◆ カーカバードのリザードマンのこと

『ソーサリー・キャンペーン』を紐解くと、首狩り族の集落についての説明に、こんなことが書いてあるのがわかる。


 だが、君たちの注意を最も引き付けたのは、道の先の地面からいくつも突き出している、長い槍だった。その先端には、頭が突き刺さっているのだ! 人間にゴブリン、オーク、リザードマンの頭部さえある。

 リザードマン! ずいぶん意外な所で出会ったものだ。首狩り族の描写から、彼らが遠征をしているとは考えにくい。つまりこの頭の持ち主は、かつて自らここへやってきて狩られてしまったのだと思われる。カーカバードで死んだリザードマン……いったい何者だったのだろうか?

 先ずは『モンスター事典』でリザードマンについて調べてみよう。アランシア南方のトカゲ帝国のことは載っているが、それ以上の情報はなかった。続編にあたる『超・モンスター事典』にもリザードマンの項目がある。こちらはカーカバードならぬクール大陸に住む二種類のリザードマン亜種について詳しい。だが、その冒頭に書かれていることは重要だ。


 ほとんどの学者が知っているとおり、タイタンにおけるリザードマンの大多数は、アランシア南部に広がる強大な帝国シルアー・チャの民である。その帝国の境界を超えて暮らすわずかなリザードマンは、傭兵か海賊のどちらか、ないしはいくつか存在する希少な亜種──そのうち2つは暗黒大陸クールで見かけられる──に属している。

 この哀れな頭の持ち主は、はぐれリザードマンだったというわけだ。カーカバードで海賊となれば、ジャバジ河を上ってカーレへやってくる輩がわんさといる。カーレで何らかの仕事をするのなら、商隊の護衛やあるいは冒険者としてシャムタンティを旅することもありえただろう。
 なにしろ珍しい存在であるからして、カーレで聞き込みを重ねれば、きっと彼(メスかもしれないが)のことを覚えている住人がいるに違いない。こいつは南に向かったために、胴体と頭がおさらばしてしまう羽目になってしまったが、逆に北方へ向かっていればスナタ森やヴィシュラミ沼あたりで遭遇する脅威となっていたかもしれない。マンパン砦で大魔導に仕えていた可能性すらある……例えば、七匹の大蛇を崇拝対象としていてもリザードマンならばおかしくはあるまい。

 ただ実際のところ、『ソーサリー!』本編にはリザードマンは登場していない。しかし首狩り族が掲げる首の描写においては、人間とゴブリン、あとは「きみの知らない生き物の頭」がいくつかあるとされている。つまり、アナランド人の主人公はリザードマンを知りえないが、様々な出身の冒険者たちを対象とする『ソーサリー・キャンペン』においては正体が明らかになる可能性があると、こういうことなのではないだろうか。先に見たリザードマンの生息状況を考えるに、アナランドではリザードマンのことは知られていないというのは十分あり得るだろう。

(2/9/25)

◆ 劇薬

 カーレの北門を開くための四行詩を知る一人である長老ロータグ。彼と出会ったとき、主人公は以下のような感想を抱く。


 この街の住人にしては珍しく、どうやら穏やかな性格らしい。男は良い人生を送ってきたので、残りの時間は何か街の人々を助けるために使いたいのだという。(第二巻パラグラフ336)

 ロータグは北門を開ける手助けをしてくれるのだが、これも「カーレの住人を助けるため」というこの男の目的に繋がっているということなのだろうか……? バクランドの脅威から街を守るために、第一貴人サンサスによって北門は閉ざされているのだから、ロータグとしてはカーレの現行体制に問題があると感じているのかもしれない。オークの子供たちなど、カーレの権力とは無縁と思える層の教育に力を入れているのもそれを裏付けているように思える。

 貴人たちが自分たちの地位を守るためにドロドロとした魔導抗争に明け暮れている現状は、確かに街としてベストではあるまい。バクランドという劇薬でカーレを正すというのも一つの手だろう。マンパンはともかくとして、現在のバクランドには一大勢力のようなものはないので、カーレの規模であれば最悪の結果にはなるまい。貴人たちやレッドアイを含め、カーレの住人たちが一丸となるのを想像してみるがいい。お互いを信用せずに罠を張って己の身を守ったがために、よく知らぬ通りを避けることが当然の暮らしよりも、よっぽど健全というものだ。

(2/23/25)

◆ 蛇足の話

 七匹の大蛇と聞いて、どのような姿を思い浮かべるだろうか。翼のある大蛇? その通り。我らがアナランダーも隠者シャドラックからそう聞いている。奴ら七匹のデータが載っている『超・モンスター事典』においても同じくである。しかし、どうやら彼ら――少なくとも火の蛇に関しては、さらに鉤爪をもっていることが明らかになっている。


 突然、きみはハッと跳ね起きた。シューシュー音を立てて渦巻く炎が、頭上の空中に浮かんでいる! 二つの鋭い鉤爪が降りてきてきみの荷物に伸びる。<火の蛇>が背負い袋をつかみ、空中に持ち上げようと翼をバタバタさせている。(第三巻パラグラフ225)

 この鉤爪は原文では talon とされている。こいつは主に猛禽類の爪を意味する言葉だ。一応、蝙蝠やドラゴンのような翼の鉤爪という可能性も考えてはみたのだが、火の蛇は背負い袋をつかんだまま飛んでいくところから考えると、これは違うだろう。やはり火の蛇は翼のほかに鉤爪の脚をもっているのだ。
 さて、この「脚」というやつは別段、炎ならではというモチーフではない。つまりこれを火の蛇だけの特徴と考えるのは無理がある。七匹全員が脚を備えていると考えるほうが自然だろう。こうなるともう、連中を大蛇といっていいのかどうかわからなくなってきた感がある……どちらかというとワイバーンに近いように思える。だが、少なくとも世の中には「蛇」として知られているのは事実だし、他の大蛇と遭遇した際の描写では、脚についてなんて何も書かれていない。イラストにおいても影も形もないし、普段は胴体に格納していると考えざるを得ない。彼らにとって、この脚は奥の手のようなものなのだろう。マンパンの密偵として働く上で、器用な指先(鉤爪ではあるが)が必要――それこそシーフ系スキルとか――なこともあるのかもしれない。

(3/15/25)

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