映画なんかで、スペシャルゲストがちょい役で出演していることをカメオ出演という。政治家やスポーツ選手などの有名人のケースもあるが、よくあるのは監督や原作者だろう。知っている人はニヤリとできるわけだ。
『ソーサリー!』にもそのような存在がいる。第二巻に登場するアンバール・ザ・バーバリアンは、スティーブ・ジャクソン氏と並ぶFFシリーズの生みの親の一人、サー・イアン・リビングストンがTRPGで使用していたキャラクターなのだとか。では、ジャクソン氏のキャラクターもいるのではと思うのは自然な流れであろう。もちろん登場している。物語の最後で大きな役割を果たすピーウィット・クルーが彼の分身ということだ。(さすがにバードマンではなかったようだが)
なお、アンバールに関しては『ソーサリー!』のみならず、FFシリーズ第54巻『Legend of Zagor』にも登場している。こういう内々の密かな遊びがFFシリーズには盛り込まれているのだ。
となると、他にも探してしまうのが人の性というもの。自分が思うに、隠者シャドラックなどかなり怪しい。FFシリーズ第30巻『悪霊の洞窟』にほぼ同名のモンスターが登場するのだ。こちらのシャドラックはクール大陸に生息し、別名を「ミノサッドルの洞窟の獣」。長身の体躯に双頭六臂を備えた怪物である。しかし綴りは Shadrac であり、バクランドで我らがアナランダーにアドバイスをくれる隠者とは異なる。とはいえ Shadrack と Shadrac なのでほぼほぼ同一と言っても差し支えあるまい。このシャドラックなる怪物、『真・モンスター事典』にも記載されているのだが、隠者との関連性については何も書かれていなかったことを一応報告しておこう。
他に可能性がありそうなのは、イルクララの渡し守であるテク・クラミンだろうか。彼の場合、本人登場のシーンでは名前は明かされず、巻をまたいだ後になってから女族サチュロスの集落で話題に上がるという、かなり後から加えた感がある描写のされ方なのだ。第四巻執筆時に急遽名前だけ借りてきたという線は十分ありえそうではないか。
ちなみに登場キャラクターではないが、第四巻のイラスト(パラグラフ91)にはジャクソンとリビングストン両氏の肖像画が入れ込まれている。これも同種の演出としてみることができよう。
【追記】
そうそう、大事な方を失念しておりました。剣術熟達の腕輪でおなじみのラグナーさん。この人物も複数のFF関連作に登場しており、元となったキャラクターが存在していたのではと考えられる一人です。
今回復刊されたFFコレクションの『ソーサリー!』は、最終決戦回りが大きく変わった新Ver.であることは皆さまご存じのことと思います。当サイトでもこれをどう扱うべきかいろいろと悩んでいたのですが、2月の発売より半年ちょっとが経ちました現在、ようやく自分なりのスタンスみたいなものがまとまってきたので、備忘録的に書いておこうかなと思った次第です。ちょうど数日前に、X(旧Twitter)にて、「ゲームブックについてのネタバレ」についての話題があったりもしましたしね。
結論から先に申しますと、やはり最終決戦に関する部分には当分触れないようにしようかなと思っています。今更どの口でほざくという御意見もあるかと思いますが、このサイトで『ソーサリー!』について取り扱い始めたのは2000年のことです。当時日本で刊行されていた創元版が発売された1985年から実に15年が経過してたわけで、『ソーサリー!』はすでに絶版となっていました。今ほど高騰してはいなかったものの、入手には古本屋を巡る必要があったような時代のことです。加えてまだMixiもないような、SNSも形になっていないような時期で、要するに知る人ぞ知る好事家向けの懐古趣味サイトだったわけです。
その後2003年には創土社から浅羽さんの統一訳での復刊がはじまったのですが、これは訳の差はあれど同じ原本からの復刻であり、内容も以前のものと変わってはいませんでした。しかし今回のFFコレクション4は事情が違います。FFコレクション4は現在でも絶賛売り出し中で、SNS全盛を背景に「懐かしい!」「覚えてる」「今も売っているんだ」という声も多い中、以前よりもネタバレの地雷度が上がっていることは確実なのかなと思えるのです。今回の新Ver.の肝である最終決戦については特にクリティカルな地雷になって当然というものでしょう。自分が知る限り、同じく最近になって復刻したデンマーク版以外では、まだ英語版ですら市場には出てないのです。
