此度のVer.は、最終決戦が従来のものとは異なる新Ver.であることはご存じであろう。だが、地味に他にも変更点はある……それが、ZEDを使った時の処置だ。
これまでは、そっくりそのままの状態で過去へと飛ばされていた。つまり、同じアイテムを何度も入手出来たりしたのだが、今はもうそれはできない。時空を超えた際に、持ち物は失われてしまうのだ。以前のVer.では触媒を持っているのに呪文が使えないなどの不具合も発生していたが、このあたり整合性がとれる形になっている。
しかし、この処置が入ったのはあくまで別の巻に飛ばされるときのみだ。同じ『王の冠』の中での移動であれば、持ち物は残る。第四巻の中で戻れる先はファレンの部屋の前、監獄塔の入り口、あと一か所は砦の外、うめきの橋の手前の崖際にロープがぶらさがっている場所だ。その他二つあるにはあるが、全く別の時代へ飛ばされるのでこれはカウントしないでおこう。
つまり、相変わらず砦の中で手に入るアイテム類は何個でも重複して取ることが可能――得になるようなものがあるかどうかはさておき――なので、今回の処置は呪文の不具合対策としての側面のほうが強いのではないだろうか。第三巻のフェネストラとの出会いで、魔法の触媒は全て手に入る。第四巻ではアイテムを持ち越そうとも、不具合は存在しない。
アイテムに関しては良しとしよう。だが、得られる情報となると問題は残っている。第二のスローベンドアだ。こいつを通過するにはヴィラーニャから合言葉を聞き出さなければならない。つまりZED経験者であれば、すでに合言葉を知っていることになる。だが中庭で真っすぐにドアを目指した場合、正解が存在しないパラグラフ構造になっているのだ。ヴィラーニャとの遭遇を経て初めて正しい道が開かれるため、二度目であろうと面倒な手間を踏まなければならない。ここさえ超えれば、第三のスローベンドアのパラグラフジャンプや眠れぬラムの部屋の鍵、そして大魔導の正体を言い当ててやるときも何の不具合もなく普通に一発クリアできる……惜しい、実に惜しいなぁ。
シャンカー鉱山の奥になぜか落ちているブーツ。ボリン革の長靴は蛇使いのマナタやマンパンの衛兵隊長らも興味を示すことから、さぞかし良き品なのだと思われる。拾った時には「埃まみれ」なんて書かれているが、これに関しては叩いてやれば問題なかったということだろう。
ところで、なぜこんな素敵なブーツを我らがアナランダーは履かないのだろうか。手に入れるやいなや、何故か背嚢に放り込んでいる。まあゴブリンたちが働くような鉱山で拾ったわけで、これがゴブリン用に作られたブーツだったのなら、小さくてサイズが合わなかったということも考えられる。だが、入手時に「小さい」なんて説明は一切ないし、後々カートゥーム隊長に薦めるぐらいだ。隊長はよくわからない亜人ではなく人間なのだし、主人公と隊長の間にそんな体格差があるとも思えない。自分が履けないようなサイズのものをはたして人に薦めるだろうか? やはり、サイズ的には何も問題なかったと考えるほうが自然だ。
我らがアナランダーはカーレの下水道やヴィシュラミ沼で足元が汚れまくってもブーツを換えることはしなかった。かたくなに履かなかった理由とはいったい何か? 例えば旅には向いていない……つまり、装飾性の高いおしゃれな品だったというのはどうだ? また、自らが選んだであろう最初から履いていたブーツを信用していたということもあるだろう。重要な使命を帯びての旅だ。履きなれている靴のほうが、安心できるに違いない。
関連する情報を探してみたところ、『真・モンスター事典』にボリンについての記載があった。それによるとボリンの黒くて厚い毛皮は外套やブーツの素材になるとのこと。カーカバードではボリン皮のブーツは珍重されるとも書かれており、あっという間に汚れてしまうであろうカーカバードの旅には使いたくないという心理が働いてもおかしくはないようだ。個人的には、ブーツなんて履いてなんぼだと思うのであるが……
【追記】
そんなアナランダーであるが、実は一度だけブーツを履こうとするシーンがある。火の蛇と相対したときに、使用可能なアイテムとしてボリン革のブーツが出てくるのだ……炎対策としての選択肢に出てくるわけだから、もしかしたら原書『The Seven Serpents』の段階では火鼠やサラマンダーの皮などの、いわゆる「燃えない布」的なイメージもあったのかもしれない。世界各地に伝わる火浣布の正体は石綿であったと考えられている。これなら確かに鉱山で入手できることともなんとなく繋がりが感じられる気がしないでもない。しかし、後にボリンの詳細が定められた『真・モンスター事典』においてはまったく触れられてはいないわけで……
タイタン世界にはピクシーと呼ばれる種族がいる。『ソーサリー!』の第二巻に姿を現し、『モンスター事典』にもその記載がある存在だ。それによるとスプライトとは犬猿の仲で、出会ったら即座に襲い掛かるらしい。第二巻で遭遇するのも、まさにスプライトとの喧嘩中のことだった。現実世界におけるピクシーとスプライトは共に妖精の類だ。いずれも小さき者であるが、タイタン世界のピクシーは体長50cm程度で小柄ではあるもののそこそこ大きい。羽根は備えておらず、先のスプライトとの争いもあちらには羽根があることからのやっかみらしい。
さて、ここでちょっと飛んで第四巻を見てみよう。
で、訳文はこう。
これは監獄塔から脱出する際に、シンのサマリタンの力を借りようとするシーンだ。ここでピーウィット・クルーはミニマイトのジャンを指して「ピクシー」と呼んでいる。だが先に見た通り、タイタン世界のピクシーは身長50cmで、ミニマイトとは全くサイズが異なる。ミニマイトは第一巻の描写によれば「親指ほどの大きさ」であり、まさに小さき者なのだ。クルーがピクシーの実物を見たことがなくただ「小さい奴ら」としか知らないか、あるいは翅を切られたジャンを見て、わざと翅無しの種族であるピクシーの名を出して侮辱したかのどちらかだろう。
ミニマイトを鳥人が嫌う理由はわからないが、魔法が使えなくなることを承知の上で魔術師に付きまとう第一巻でのジャンのふるまいは確かに嫌われるに足る。そして、最初に見たピクシーの嫉妬深さも悪評としては十分だろう。いずれにせよ、連れていくことを拒否する理由としては理解できる気がする。
【追記】
ちなみに創元版及び創土版では、この the Pixie をそれぞれ「あの小悪魔」「その小さいの」と訳しており、第二巻で登場した Pixie と同種族としてではなく、サイズの小さい存在を表す言葉としてとらえていた。