誓い
2
明け方、エーディンは幼子達の声で目を覚ました。
「エーディン様、起きてしまわれましたか?」
「オイフェ、セリス達はご機嫌ね」
「はい、フリッツさんが相手をしてくれているんです。
久しぶりに私達以外にかまって貰って嬉しいみたいです」
「そう、シャナンはまだ寝ているのかしら?」
「もう起きてますよ。今は水を汲みに行っています」
そこにシャナンが戻ってきた。
「シャナン、ご苦労様」
「エーディンおはよう。あの昨日はごめんなさい。エーディンに酷い事を言ってしまって」
「シャナン・・・誰だって皆が死んでしまったと言われたら取り乱すわ。
ましてやバーハラにはアイラも行っていたのだから」
「でも・・・・」
俯いているシャナンに背後から衝撃が襲った。
「うわっ!」
「シャナー、あそんでー」
「セリス!もう驚かすなよー」
「テヘ、あのねーデルムがおなかヘッタって」
「まあ大変、オイフェすぐにお湯を沸かして。
セリス、いい子だからデルムットに待っててねって言って来てくれる?」
「うん、ぼくね!デルムのおにいちゃんだからいってくる」
セリスはパタパタと天幕へと走っていった。
「あの子が自分からお兄ちゃんって言うなんて・・・・驚いたわ」
するとシャナンが
「デルムットの事が気に入ったみたいだよ。昨日からべったりで隣で寝たんだ」
「まあ!そうなの」
エーディン達は三人分のミルクと七人分のご飯を急いで作った。
食事も終わり後片付けをしているとフリッツが話しかけてきた。
「すいません、これから何処に向かうのですか?」
「シャナンの案内でイザークの奥地に行こうと思うの。
首都にはシグルド軍の生き残りを捜すグランベル兵がいるだろうから」
「そうですね。あの今日は私が手綱を取りますのでエーディン様はお休み下さい」
「いいの?体は完全じゃないのに」
「はい、エーディン様の回復魔法で生返りました」
ほどなく一行はシャナンの案内でイザーク領へと入っていった。
グランベル軍に見つからないように昼間は余り動かずに夜に移動して一週間。
「フリッツさん疲れたでしょう、私が代わりますから休んで下さい」
「ありがとうオイフェ、子供達は眠ったのかい?」
「はいセリス様以外は。
いつもなら寝て下さっているのに今日はグズってらっしゃるのです」
「そうか・・・それではお相手をしてこよう」
フリッツはそう言って荷馬車の奥に入って言った。
「フリッ・・ツあそぼー」
「セリス様、眠くないのですか?」
「うん、ねむくないのー」
セリスはフリッツの背中によじ登った。
「こらセリス!フリッツさんが重いだろ
」
とシャナンが声をかけた
。
「いいんですよ、シャナン王子」
その時、急に荷馬車が止まった。
「どうしたんだろ?前に行って来る」
シャナンが立ち上がり前に行こうとした時、前からエーディンが来るなと合図をした。
「ちっグランベル兵に見つかったか」
フリッツは剣を構えセリスを後ろに下がらせシャナンと
いつでも飛び出せるように聞き耳を立てた。
「ですから何度も言うように賊に襲われて、商隊と逸れてしまつたのです」
「だが何故夜に動く。道に不案内なのにおかしいじゃないか」
「それは・・・」
オイフェが言葉に詰まる。
「一刻も早く商隊に追いつきたかったのです」
エーディンがオイフェに代わって答えた。
「ほう・・・・」
「まずいよフリッツさん、このままじゃ捕まっちゃう」
「でるか」
二人が出ようとした瞬間、声が上がる。
「ラクチェ!!出てはだめ」
なんと入り口近くに寝ていたラクチェが這い出てきたのだ。
「ラクチェだと、それはイザーク王家に伝わる名だ。この子はイザーク人か?」
「そっそれは・・・・あっスカサハ」
ラクチェの後を追ってスカサハも出てしまっていた。
エーディンは慌ててスカサハを止める。
「また赤ん坊か・・・・。
ますます商隊とはぐれたと言うのは怪しい、中を調べさせて貰うぞ」
男がエーディンを押し退け入ってきた。
その瞬間フリッツが男の首もとに剣先を当てた。
「動くな、動けば殺す。仲間は何人いる」
「クソッ、ここには五人だ。だが逃げ切れないぞ、ここは我々の住処だからな」
「・・・・・」
「フリッツさん、五人ぐらいならなんとか切り抜けられるよ。この男を盾に突っ切ろう」
シャナンは今にも飛び出しそすつもりでいる。
「そうだな。おい人質になって貰うぞ」
「ふん、皆殺しにあうだけさ」
「どうかな」
フリッツ達が出ようとした時、急にセリスが近づいてきた。
