書架坑の底で
老人と私 そして一冊の本
差し出された本を受け取り、私はその表紙に目を走らせた。
あの携帯劇場師――ユメミヤが着ていた道化服と同じ色の革、同じ模様の装丁。
表題は『ユメミヤ殺し』と読める。
老人の言葉に、私ははっとして視線を上げた。そう、この本は彼女そのものなのだ。
机の前に再び腰を下ろした老人は、箔押しの道具の手入れを始めた。
彼は机の上に置いてあった最後の一冊を取り上げた。『グラン・メディカ』の下巻だ。
……これが何を意味するかわかるかね?
世界に疫病を解き放ち、害をなそうというのであれば
治癒の術が記されたこの物語をそのままにしておくわけがない」
老人は私の目を見た。
私は手にした本に再び目を落とした。老人がうなずく。
だが、一つ忠告しておこう。ユメミヤには深く干渉しないほうがいい。
世界の改変を実行に移すような輩だ。
探し物だけに注力するが良かろう……」