★ 対空装備不合格

 以前からちょくちょく書いているが、マンパン砦の防犯対策は基本的に地上の生き物に対してのみ有効なことが多い。呻きの橋しかり、闇夜の間しかり。どちらも空を飛べる生き物相手には何の意味もない。
 鳴り物入りで導入されているスローベンドアについても同様だ。第一のドアは無視して中庭に侵入できる。第二~第四のドアは立派に機能しているが、そもそもの話、ファレン・ワイドの部屋がある塔には窓がついている。これらのドアを無視して大魔導のすぐそばまで来ることは、空飛ぶ手段さえあれば誰にだって可能なのだ。
 マンパンではその穴埋めに鳥人を衛兵として使っているわけだが……同時にそれは弱点でもある。なればこそ、たった3人の篤志家たちにひっかきまわされる羽目になっているのだ。

 窓がないとダメな理由がなにかあるのだろうか……? 考えられるのは使い魔をあちこちに放つのに窓がないと不都合があるといったあたりだろうか。第四巻の表紙イラスト(創土版ではなく、原書および創元版)を見ればわかるように、マンパン砦では使い魔システムが導入されている。窓が無い場合、これらの使い魔たちがスローベンドアに阻まれて、砦内の伝令機能がマヒすることになるわけだ。

(12/28/23)

★ 大魔導の正体のこと

『タイタン』はタイタン世界の世界設定集だ。その『タイタン』をして、完全に正体不明だと言われているマンパンの大魔導だが、彼がスローベンと関係が深いであろうことはスローベンドアの存在や、死霊術、あるいはトゥルパの鏡など様々な要素から、ほぼ確実であると言って構わないと思う。
 生まれは不明、親も不明。魔法の修業をした地も、師も不明。そんな彼は、マンパンに現れるやいなや砦の建設をはじめた。
 我々は知っている。同じように突如マンパンの地に現れた魔法使いを。そう、ZEDによってはるか未来の、あるいは過去のマンパンに飛ばされたアナランダーだ。ここまで言えばもうお分かりだろう。大魔導もまた、時間を超えた存在なのではないか? これなら、何もかもが不明ということにも説明がつく。いくら探したって彼の過去は出てこない……異なる時代の出来事だからだ!

 ジャンによれば、ZEDの呪文はマンパンで生み出され、スローベンへともたらされたのなのだという。この古い呪文を実際に試したスローベンの魔術師……ZEDの説明に出てくる「スローベンのネクロマンサー」こそ、マンパンの大魔導その人なのではないか? そう考えれば全てが伏線となり、完全な繋がりを見せるのだ。

 秘密が漏れていると彼が知ったとき、目の前にいるアナランダーがかつての自分と同じように時間を超えて戻ってきた可能性に気付いたかもしれない。FFコレクション版は最終盤の展開が従来のものとは異なる新バージョンだ。正体を現すときに、ファレンの口からZEDのことが出てきたら……今、そんな妄想に浸っているわけです。

(12/28/23)

【追記】
『タイタン』によれば、大魔導は異界の魔神とのつながりを持っていたと言う。若き日のコレトゥスが大魔導を狙ったのもそんな交信中のことだったが……異界の魔神であれば、ZEDによる時間の断絶も関係ない相手であったろう。見知らぬ時代で覇をなそうとしている大魔導が頼みにする存在として、これ以上の輩はいまい。

(12/28/23)

★ ジニー考

 ジニーとは、『千夜一夜物語』などでおなじみの魔神である。『モンスター事典』でも魔人として紹介されており、それによると普段は精霊界に住み、召喚を受けて現世に現れるという。偶然と運命の神々に使える存在とのことだが、第四巻に現れるやつはちょっと事情が異なるようだ。戦士で冒険を進めていた場合に、ZEDの代わりとなる「瓶の魔物」。この二つの存在は英語原文ではどちらも genie となっていて、同一と思われるのである。だが、瓶をくれるシフーリの言葉の通り、第四巻に登場するジニーは瓶に閉じ込められているわけで、精霊界に住んでいるわけではないらしい。
 ところでこのジニー、創元訳では「精霊」と訳されており、しかも「かつては人間だった霊」という。創土訳だと「魔物」となっているのだが、訳の関係かちょっと事情が異なっている。


その瓶に入っているのは、遠い昔に死んだ、あんたと同じ人間の旅人の家来だった魔物だ。あんたたちと種族を異にするわれらには口もきかぬ。(第四巻 パラグラフ503)

 創元版だと、同じ人間だから手を貸してくれたあのジニーだが、ここではかつて同じ人間に仕えていたがために、手助けしてくれるという感じだ。はたして原文ではどうだったのかといえば……自分が読んでみた限りでは、人間の旅人が死後にジニーになったと解釈できる文章だった。


Inside that bottle is the genie of a long-dead human travellar like yourself. (第四巻 パラグラフ503)

 では次に、このジニーを実際に呼び出したシーンを見てみよう。


'A human!' the voice exclaims. 'It is long, very long, since I served a human.(第四巻 パラグラフ334)

 人間のために力を振るってから長い長い時が経ったと、ジニーは言っている。こうなると、創土訳のように、かつて人間に仕えていたというほうが自然に思える。
 この食い違いには、以下のような可能性が考えられる……シーフリは先の彼女自身の言葉にあるように、ジニーと直接話をしたわけではない。となると、この瓶を女サテュロスにもたらした何者かから説明を受けた、あるいは当時の女サテュロスの長から代々語り継がれたに違いない。少しばかり情報の伝達にズレが起きていても不思議ではあるまい。

(1/3/24)

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