「シャナー、イタイ・イタイはダメ」
「セリス!!いいからお前は隠れてろ」
「うーダメなの」
シャナンは困惑してフリッツを見つめた。
その時
「まっまってくれ、今確かシャナンと言わなかったか」
「ああ、僕の名前だよ。賞金首にでもなってた?」
「もしやシャナン王子では?」
「それを聞いてどうする、このまま生きて帰れると思ったか」
フリッツは正体がばれてしまった事に舌打ちしながらも
男を斬るため剣を構えた。
「頼む話を聞いてくれ、俺達の長はイザーク王家に仕えていた。
シャナン様が生きていたと知ったら、絶対にあんた達を悪いようにはしない筈だ。
俺達が案内するから信じてくれ!」
「そんな都合のいい話信じられないよ。フリッツさんもそう思うでしょう」
シャナンはイザーク王家に仕えていた者がいると聞いて動揺していた。
「お前達はグランベル兵でも、賊でもないんだな?」
「ここら辺にはまだグランベル兵はまだ来てない」
フリッツは少し考えて男に剣を向けながら表にでた。
「フリッツ!大丈夫なの?」
「エーディン様、この男がイザーク王家に仕えていた者を知っていると言うので
案内して貰います。よろしいですか?」
「そう、このままではどうしようもないわ。それしかないでしょう」
「ですが・・・・」
オイフェが不安そうに異議を唱えた。
「オイフェ、心配しないでなんとしても子供達は守ってみせるから」
「エーディン様・・・・解りました」
フリッツは荷馬車から降りると男の仲間の所に行きすぐ戻ってきた。
「彼らが先導してくれます。この男はカーシャと言うそうです」
「先ほどはすいませんでした」
カーシャと言う男はエーディン達に頭をさげた。
「カーシャさん、これから行くところは遠いのかしら?」
「いいえすぐそこです。けっこう広いですから子供達もここからだせますよ」
「そうですか」
一時間ほど森をとおりそこを抜けると遠目に城がみえた。
「あの城は?」
「あれはソファラ城です。グランベルとの戦いで城主様以下ご一族方々はお亡くなりに・・・・」
「そうですか・・・・」
エーディンはソファラ城主の息子で彼女の姉と恋仲だったホリンを思い出していた。
(彼はシグルド様に影のように付き添っていたわ。きっと生きてはいないはず。
ブリギット姉さま!!)
「この森を抜けたところの村が俺達の住処です」
エーディンの思考を遮ってカーシャの声が聞こえた。
森を抜けるとたいまつが見える。
「アレは?」
「一人、村に知らせをやりました。村の者が迎えに来てくれたのでしょう」
たいまつに近づいていくと十人ほどの男達が立っていた。
「お待ちしておりました」
初老の男がエーディン達に声をかける。
「あの貴方は?」
「失礼しました。私はマリクル様付きの剣士、アサドと申します」
「えっ!?アサド本当にアサドなの?
」
シャナンはその名前を聞いて思わず荷馬車から飛び降りた。
「おおシャナン様、ご無事でいらしたのですね。剣聖オードよ感謝いたします」
アサドに抱きついているシャナンを見てエーディンもオイフェもホッと胸を撫で下ろした。
「エーディン、シャナー泣いてるよー。怪我したの?」
セリスが彼女の服を掴むと不安気に聞いた。
「違うのセリス。シャナンは嬉しいのよ、嬉しくても涙は出るの」
「ふーん」
セリスは首を傾げながらシャナンのそばに行くと
「シャナーよかったね」
と言った。
「セリス・・・」
「シャナン様、この子は?」
「セリスは僕とアイラを助けてくれた人の忘れ形身なんだ。
彼らがいなかったら、僕たちは生きてはいなかった。
お願いアサド、セリス達を匿って!」
「王子・・・・彼らはグランベルの者たちでしょう。誰から匿うというのですか」
「それは・・・・」
シャナンはアサドに反対されるのではと思い口を噤んだ。
「俺が言おう。セリス様はバーハラで殺されたシグルド公子のご子息だ。
そちらにいらっしゃるのはユングヴィのエーディン公女だ。
我々は叛乱軍として追われている。手を貸して欲しい」
フリッツは頭を下げた。
「おねがいアサド、セリス達を匿って。僕、シグルドと約束したんだ
セリスを守るって。僕はセリスのお兄ちゃんになるって」
「シャナン様、それでこそ剣聖オードの血を引く者です。
ご安心下さい、皆様は私達がお助けいたします。さあこちらへ」
シャナン達はアサドに案内され村の屋敷へと入っていった。
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