☆★ 消えた男

 ウールー「おいセスター、バーの姿が見えないんだ!」
 セスター「バー? 昔、そんなやつがいたような気もするが…」  
(2/13/05)

【追記】
 今更ですが補足をば。このバーというのは、あざけりの意味を込めた言葉で、日本語の「くそっ!」などにあたります。創元版ではそれをそのままバーと訳していたため、ウールーが「セスター! バー! この●●を追い出せ!」という感じで叫んでいました。バーが人名であるセスターと並んでいたのです。自分はセスターキャラバンの一員にバーという男がいたのだと思っていました。創土版ではこれが訳されており、セスターだけが呼ばれているというわけです。

(8/3/12)

☆★ 祝福の槍

 女サチュロスからうけとり、聖人の祝福を受けることで成る槍。第四巻『諸王の冠』のみならず『ソーサリー!』全編を通じて最強の武器。第四巻から冒険を開始した場合にはクリアに必須となる超重要アイテムである。

 実際のところこの槍は武器とは言っても攻撃力や技量点を底上げするタイプのアイテムではない。武器でありながら、その他の武器、いわゆるこれまでの冒険で見慣れた武器とは異なる。槍を持っている場合は●●へというパラグラフ指示が戦闘時にあり、進むと戦闘に自動的に勝利するといった、どちらかといえばフラグアイテムに近い構造をしている。
 サイコロを振って行う戦闘は『ソーサリー!』を含むゲームブックならではの楽しみの一つだが、この槍を振るうパラグラフで展開される豪快な戦闘描写もなかなか面白かった。(同じくジャクソンによる『バルサスの要塞』の魔法描写が近いと思う。)
 また、入手しただけではただの槍に過ぎず、別の場所で聖人の祝福を受けてはじめて最強の武器になるという二段仕掛けも当時私にとっては新鮮であった。

 ところでこの槍、創元訳では「樫の木の槍」となっており、ゲーム中には明記されていないものの「樫の若木の杖」として、FIXの魔法の触媒に使うこともできると自分は解釈していたものである。第三巻にて入手できる「蛇の杖」が、樫の若木でできているので「樫の若木の杖」としてFIXの魔法の触媒にも使えるとされているからである。
 ところがこの槍、創土訳では「堅木の槍」となっているではないか。木偏がどこかへ消えてしまったのである。原文を調べてみると「Hardwood spear」とある。うぅむ、もともと堅い木の槍だったらしい。道理でFIXに関して書かれていないわけだ。これでは魔法の触媒足り得ないではないか。私的に第四巻の難易度が僅かながらランクアップである。

(7/13/05)

【追記】
 『タイタン植物図鑑』によれば、これは堅木(けんぼく)なる種だとされている。堅い木から、素材名になってしまった。
 こうなると個人的には「ハードウッドの槍」、あるいは「金剛樹の槍」などと訳したくなってくる。(前者が創元訳、後者は創土訳をイメージしてみた)

(7/19/22)

☆★ 奥の院

 最近ネット界隈を覗いていると、創土版『諸王の冠』の誤訳の話題をぽつぽつと見かける。内容は左右を間違えている記述があるというもので、問題の個所はパラグラフ236。ナッガマンテの拷問部屋を越えたところ、ナイロックの店と、奥の院の入り口がある回廊中庭の描写である。

 何が左右逆と言われているかというと、ナイロックの店の入り口と奥の院の入り口が左右どちらの壁についているか、である。創土版ではナイロックの店が右側、奥の院が左側となっているようだ。だが、旧訳創元版では、店は左側、奥の院が右側となっているのである。
 明らかにどちらかが誤訳である可能性が高い。では原文ではどうなっているのか。ちょいと見てみると、原文においては右側がナイロックの店、左側が奥の院となっているのがわかった。

 ここで解答は以下の二択となる。
  1 創元訳が間違っている。
  2 原文だと実はつじつまがあっておらず、創元訳が本来意図された正確な描写である。

 なんで2番のような答えが用意されるかというと、『ソーサリー!』原文にも明らかに構造ミスと思われる個所や誤記述がいくつか存在しているのだ。例えば第三巻のパラグラフ23。パラグラフ461にて、去るか? 闘うか? それとも別の魔法を使うか? 23へ戻って選び直しなさいという指示があるのだが、肝心のパラグラフ23には闘うと魔法を使うという選択肢しかないという構成ミスが存在している。(日本版においては創元版、創土版ともに修整されている。)つまり、この左右の描写記述もそういったミスの一つであるという考え方である。

 話を進めよう。この奥の院という部屋は、いわゆるデッドエンドブロックである。部屋に入ったら最後、どのような選択肢を選んでもゲームオーバーになってしまうのだ。冒頭で紹介したパラグラフ236の記述が誤訳であるという主張は、この罠の部屋へと続く入り口が「右側の壁」についていないとおかしいというものである。
 では何故右でないととダメなのか。そう考える思考の裏には、もう一つの罠の部屋の存在がある。件の回廊中庭の直前に位置するナッガマンテの拷問部屋。ここからの出口は二つ存在しており、(『ソーサリー!』は双方向型のゲームブックではないので、この場合先へ進む道が二つあることになる。)その一つが回廊中庭へ、もう一つが罠の部屋へと続いているのである。

 問題はその罠の部屋だ。ここもまた奥の院と同じくデッドブロックなのだが、その二種類ある結末は、同一パラグラフなのである。ゲームオーバーとなるパラグラフが奥の院とこの部屋は共有しているのだ。つまり、この二つの部屋は実は同じ部屋であり、拷問部屋と回廊中庭から繋がる二つの侵入経路を持っていると考えられるのだ。するとどうなるか。奥の院をとりまく地形を考慮すると、どうしても回廊中庭の右側に奥の院への入り口がないとおかしいとなるわけである。

