ダンパスの宿では、狐肉の汁と米が食事として供されている。『真・モンスター事典』では、シャムタンティには丘狐が住んでいるとされており、さらには人狐までいるという。人狐は他の人獣とは異なって知恵者であり、賄賂や欺瞞を煽って戦闘を可能な限り回避するらしい。確かに夜のエンカウントでも人狼は出てくるが、人狐はいなかった。
人間としての姿は狐らしく赤毛だったり、生姜色の髪を持つ見た目麗しい男女とのこと。ただ、シャムタンティの狐は暗褐色か灰色の毛をもっているとあるので、シャムタンティの人狐もまた、赤毛であるとは限らないようだ。
さあ、はたして第一巻に人狐は登場しているのだろうか? 容疑者は見た目麗しいということで、まず挙げておかねばならないのは絶世の美女と称されるアリアンナだ。ヴァンカスによれば「賢し女」であるという。怪しい。髪の色については特に記載はないので参考にならないが、好戦的なところは人狐らしからぬと言わざるを得ない。恩人にすら木のゴーレムをけしかける彼女の気性は、先に見た「戦闘を可能な限り回避する」という人狐の特徴からは大きく外れている。
他に見目麗しい者がいるかと言われれば、特に明記されている者はもういない気がする。ここはシャムタンティにおける美しさの基準はどうなってるかわかったものではないということにして、可能性のありそうな輩を見ていこうじゃないですか。
狡猾というところから見てみれば、ガザ・ムーンあたりはいかにもな感じがしないでもない。しかしやはり好戦的というところが引っかかる。彼女もまた、お茶を断った相手には容赦がないのだ。この点、旅人相手に殺しの練習を重ねているフランカーも条件が合わない。
では、別の視点から絞っていくことにしよう。まず、ダンパスの宿の者は除外していいだろう。狐の肉を調理し、食っているからだ。
ビリタンティには人をだますような者との遭遇はない。トレパニには人間はいなかった。クリスタタタンティの住人は皆素朴な人々で、狐のような輩はいない。……残るカントパーニはおそらく盗賊村だ。商品回収に出向いてくる二人の強盗はさておき、人狐が混じっていてもおかしくはあるまい。さあ実地調査だ
!
赤毛! 最初に「シャムタンティの人狐もまた、赤毛であるとは限らないようだ」と書いておいてなんだが、この男は人狐の容疑者として考えてもいいのではないだろうか。普通に情報をくれる男ではあるが、商談→回収の流れへの案内手でもあるし、それっぽいと言ってしまってもいいだろう。(この容貌が「麗しい」のかどうかはこの際考えないことに……)
第四巻でジャンは囚われの身となっている。なんでも赤目に捕まったということだが、中庭にたむろしている連中なのだとしたら、砦の正門のみならず、第一のスローベンドアまで自力突破したということになる。こいつはすごいぞと以前思ったこともあるが、今考えるに、普通に上空から中庭に降りたと考えるほうが自然であった。ただその場合でも鳥人たちの目を潜り抜けなければならないので、それなりの潜入力を持っていると評価して差し支えないだろう。
さて、ちょっと前にジャンと我らがアナランダーが一緒にマンパンに立ち向かう可能性について述べたわけだが、この場合ならそうそう赤目にとっ捕まるようなこともあるまい。アナランドの代表戦士と豆人ジャン。このコンビなら、どこまで行けるものだろうか……
アナランダーは魔法を封じられているわけだが、普通に中庭まではいけるだろう。第二のスローベンドアにかけられた魔法は、取っ手を握った個人に対して発動する。取っ手を回すジャンを対象にとる魔法なので、豆人のプロテクションが発動する可能性は高い。ジャンのサイズで取っ手が回るかが問題となるが、ここは突破できることにして良いのではないか。一度ドアが開いてしまえば、その隙間にアナランダーが身を滑り込ますことは容易だろう。
