誓い






ティルナノグに移ったセリス達一行は、その荒れ果てた土地と城に唖然とする。

「これは凄いな」

「エーディン様、ジャムカ様、お疲れ様でした」

先発隊として先にティルナノグに来ていたオイフェが、彼女達を出迎えた。

「オイフェ、あなたこそ大変だったでしょう?」

「ええ まあ。寝る場所を見つけるのが大変でした」

彼は苦笑いをした。

「そういえばシャナンはどうした?」

ジャムカが姿の見えないシャナンを不思議に思い聞いた。

「彼は今、皆さんの部屋割りをしていますよ。
それよりジャムカ様、大変だったそうですね。話を聞いて焦りました」

ジャムカはセリス達の事だと気付き

「すまんセリスを危険にさらしてしまった

「そんなセリス様ももう8才です。家の中だけで遊ぶようにといっても
もう聞かなくなる時期ですよ。
幸いここは敵がきたらすぐ分かりますから、外で遊べるでしょう」

「だけど本当に何もない所ね」

「そうですね」

三人がそんな話をしていると探検に出ていた子供達の声が
廊下から聞こえてきた。


「来たみたいだな」

「ええ」

ドアが開くと途中で会ったのであろうシャナンに、子供達は纏わりついていた。

「シャナン様、私は女の子だからラドネイと一緒がいいの。
スカサハとはもう寝ないの」

「僕だって寝相の悪いラクチェと何てやだよ

「なんですってー」

「わかった、二人とも一応みんなの要望を聞いてからだ」

「大変みたいねシャナン」

「エーディン、子供達もみんな大きくなったから自分の部屋が欲しいみたいで」

子供達は新しい家が気に入ったのか食事を済ませると
また城の中の探検へと行ってしまった。

「ふう、大騒ぎね」

エーディンは子供達の歓声に微笑みながら紅茶の用意を始めた。

「それでジャムカ様、グランベル軍はガネーシャ近くに常駐しそうですか?」

「そうだな・・・中心都市が静まれば来るだろう。
ほとんど壊滅させたから、俺達の事が報告されるまで時間がかかるだろう」

「そうか・・・じゃあ急いでアサドに連絡してかく乱してもらおう。
ここに移った事がばれたらまずい」

シャナンがジャムカにそう提案した。

「そうだな」

ジャムカとオイフェも頷いた。


「それでは私はセリス様達を見てきます」

オイフェが立ち上がり、シャナンもそれに続こうと立ち上がった。
するとジャムカがシャナンを呼び止めた。

「シャナン、少し話があるのだが」

ジャムカがそう言ってシャナンを引き止めた。

「なんだいジャムカ?」

「ハサン。あれを持ってきてくれ」

「はい」

ジャムカはそう言ってシャナンに座るよう言った。


「それじゃあ シャナン先に行ってるから」

オイフェはそう言って出て行こうとしたが

「待ってくれオイフェ。此処にいてくれいいだろジャムカ?」

「ああ」

程なくハサンが包みを持って戻ってきた。

「これはラドネイ達を助けた時に、グランベル兵から託された物だ」

「託される?」

シャナンとオイフェは首を傾げた。敵から武器を託されるとは聞いた事がない。
二人が黙っているとエーディンが助け舟をだした。

「ジャムカ、その人は誰に渡せと言ったの

「レックス公子の子供にと」

「レックス!?」

シャナンは驚きの声をあげる。
レックスはシャナンの叔母であるアイラの夫だった。
セリスと一緒に育った双子のきょうだいスカサハ、ラクチェの父親である。

「これを見てくれ」

ジャムカはそう言って包みをほどいた。
包みの中は細身の使いこんだ剣であった。

「見覚えがないか?」

「よく見せて欲しい」

シャナンは震える手で剣を取った。

(これは勇者の剣、アイラが使っていた剣に似ている。もしかしたら・・・)

シャナンは柄の部分を見たが何もない。

「どうしたシャナン?」

「アイラが言っていたんだ。この剣にはレックスから贈られた印があるって。
柄にあると思ったんだけど・・・」

「ないのか?」

「ああ」

「剣の根元を見てみて」

エーディンがシャナンに微笑みながら言う。

「根元?」

シャナンは彼女の言われた通り根元を見てみる。

「あっ」

(愛しき者を護るために捧げる  レックス)

