誓い






「セリス様!こちらです」

ラドネイはセリスとレスターを物陰に押し込むと、息を潜めた。

「ラドネイ・・・・」

「レスター大丈夫よ。静かにしてたら助かるから」

レスターは頷くとセリスの手をギュッと握った。


どごからか悲鳴が聞こえる。
セリスの肩がビクッと震えた。

「ラドネイ、あの人達は何で皆を苛めるの?」

「セリス様・・・・」

「皆は僕達に良くしてくれたのに」

セリスは小さな手を硬く握り締めて幼いながら
仲良くしてくれた人達の悲劇に憤りを感じていた。

「グランベルはイザークの人達が嫌いなのです」

「じゃあ僕はグランベルが嫌い」

セリスはそう言うとラドネイに抱きついた。

「セリス様・・・・」

どれ位そうしていただろうか悲鳴は止み、女性や子供達のすすり泣きが聞こえてきた。

「変だ・・・セリス様、レスター此処にいてね。私は様子を見てきます」

ラドネイはそう言ってセリス達の側を離れた。
セリスは不安そうにしているレスターに

「大丈夫だよレスター。きっとレスターの父上が助けにきてくれるよ」

「セリス様・・・あとで母さまに怒られるね」

セリスはその言葉にクスッと笑った。


そこに突然兵士が現れた。

「おっ、ここにもいたか。隠れても無駄だぞ出て来い」

セリスとレスターはグランベル兵に見つかってしまったのだ。
二人は引きずりだされた。

「お前らこの村の子供か?」

「・・・・・・」

「まあいい」

グランベル兵はセリスとレスターを荷物のように抱え歩きだした。


「待てっ!」

現れたのは異変を察知して戻ってきたラドネイだった。

「子供達を放してもらう」

「ふん、女にやられるほど俺達は弱くないぞ」

兵達はニヤニヤと笑った。

「馬鹿にするな!」

ラドネイはそう叫ぶとグランベル兵に切りかかった。

しかしラドネイの攻撃はグランベル兵をかすっただけだった。

「ちっ」

ラドネイは身を翻してもう一度切りかかる。

「甘い!」

一人の兵がラドネイの剣を見切ると斧で彼女に襲い掛かる。

「ラドネイ!!」

セリスとレスターは悲鳴をあげる。
ラドネイは跳ね飛ばされて地面に転がった。

「くっ」

(私では勝てない・・・・、このままでは)

ラドネイは痛む体を奮い立たせた。

「まだやる気か?」

「私には護らなければいけないものがある!!」

「ならば俺に一つでも傷を付けたらお前らは見逃してやる」

「隊長!それは命令違反です」

「お前らさっきくすねた金品の事上にばらされたいか」

「うっ」

「関わりたくなきゃ、あっちいってろ」

男のその言葉に部下達はそそくさとその場を離れた。

「何故?」

「手加減はしない」

男はそう言うと斧を置き、携帯していた剣を構える。

「こないなら俺から行くぞ」

そう言うと、体に似合わぬ素早さでラドネイに切りかかった。

(速い!この男できる)

