書架坑の底
老人 そして一冊の本

差し出された本を受け取り、私はその表紙に目を走らせた。
あの携帯劇場師――ユメミヤが着ていた道化服と同じ色の革、同じ模様の装丁。
表題は『ユメミヤ殺し』と読める。

老人の言葉に、私ははっとして視線を上げた。そう、この本は彼女そのものなのだ。
机の前に再び腰を下ろした老人は、箔押しの道具の手入れを始めた。

彼は机の上に置いてあった最後の一冊を取り上げた。『グラン・メディカ』の下巻だ。

老人は私の目を見た。

私は手にした本に再び目を落とした。老人がうなずく。