次は第三のドアだ。このドアにかけられた魔法は先ほどとは違って対象を選ばない。となると、ジャンもまた幻影に惑わされることになると思われる。そして一度疑ってしまったら、その業火は実際に身を焼くのだ。ここはジャンの力では突破できない。正攻法で超えるしかないが、そのためには拷問頭ナガマンテから秘密を聞き出さなければならない。アナランダーの出番だ。
第四のドアについては、鍵穴があるわけで……もしかしたらジャンならここを潜って反対側へ出ることができるかもしれない。逆側からも鍵がかかっているかどうかは賭けになるが、運が良ければカルトゥームから鍵を奪えなくとも突破できるだろう。
何よりも優位に働きそうなのは、大魔導の影武者との魔法合戦だ。そして、普通に勝ってしまったら……偽物の冠を手に凱旋してしまうのだろうか? それとも偽物だと看破し、途方に暮れるのか。どっちにせよ任務の達成は難しい気がしてきた。ジャンがずっと主人公と一緒にいれば、ファレン・ワイドに関する情報を入手する機会も無いわけであるからして……
以上は、『タイタン』に記されたマンパンの大魔導と七頭のヒドラの戦いの様子である。このヒドラの七つの首が後に七匹の大蛇としてよみがえるわけだが、ここで注目したいのは大魔導が負ったという火傷だ。山の峰を焦がしたのは激しい魔法だというから、きっとこれは大魔導の術だろう。だが自らの魔法で深手を負うとは思えない。
『モンスター事典』にはヒドラの項目があるが、そこには炎のブレスについては何も書かれていない。だが、件のヒドラが大魔導の身体を焼いたのは確かだ。炎属性の極めて珍しい種だったのかもしれない……なればこそ、その力に感嘆した大魔導がその死体を持ち帰ったのではなかろうか。
七匹の大蛇にはそれぞれ地水火風及び太陽と月、そして時の神の力が宿っている。その中でも、火炎大蛇の力は頭一つ秀でている。以下に七匹のステータスを並べてみよう。
時大蛇 | 水大蛇 | 風大蛇 | 火炎大蛇 | 土大蛇 | 月大蛇 | 日輪大蛇 | |
技量点 | 不明 | 10 | 11 | 13 | 12 | 13 | 不明 |
体力点 | 14 | 11 | 14 | 12 | 14 | 10 | 不明 |
技量点は七匹の中で一位タイ。体力は12とトップクラスではないが、それでも十分に高い。全身から炎を噴き上げ、ダメージを奪う能力も持っている。七柱の神の力の差というよりも、元々のヒドラの頃から炎属性であったことに依るのなら、これらの特徴も納得というものだ。
【追記】
土大蛇も灼熱の岩を繰り出してくるし、日輪大蛇も本編で披露しはしなかったが、『超・モンスター事典』によればやはり熱関係の特技を持っている。太陽はともかく、大地に関しては「地-火」という属性の偏りがあるように感じる。逆に水大蛇が低ステータスの上に、弱点を突かれると一撃死(他の大蛇と違って弱体化Ver.がない)なのも、反属性ゆえの脆さなのではないだろうか。
【追追記】
FFコレクション版になって、このヒドラには脚があることがわかった。第四巻のパラグラフ458にて、「後ろ足で立ち上がって」との描写があるのだ。DQ3あたりのヒドラ系モンスターのようなフォルムをしているらしく、これは明らかに各種『モンスター事典』で紹介されていたヒドラと同種族ではない。こうなると炎属性のヒドラの記述がなかったことに説明がつく。そもそも別のモンスターだったのだ。
……と、まあそんなことも言ってはみたが、原文では rears up であり、その意味は「後ろ足で立つ」あるいは「首をもたげる」だ。創元訳及び創土訳では後者であったし、ヒドラのイラストを見る限り足はないように見える。ただ、こいつは幻影で彩られた存在なので、神々の頭と同じように足が生えてきていても不思議ではない。