誓い






「あの子は?」

「デルムット、こちらにいらっしゃい」

(デルムット・・・我がアグストリアの伝説の騎士と同じ名前だ)

「この子はアグストリアの・・・」

「ええ、この子はラケシス王女の子です」

彼女はそう言って、側に来た幼子に微笑んだ。

「ラケシス王女!それではヘズルの・・・」

「アレス王子の従弟になるわね。フリッツが命懸けで砂漠と盗賊から守ったのです」

デルムットはルッツを不思議そうに見上げた。

「それで王女は?」

「私からお話しいたします」

フリッツがそう言って近づいて来た。

「姫様とはイード砂漠で離れ離れに、生きていらっしゃればレンスターに向かったはずです。
デルムット様の父君はレンスターの騎士なので」

「そうか・・・名は?」

「キュアン王子の側近でフィン殿と言われます」

「この子はフィンにとても似ています。特にこの青空を思わす瞳の色が・・・」

エーディンがデルムットを抱き上げそっとルッツに渡した。

デルムットは怖がるでもなくジーっと彼をみつめそして、ニコッと笑った。
ルッツはその笑顔につられて幼子を高く抱き上げ

「フリッツ・・・デルムット様には何か人を惹きつける魅力がある。
良い騎士に育ててくれ。これでレンスターにアレス様がいらっしゃれば・・・」

ルッツはそう言うとフリッツにデルムットを渡して、彼を不安げに見ていたセリスに近づいた。

「セリス様、どうかしましたか?」

「デルムを連れて行ってしまうの?」

「えっ!?」
「だめだよ!デルムは僕の弟なんだから一緒にいるんだ!」


セリスはそう言ってデルムットの側に行くと泣きそうな顔した。

「セリス様!ルッツ殿に失礼です

オイフェが慌ててセリスを注意した。

「オイフェ殿良いのです。
セリス様大丈夫ですよ。私はデルムット様を何処にも連れては行きません」

「本当?」

セリスはふーと大きく息を吐いた。

「はい、ですからデルムット様とずーとなかよしでいてください。
そして父君シグルド様とノディオン王エルトシャン様の様に生涯の友となって頂ければ」

「エルトシャン王って?」

「デルムット様のおじうえでセリス様の父君の大切なお友達です」

ルッツは幼いセリスにはまだ無理かとも思ったがそう教えた。

「うーんよくわかんない。でもぼくはデルムのお兄ちゃんだからなかよしだよ!
デルムを守ってあげるんだ」

「セリス様はいい子ですね」
「うん。デルムいこっ!」

セリスはデルムットの手を引いて子供達の輪の中に戻って行った。


「エーディン様、どうかよろしくお願いします」

「心配しないでください。
それよりもしラケシスを見つけたらデルムットがここにいる事を教えてあげてください」

「無論です」

「ルッツ殿、姫様に私が命に代えてもお守りしてみせますと」

「ああ、だが無理はするなフリッツ」

ルッツはそう言って笑った。



「父の名を覚えているか?」
ドアの前で緊張の面持ちでルッツを見ているトリスタンに聞いた。
トリスタンは首を振った。

「そうか・・・トリスタン、きっとお前の父上はエルトシャン王に仕えていた騎士だ。
だからお前もしっかりデルムット様におお仕えしお守りするんだ。できるか?」

トリスタンはこくりと頷いた。

「フリッツ、この子の父親はきっとラケシス様付きのイーヴの子だ。
幼いころのあいつに似ている」

「イーヴ様の!あの方は結婚なさっていたのですか?」

「式は身内だけですましたと手紙を貰った。あいつは不器用だからな。もう・・・」

「ええトリスタンも母上と妹とはぐれたとしか・・・」

「きっとシレジア経由でレンスターのグラーニェ様の許に行こうとしたのだろう」

アグストリアの最後の希望であるアレス王子。
忠実な部下であったイーヴが家族を主君の妻子の許に行かせたのだと
ルッツは用意に想像できた。

数日後

「もう少しゆっくり居ていただけたらいいのですけど」

「いえもうすぐ砂嵐が頻繁になる時期になりますからその前に。
それから落ち着き場所が決まったら必ずレヴィン王の元に連絡を」

「ええ、なるべく早くそうなればいいのてすけど」

エーディンはそう言って微笑んだ。
フリッツも見送りに来ていたが、無言で彼を見送った。
二人には言葉は要らなかった。
自分達に与えられた役目を果たした時こそ笑って話せるだろうから。