やはりネタバレ上等、既に知ってる人にむけてのサイトである「カーカバードの歩き方」においては、もっと時が過ぎて古本以外では入手が難しくなったぐらいの経年具合になってからが良いのではないか。あるいは、四回目の日本語訳がまた出てくるなどすれば……今はそんな感じで考えております。ネタバレによって水を差すことになってしまうのは、私としても望む展開ではありませんし。
とはいえ、FFコレクション版について全く触れないのもどうかと思いますので、最終決戦以外についてはいろいろと書いていきたいなというのは以前X(旧Twitter)だったかで触れた通りです。最終決戦周りについての考察ごっこも楽しいのですが、その楽しみと、こうやってサイトに公開する楽しみは分けて考えることにしようかなと。
どうかご理解いただけると幸いです。FFコレクション版のみならず、創元版や創土版も含め、『ソーサリー!』がもっと多くの人の手に渡るといいよね。個人的には英語原本もおすすめ。日本語で一度頭に入っていると、割とすらすらと読めたりするものなので、英語が苦手な方でも『ソーサリー!』が好きなのであれば、試してみる価値はあるかと思います。
忘却の呪文が仕掛けられている第二のスローベン・ドア。この秘密を握っているのは守銭奴のヴィラーニャである。なかなかにずる賢い輩で、ドアを通るための合言葉を聞き出すのに手こずったアナランド者もさぞ多かろう。
件の合言葉は「Alaralatanalar」が正解だ。これは彼が持っている本の、スローベン・ドアがある中庭の見取り図が乗っているページに書かれている。この本には他にもザメン高地についても詳しく載っているとあり、どうやらこれはマンパン砦に関するマニュアルの類らしい。展開によっては、ヴァリーニャは偽の合言葉を教えようとしてくるのだが、この本に書かれているという事実が、正しい合言葉であることを保証しているというわけだ。
ところが、不思議なことに『ソーサリー・キャンペーン』ではこの合言葉、正解は「Alaralamalatana」になっているではないか。こいつはゲームブック版ではハズレの選択肢として登場するのだが……一応確認してみたが、『ソーサリー・キャンペーン』の英語原文からして変更されていた。これはどういうことだろうか?
セキュリティの面から、時々合言葉を変えるという可能性はあるだろう。慎重極まりない大魔導のことだ、スローベン・ドアにかかっている魔法を更新するのも厭わないに違いない。しかし、先ほどの本の存在が、この説に待ったをかける……合言葉が変わるごとに、本を書き換えているとは考えにくいではないか。しかし、こう考えれば説明はつくだろう。つまりドアと本が魔法によって連動しており、合言葉を設定しなおすと記述も変化する仕組みになっているのだ。ヴィラーニャは常に合言葉を確認しなければならないが、まあこれはドアの秘密の番人の責務と我慢してもらうしかあるまい。どうせ金貨を数えているだけだ、それぐらいは働いてもらおう。
第二のドアは中庭と天守閣の間に位置している。食堂が天守閣の中にあることを踏まえても、多くの人員がここを行き来していなければおかしい。実際例の謎の生き物もドアを通過しているし、中庭には記憶を消されたと思しき者もいない。侵入者がアナランドから来たと知った赤目は、中庭から奥へと知らせにいく。スローベン・ドアとしてそれはどうなのかと思わないではないが、そうとしか考えられない。
つまりこのドアを護りとして機能させるために、運営に一工夫しているのではなかろうかというわけだ。例えば、件の本は管理者の証であり、ヴァリーニャ自身が不定期に合言葉を変える役目を担っているのであれば、侵入者に対する防御として成り立つ気もしないではない。それに、最新の合言葉を教える代わりに砦の皆から金貨一枚を巻き上げているかもしれないなどと考え始めると、いかにも奴らしいと一人納得してうなずいてしまったりもするのである……
【追記】
ああ、いやまて。ヴァリーニャが自在に合言葉を変えられるのだとしたら、アナランド者に脅された時こそが本領発揮のはず。しかし彼はそれができなかった。ということは、合言葉の変更はあくまで大魔導が行っているか、あるいは自動更新になっているのではなかろうか。もしくは……書き換えに時間がかかるとか。大魔導の性格的に、すべてをヴァリーニャに任せているなんてのはなさそうではありますな……