そこにはレックスの名前と言葉がうっすらと彫られていた。

「光の加減と見方によって見えるそうよ。アイラに見せてもらったの」

エーディンは悲しそうにだが懐かしそうにシャナンに言うのだった。

「ジャムカ、これをどうしてグランベル兵が」

「その男はシグルド軍のレックスの部隊にいたらしい。
どこでそれを手に入れたかは聞けなかったが、大切に持っていたようだ」

「それではレックス公子とアイラ王女の行方は・・・」

オイフェは悲痛の表情でシャナンを見ながら質問した。

「何も言わなかった。
ただ生き続けるためには今の体制に従わなければならなかったようだな」

「そうですか・・・・・」

「どうする?」

「どうするって・・・・」

「子供達にこの剣を渡すか、それとも今はシャナンお前が預かっておいて伏せておくか?」

「それは・・・」

「急ぐ事はない考えておけ」

ジャムカはそう言って部屋を後にした。



その頃子供達は

「うわー凄いや。あっちの砂漠まで見えるよ」

部屋の探検を終えた子供達は城の最上階にいた。

「ねえねえ、あっちがガネーシャかな」

ラクチェは体を乗り出してスカハサに聞いてきた。

「ラクチェ!!危ないぞ」

「大丈夫よ。それよりレスター、グランベル兵って角が生えてるってほんとう」

「えっ?」

「村の襲ったグランベル兵を見たんでしょう。
ラドネイがレスターとセリス様を護ったって聞いたよ」

「ラクチェ!そういう事を面白可笑しく聞かないの」

「なんでよスカサハ、いいじゃない」

「死んだ人もいるんだよ」

「あっ!?ごめんなさい」

スカサハとラクチェのやり取りを聞いていたセリスが口を開いた。

「僕、シャナンに剣を教えて貰う。そして皆を護るんだ」

するとレスターも

「僕は弓を習う!父上みたいなスナイパーになるんだ」

「ぼくも!!」

セリスの傍にいたデルムットも真似をする。

「デルムはまだ無理だよ」

「できるもん。セリス様と一緒に習うんだもん」

「じゃあフリッツが良いっていったらね」

セリスはデルムットにそう言い聞かせた。

「じゃあ 私も習う」

ラクチェが勢いよく言った。

「おいラクチェ」

「スカサハだってシャナン様に習いたいって言ってたでしょ。
それに私だって皆を護りたいもの」

「じゃあ、シャナンやオイフェにお願いしよう」

子供達は頷くとさっそく屋上を後にした。



ジャムカはぐずっているラナをあやしなかせらセリス達を捜していた。
そこにセリス達がやって来た。
「あっ父上」

「お前達、探検は終わったのか?」

ジャムカは紅潮している子供達の顔を見ながら聞いてみた。

「うん。楽しかったよ。あのジャムカ話があるんだ」

セリスが思い詰めた口調で言う。

「大切な話みたいだな。食堂に行こう、オイフェやシャナンもいるから」

ジャムカは子供達を連れて食堂に戻って来た。

「あらもう探検は終わったの?」

エーディンは子供達に微笑みながらおやつの用意を始めた。

「シャナン、オイフェ。この子達が話があるそうだ」

「えっ?セリス様なんですか?」

「オイフェ 僕に戦い方を教えて。
今度引越し終わったらって約束したでしょう」

「セ・セリス様?」

「いいでしょシャナン様。私にも剣を教えて

「僕も!!」

「デルムも」

「お前達・・・・」

「僕、強くなりたいんだ。ラドネイや皆が僕達を護ってくれたように僕も皆を護りたいんだ」

「遊びじゃないんだぞ?」

「うん」

セリス達の真剣な表情にオィフェもシャナンも駄目だと言えなくなってしまった。

「フリッツも良いのか?」

何も言わないフリッツにジャムカが問いかけた。

「デルムット様が望むなら。シャナン王子宜しく願いします」

フリッツはそう言うとトリスタンを呼び

「いいか お前も一緒にデルムット様と習うように」

「解りました」

トリスタンはもうすぐ10才になろうとしていた。




MENU  BACK  NEXT