****


数ヶ月後、エーディンは女の子を産み。ジャムカはその子をラナと名づけた。

「有難うエーディン。この子とレスターは俺の宝だ」

「私こそ、でもちょっぴり焼けるわね」

「えっ」

「貴方の宝物の中に私が入っていないんですもの」

エーディンは悪戯っぽく笑った。

「何を言うんだ。君は俺にとって・・・」

「フフ、解っているから大丈夫よジャムカ。私も同じ気持ちですもの」

そんなエーディンをジャムカはそっと抱きしめるのだった。
それは嵐の前のほんの僅かな幸せでだった。


「ティルナノグ?」

「はい、まだ未開拓の土地も多いですが奥地ですので、グランベル兵もあまり気にしていません。
生活はだいぶ不便になりますが子供達も自由に遊べさせれます」

アサドはジャムカとエーディンにそう言ってティルナノグに行くよう進めた。

「だが連絡を取るのにも不便になるだろうし」

「ジャムカ殿グランベルの様子は逐一報告いたします。
ここも危なくなってきたのです」

ジャムカ達は数年前までガネーシャ城近くの村に隠れ住んでいたが
どこで情報が漏れたのかグランベル兵がやって来て村は焼き討ちに遭っていたのだ。
その後、エーディン達は数ヶ月ごとに隠れ家を変える生活をしていたのだ。

「エーディン様、ジャムカ王子、私は子供達だけでもそちらに連れていきたいのですが」

「オイフェ!?」

「セリス様には不便でも落ち着いて生活出来る環境を作ってさしあげたいのです。
それに私達の不在の間に動かれるよりは安心です」

最近オイフェとシャナンはアサドに軍の動かし方などを指南してもらっていたが
留守中にセリス達の隠れ家が移動し慌てた事が何度かあったのだ。

「そうかも知れないな」

「ジャムカ?」

「奥地であればそれだけグランベルも入ってきにくい。
それにいつか挙兵するなら拠点が在ったほうがいいかもしれん。
レヴィンの手紙にもそう書いてあっただろ?」

「貴方とオイフェが賛成なら・・・」

エーディンはそう言って窓の外で遊んでいる子供達を見つめた。
シレジアからの逃避行から6年の歳月が流れていた。

「それでは早速用意いたします」

アサドはエーディンに安心するようにと声を掛け部屋を後にした。



数日後

「ねえエーディン母様今度は何処に引っ越すの」

セリスが自分の荷物を運びながら聞いてきた。

「ティルナノグという所よ。ここよりもずーと奥にあるの。
そこにいけばもうお引越しはしなくてすむの」

「ほんと?やったあ!これでシャナンに剣を教えて貰える。
シャナンってば落ち着くまで教えないって言うんだもん」

「よかったわね」

(ああ この子もそんな歳になったのね)

エーディンは8才になったセリスを感慨深げに見つめるのだった。

「あっ ラドネイとロドルバンは?」

「もちろん一緒よ」

「やったー」

ラドネイロドルバンは兄弟で、エーディン達を匿ってくれているアサドの孫だった。
彼らの父ラシードは数年前の村の焼き討ちで村を守ろうとして命を落としていた。
それから二人はセリス達と一緒に行動していた。
二人はとてもセリス達の面倒をみてくれたので、子供達はとても懐いていた。

子供達を馬車に乗せ、ティルナノグに向かって出発して二日目。
昼食の準備をしているエーディンの許にラドネイがやって来た。

「村に?」

「はい、エーディン様、父の墓にも参って行きたいし村の様子も見てみたいんです」

ちょうどガネーシャ城付近で休憩していたので行きたくなったのだろう
ラドネイはすぐに帰るからと言ってエーディンに頼みこんだ。
エーディンもグランベル兵はこの付近にはいないと聞いていたので
すぐに戻って来るようにと念を押して彼女を行かせる事にした。
だが彼女は後でこの判断をとても後悔するのだった。


「セリスとレスターが?」

「はい何処にもいないのです。
デルムット様に聞いたらラドネイを捜していたと」

トリスタンは真っ青な顔でエーディンに知らせにきた。

「ラドネイを?まさか!」

エーディンはセリスとレスターがラドネイに付いて行つたと直感した。

(しまった!セリス、レンスター)

「トリスタン前にいるハサンを呼んできて」

「はい」

トリスタンはハサンを呼んでくるべく走りだした。
ハサンはすぐにやって来た。

「ハサン、事情はトリスタンから聞いたと思うけど今すぐラドネイの行った村まで行ってくれますか?」

「エーディン様、ご安心を。
ちょうどジャムカ様がこちらに合流していましたので
トリスタンの話で直に数人を引き連れて向かいました。
それでエーディン様には村近くの森で待っているようにと」

「わかりました。ジャムカが行ってくれたのなら安心ね」

エーディンはそう言うと用意をするために立ち上がろうとした。

「エーディン様・・・」

「どうしたのハサン?」

「グランベル兵が見回りに来ているらしいのです」


エーディンは自分の顔から血の気が引くのを感じるのだった。



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