 だが本当にそれで正しいのだろうか? 私はそうは思わない。
 私の考えを述べると、そもそもこの二つの罠の部屋は同じではないのだ。もしもこの二つの部屋が実は同じ部屋ならば、入り口は二箇所あるはずである。だが、部屋で起こる出来事の描写を見る限り、どう考えても入り口は一箇所しかない。
 主人公が中で調べ物をしている隙に入り口に鉄格子が降りてきて閉じ込められてしまう。他に出口はない。その一連の流れにおいて格子が二つ同時に降りてきていると読み取れる描写は皆無であり、何より部屋の中を覗いたときの描写には、もう一つの扉のことがまったく書かれていないからである。
 さらに言えば、拷問部屋から入れる罠の部屋の入り口のパラグラフと、奥の院のそれは異なるパラグラフであり、同じなのは選べる選択肢の内容と、その先の結末パラグラフだけなのだ。これはパラグラフ数の省エネに過ぎず、これらの部屋は別々のものと考えるのが自然であろう。したがって、パラグラフ236の誤訳は存在しないことになる。

 なお創元版の記述に関しては、二つの罠部屋を同一の空間とみなしたために必要とされた修整であり、これもまた見落とされた誤訳ではなかったと私は考える。

(7/31/05)

【追記】
 AFF2の『ソーサリー!キャンペン』シナリオでは、この2つの部屋は別々の場所に設定されている。ただし、扉は右側だ。謎は深まるばかりである。

(8/9/12)

【追追記】
当サイトの掲示板で指摘されたのですが、創土版の読解にミスがありました。該当箇所は前述のとおり第四巻パラグラフ236です。


扉を開けて出た場所は、アーチ天井を持つ回廊だ。庭らしきものを一周している。ぐるっと回ってみることにし、先へ進む道はないかと探しながら最初の角を曲がる。二つ目の壁のちょうどまんなかに、この中庭から母屋に戻る通路がある。通路の両側には扉があり、突き当りにも一つある。通路の終わるあたりの右側に看板が一つあり、そよ風に揺れている。看板には"ナイロック――商人――営業中"と書かれている。その手前にある扉には、"奥の院"の文字がある。手前右側の扉を開けてみたいなら、一四〇へ。商人の売り物を見てみたいなら、九一へ。通路をどんどん進み、突き当りの扉からここを出たいなら、三一〇へ。

この記述を整理すると、次のようになります。

1 通路の両側に扉がある。(突き当りにもう一つ扉がある。これは先へと進む扉で、第三のスローベンドアへと繋がっている。)
2 通路の奥の右側の壁に「ナイロックの店」の看板がある。
3 看板の手前に「奥の院」の扉がある。
4 「奥の院」の扉の向かい側の扉には何も書かれていないが、消去法でこれが「ナイロックの店」の扉となる。

通路の右側に看板があり、その手前の扉が「奥の院」への入口ということで、つまり「奥の院」は右側にあるということになる。 となれば、当然「ナイロックの店」は左側だ。
選択肢を見ても、手前右側の扉、突き当りの扉、商人となっていて、店は手前左側以外ありえない。

では、改めて先の私の考察を見直してみましょう。


創土版ではナイロックの店が右側、奥の院が左側となっているようだ。だが、旧訳創元版では、店は左側、奥の院が右側となっているのである。
明らかにどちらかが誤訳である可能性が高い。では原文ではどうなっているのか。ちょいと見てみると、原文においては右側がナイロックの店、左側が奥の院となっているのがわかった。

……はい。弁解のしようもありません。16年前の自分は何を勘違いしたのやらでございます。
ちなみに創元版では、左側の扉に「ナイロックの店」の看板がかかっていることになっています。当然ながら自分も創元版に最初に触れたのであり、このシーンについてもいわゆる刷り込みがあったのではないだろうか。入口とは逆の壁に看板がかかっているという記述に対し、扉そのものに看板がかかっているという思い込みが重なり、看板の方向、つまり右側に店の入り口があると早とちりしたのではないかと自己分析する次第です。正直0点野郎だと思います。

一方、気になる原文ですが、これが実は創土版と同じく看板は右側の壁、店の入り口は左側となっております。ですので、16年前の記述に関しては二重で間違っているということです。
日本語でも英語でも読解ミスというか、完全に思い込みに支配されてright/leftという単語だけで判断したに違いないダメさ加減。最早マイナス野郎です。

ところで、AFF2シナリオ『ソーサリー・キャンペーン』においては英語原本からして創元版と同じく看板は店の扉、すなわち左側の扉にかかっている形に変更されています。
第四巻の英語原文では「Towards the end of the passage, on the right-hand side, a sign swings in the gentle breeze.」と書かれているので、左右の誤訳によって看板の位置が扉の上に移動したというのは無理があるように思います。つまり、創元版の記述はわかりやすさを優先した改変なのではないでしょうか。右側の壁に掛けられた店の看板の手前の扉の向かいにあるのが店の扉という状態ですから、やはり紛らわしいでしょう(いや、自分が早とちりしたからというわけではなくですね……)。先に見た『ソーサリー・キャンペーン』においても、やはり同じように判断されて変更されているのだと思います。

ということで、16年も堂々と読解ミスに基づく考察を載せ続けてしまっておりました。
御指摘をいただいた、がくにゃんさんには頭が上がりません。本当にありがとうございました。
(そして、マンパン砦MAPも修正しました)

(4/4/21)

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