ラドネイは避けるのが精一杯で攻撃出来ずにいた。

「どうした?護るものがあるのだろう」

男はそう言うとラドネイを追い詰めていく。

「ラドネイ!危ない」

セリスとレスターが叫んだ。

「大丈夫、必ず護ってあげるから」

ラドネイはそう言って二人に微笑むと初めて攻撃に転じた。

「ふっ、まだまだ」

男は余裕でラドネイの剣を避ける。

「くっ何故だ。お前の力なら私を殺せるだろ。何を遊んでいる」

「いいのか?お前が死ねばこの子達も死ぬ事になるんたぞ」

「させない!!」

ラドネイはそう叫ぶと、思いっきり地面を蹴り男の背後に回ろうとした。

「甘い!」

だが男はその攻撃を難なく退けラドネイの首元に剣先を合わせた。

「これまでだな」

「くっ」

「ラドネイ!」

セリス達は悲鳴をあげ、駆け寄ろうとした。

「駄目、セリス様。今のうちに逃げて!」

ラドネイは思わずセリスの名を言ってしまった。

「セリス!?この子がシルクド公子の・・・・」

男はそう言うとラドネイから剣を離した。

「えっ?」

「助けが来たみたいだな・・・・」


ラドネイは男の言葉に驚き、顔を上げる。
遠くの方から怒声とそして聞きなれた声が聞こえた。

「ラドネイ!」

「兄さん!」

ラドネイは兄のロドルバンは妹の姿を見つけホッとした。
ロドルバンは妹のそばにいる男に気付き、剣を向ける。

「妹から離れろ」

「それは無理だ!大事な人質だからな」

そう言うとラドネイを立たせて、じりじりと馬の側に行く。

「くそっ」

男が馬に乗りラドネイと共に駆け去ろうとした時
ビュンっと矢が飛んできた。



「父上!」
ジャムカは息子の声を聞き少しだけ安堵の表情を見せたが直にいつもの顔に戻った。

「その者を離して、馬から下りろ!お前の軍は敗走した」

「はいそうですかとあんたの言うことが聞けるとでも?ジャムカ王子」

「なっ!?何故俺の名を・・・・」

「そんな事は今は関係ない」

男はそう言うといきなりジャムカに向かって馬を走らせてきた。

「ジャムカ様」

「父上!」

周りの者達は悲鳴をあげたが、ジャムカは落ち着いて必殺の弓キラーボウを構える。
キリリと弦を引き構えると向かってくる男に向け矢を放った。

「うっ」

矢は男に命中して男は馬から落ちた。


ジャムカはセリス達を部下に任せて、男に近寄って行った。

「殺せ・・・」

「お前は何故ラドネイ達を殺さなかった?俺達が来るまで時間があっただろう」

「くっ主君の護った人達の子を殺せる訳がない」

「シグルド軍にいたのか?」

「ああ、レックス公子の部隊だ。だが俺はもう戻れない」

「協力しろと言っても無駄か・・・」

「罪な事をしすぎたからな。それにあんたの矢は致命傷らしい」

「そうか・・・」

「この剣をレックス様のお子様に・・・・・・」

男はジャムカにそう言って剣を差し出すと、目を閉じて息を引き取った。



ジャムカは男が彼に差し出した剣を見つめていた。
「ジャムカ様、いかがなされました?」

「ああ、なんでもない。ラドネイ大丈夫か?」

「はい・・・申し訳ありません。セリス様達を危険にさらしてしまいました」

「お前の責任ではない。レスター!セリス!」

子供達は名前を呼ばれると一瞬ビクッと肩を震わせたが
オズオズとジャムカの側にやって来た。

「二人ともあれほど無断で出歩いてはならないと言っておいたろう。
二人の為にラドネイは死んでしまう所だったんだぞ」

ジャムカは大きな声での叱責はしない。
だがその低い声で言う言葉は子供とて容赦がなかった。

「ごめんなさい・・・・」

先に口を開いたのはセリスだった。

「父上、ごめんなさい」

レスターも涙を浮かべていた。
もう少しでラドネイが命を落とすところだったのは幼い二人に衝撃をもたらしていた。

「さあエーディンが心配している行こう」

ジャムカはレスターとセリスを馬に乗せるとエーディン達が待つ森へと向かった。



「レスター!セリス!」

エーディンは二人の無事な姿を見つけると駆け寄った。

「母上!」

「エーディン!」

セリスとレスターもエーディンに泣きながら抱きついた。

「二人とも無事でよかった。怪我はない?」

「うん、ラドネイが護ってくれたから」

「父上が助けてくれたんだ」

「二人とも、もう黙っていなくなってはだめよ」

「はい」

二人はエーディンの泣き顔を見てもう絶対に心配をかけないようにすると誓うのだった。



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