事情通である隠者シャドラックをして「大魔導の手下でも最も狡猾な三人」と言わしめるのが、財務卿の第一補佐であるヴィラーニャ、拷問官ナッガマンテー、そして衛兵隊長カートゥームだ。カートゥームの名前に関しては、シャドラックはつかんでなかったが、彼らがスローベン・ドアの秘密を握っているということから、それが隊長のことなのだとわかる。いずれも曲者ぞろいではあるのだが、私見ではカートゥーム隊長は他の二人と比べるといまいち落ちると思えてならない。
理由はいくつかある。その中でも大きいのは七大蛇から聞き出せる秘密だ。ヴィラーニャとナッガマンテーはいずれも大蛇が握る情報に含まれている。すなわち、それだけの脅威であると神々もお考えになっているわけだ。だが残念ながら隊長について語る蛇はいない。
次に各人が実際に見せる様相について見てみよう。ヴィラーニャが秘密を漏らすのは、自身の命に危険が迫った時だ。その際も相手が自分よりも上手であったことを認めるようなある種のふてぶてしさを見せる。ナッガマンテーもまた、自尊心を満たしてくれた相手には堂々と秘密を語る。そこへいくと、隊長は「もう俺はおしまいだ」と嘆き、自分が助かるためにはアナランダーが御主人様を倒すしかないなどと、衛兵隊長らしからぬ醜態を晒す。他の二人よりも大魔導の近くに仕える身であるために、その恐ろしさが骨身にしみているのだと弁護できなくもないが、やはり残念さのほうが目立っているのは否めない。
こうして見てみると、やはり威厳が足りないというか、大物っぷりでは確実にカートゥームは格落ちと言えるだろう。最初に見たシャドラックが名前を知らないという点においても、以前はそれだけ周到で抜け目が無い故かと考えていたが、逆に名高くないというだけだったのかもしれない。「世界三大〇〇」というときに、二つまでは誰もが同じ名を思い浮かべるが、三つめは意見が分かれるというあのよくある感じ。あれが近しいのではないか。
七匹の大蛇には、それぞれ対応する七柱の神々がいる。陽の蛇には太陽神グランタンカ、時の蛇にはクロナーダといった具合だ。そしてそれらの神は、蛇に力を与えている。大蛇たちは各々強大な特殊能力を備えており、第三巻での冒険においては恐るべき敵として立ちはだかるのだ。いずれ劣らぬ強敵ぞろいであるが、弱点属性のアイテムや魔法の前にはひとたまりもないという特性をも持っていて、ゲームとしてなかなかに面白い。
さて、ここに一匹の大蛇がいる。毒ガスの身体を持つ気の蛇だ。こいつに力を与えているのは風神パンガラである。しかしここで気づくのは、気の蛇の弱点もまた、風であるということだ。疾風の角笛を触媒とするHUFを使えば、蛇の身体はあっという間に散り散りになってしまう。確かにガスが風によって吹き飛ばされてしまうのは理にかなっているが、風の神の加護を蛇が得ているであろうことを考えると不自然極まりない。
だが、こう考えることもできるだろう。アナランドの魔法であるHUFは神の力を借りる類の術ではないと。そう、HUFは風を起こしてあらゆる物を吹き飛ばすという神の御業を、自分たちの手で再現しようと開発された術なのではないだろうか。だとすれば、これは神への挑戦に他ならない。
暗黒道に堕ちた大魔導に、いつまでも神々が肩入れしているとは考えにくい。大蛇に与えられた力はいまだ残っているとはいえ、パンガラとしてもさほど執着のある存在ではなかったのかもしれない。風の神は、自分に挑戦してきたアナランド人の気概のほうを買ってくれたのではないだろうか。
ちなみに他の大蛇たちにおいては、加護と弱点が同一ということはない。風神パンガラのみが、この挑戦に一目置いてくださっているのだろう。
マンパン砦のトイレのイラストを見ると実に様々な落書きがあるのがわかる。よくわからない言語やラテン語らしいものも混じっているが、多くは英語のように見える。このあたりの研究をされていたサイトがかつてあったのだが、2019年3月末にジオシティーズのサービス終了とともに失われてしまった。実にもったいないことだ。
さて、そんな落書きの中にこんな一文がある。「Dracula is a pain the neck」。正面の壁の上のほう、ほぼ天井の近くだ。
こいつを翻訳してみると「ドラキュラは面倒な奴だ」あるいは「ドラキュラにはイライラさせられる」という意味合いになる。直訳だと「首が痛い」だが、こいつは慣用句なのである。
ドラキュラ。つまりは吸血鬼だ。『ソーサリー!』で吸血鬼といえばカーレの第三貴人だろう。例のシンヴァ卿を呪いによって死霊へと堕とした魔人である。しかしカーレとマンパンではだいぶ離れているし、第三貴人がマンパンでそんなに悪名高いとも思えない……いや、まてよ。砦にはカーレから来たレッド・アイ三人衆がいるではないか。彼らがカーレにいたころに、この貴人とひと悶着起こしていたのであれば、トイレに殴り書きされる程度に恨まれている可能性はあるかもしれない。
ここでもう少し視野を広げ、『ソーサリー!』本編のみならずタイタン世界を見てみよう。すると、旧世界の中心であるモーリステシアには吸血鬼が住んでいることに気づく。今のところまだ邦訳されていないFFシリーズの中に、モーリステシアを舞台とした作品があるのだ(FF第29作『Howl of the Werewolf』や第38作『Vault of the Vampire』)。カーカバードとモーリステシアは極めて近い位置関係にあり、各地にちょっかいを出している大魔導の軍勢と、吸血鬼がぶつかっているのは十分あり得る話ではないか。
『モンスター事典』によれば吸血鬼のステータスは技術点10に体力点15。一方『真・モンスター事典』に載っているマンパンの衛兵たち(ビーストマン)は技術点体力点共に7だ。これは相当辛酸を舐めさせられたに違いない。
……などと色々書いては見ましたが、件の落書きはあくまで Dracula と個人名指しであるのに対し、他は Vampire なのでこじつけでしかないことは認めましょう!
タイタン世界にブラム・ストーカー著『ドラキュラ』が存在しないのは当たり前であるからして、多分にメタ的なネタなのですけど、まあタイタン世界に異世界転生した人物がドラキュラをという概念持ち込んだとか、あるいは第三貴人の名前がまさかのドラキュラである可能性も0ではないからね。ね?