していたとしたら、それはどこに潜んでいるのだろうか?
先ず、このリストにおいて、ヤカーのイラストレーターはブランシュ画伯ではないことに注目したい。記された名は、おそらく『モンスター事典』のイラストを描かれたイラストレーターだろう。つまり、これは第三巻においては、イラストに起こされていないということになるまいか。この時点で、七魑魅は外される。正体不明の存在なので、もしかしたらヤカーの可能性も……と思っていたが、真っ先に消えてしまった。
『七匹の大蛇』で敵として戦うことになる存在のうち、本文にイラストがないのは金色の蛇、月大蛇、土大蛇、風大蛇、水大蛇、時大蛇だけだ。いずれも明らかにヤカーではあるまい。戦闘が起きない遭遇者もそう多くはない……そもそもヤカーは嵐の夜に現れる悪魔なので、そうなると例の肺炎を起こす可能性が出てくるルートで遭遇するよりなさそうだ。だが、あれは昼間の出来事であったし、あの辺りには何もそれらしい出会いはないのである。やはり無理のある試みだったか……?
……とはいえ、一応の候補は見つけてある。蛇使いマナタの姉さんたちのうち、一匹がこの魔物が変じたものという可能性だ。
『モンスター事典』によれば、ヤカーは形勢が不利になると闇の呪文に紛れて魔界に逃げ帰るとある。しかしマナタの術にはまれば、闇の呪文を行使することもできないまま蛇となってしまうのではないだろうか。
マナタと姉さんたちにはイラストがあるが、蛇は三匹しか描かれていない。姉さんは全部で六匹だ。描かれていない残り三匹の内に、ヤカーのなれの果てが潜んでいたのならば、先のイラストレーターの問題も解決できるとこじつけられるだろう。
ここからは余談。
角魔人ことヤカー(Yachar)だが、実はスリランカ伝承にヤカー(Yakaa)なる悪魔がいる。綴りは違うようだが、東洋風という意味でカーカバードにいても悪くはないと、個人的には思えるのである。
第三巻においては、渡し守を呼ぶ笛を手に入れずにイルクララに到達した場合、湖を渡る手段を得ることができずに立ち往生するバッドエンドとなってしまう。さすがにこの湖を泳いで渡るのは無謀が過ぎるとしても、水辺沿いに迂回することはできるのではないだろうか。ここはひとつ、あきらめの良すぎるアナランド人に代わって、ちと考えてみようじゃないですか。
カーカバードの地図を見る限り、湖の北側はともかく、南側ならば、ここまでスナタ森を進んできた行程とそう変わりはないように思える。となれば、湖に到達するまでに遭遇した脅威――スナタ猫や熊、くびり藪などに気を付けていれば大丈夫だろう。
だが、『真・モンスター事典』にちょっと見過ごせない記載があるので紹介しよう。
この「カーカバードの木々に覆われた地域」というのがスナタ森か、それともアヴァンティの森なのかは不明だが、スナタ森の可能性も0ではない。このデーモンは技術点8、体力点10。AFF2ならではだが、攻撃体数は2(デーモンが対峙する相手が二人までなら、同時にダメージを与えられるということ)で、さらに与ダメージには「ダメージ・ロールに+1」の+修正を持つ。逆にこちらが奪えるダメージは一回につき1点に抑えられ、しかも電撃は無効化してしまう。炎には弱いが、相当な強敵であることは間違いない。しかも上記の記述によれば、あのカマキリ男らが信奉者として集っていてもおかしくないのだ。もしもイルクララの南岸にこの神殿があるのだとしたら、これは相当な危険が待ち受けていることになる。
そうしてようやく森を抜け、カラバク河を渡るのだが、この川もまた一筋縄ではいきそうにない。『タイタン』によれば自然のねじ曲がったバクランドの小川は炎を上げていたり、氷が浮かんでいたりするという。カラバクは地図に載るほどの大河だ。どれほどの異変が起きているかわかったものではない。渡河可能な場所を探すだけでも一つの冒険になりかねない気がする。
お次はヴィシュラミ湿地だ。湖を渡る正規ルートの場合は、おそらくザメンの地へ登るのに最も近い場所へ舟を着けたに違いない。だが今回は違う。沼ゴブリンや大蛭を相手に湿地を延々北上しなければならない。『タイタン』に記載された沼ゴブリンについての情報から、ヴィシュラミにはココモコアや沼霊なども住んでいることがわかっている。
『真・モンスター事典』には、旧世界各地の沼地に住むというグレンデルなる怪物や、やはり旧世界のうら寂しい場所で遭遇する月牛なんてのも載っている。湿地帯ながら、単調な道行きになることはあるまい。
そしてこの先の危難も約束されている……このルートを通った場合、風大蛇と水大蛇には遭遇することがない。必ず討ち漏らしのペナルティが発生するのだ。第四巻の難易度が上がることは必至である。なによりも忘れてならないのは、イルクララ迂回を始めて早々にジャンに追いつかれることだ! 魔法使いにとっては死の宣告に等しいだろう。