誓い
7
ティルナノグに来て半年の月日が流れた頃。
「あー退屈。セリス様、剣の稽古しましょ」
「ラクチェ読み書きも大切だよ」
「分かってます。もうスカサハこっちに向かってるかなー」
「ラクチェ様寂しいんですか?」
「トリスタン!違うもん。ただシャナン様の足手まといになってないか気になっただけよ」
「ラクチェじゃあるまいし大丈夫だって」
「レスター!私の相手がしたいの?」
「いいよ。受けてたつ」
「こら、二人とも。今日の課題をやらないと僕とデルムでおやつ食べちゃうよ」
「「うっ!!」」
セリスのその言葉に二人は机に向かった。
数時間後
ドアがノックされエーディンが入ってきた。
「皆、お勉強は終わった?」
「終わったよ、エーディン」
「そう、頑張ったわね。おやつを用意したから食べなさい」
「やったー!」
ラクチェは一目散で食堂に行ってしまった。
「あっ!ラクチェ待てよ」
レスターもそれに続く
「セリス様、二人ともおやつ一杯あるのにね」
デルムットがのんびりと言った。
エーディンが笑いながらデルムットの髪を撫でた。
「エーディン様?」
「デルムット、貴方にお話があるの」
「何ですか?」
「セリスは先に食堂に行っていてくれる?」
「はい」
セリスはデルムットの事を気にしながらもエーディンの言うとおりにした。
デルムットがエーディンとトリスタンと共に、部屋に戻るとフリッツが彼らを待っていた。
「お話って何?」
「デルムットは母上や父上に会ってみたい?」
「うん。でも母上は砂漠で行方不明ってフリッツが・・・・」
「あのね、ある人からお手紙が来たの。
そこに、デルムットの母上や父上が生きているって書いてあったの」
「ほんと!何処にいるの?
」
「レンスターという所よ」
「レンスター・・・・遠いね」
「ええそうね。でも母上も父上もデルムットがここに居るって知ってとっても喜んだそうよ」
「エーディン様、それはルッツ殿からの知らせですか?」
それまで黙っていたフリッツが聞いてきた。
「ええ直接ではないけどシレジアのレヴィンからの連絡よ」
「そうですか・・・」
「よかったですね。デルムット様」
トリスタンが自分の事の様に喜んだ。
「迎えにきてくれるかな?」
「それは・・・・」
大人二人はその問いには何も言えなかった。
「必ず来てくれますよ」
トリスタンは励ますように言った。
「うん、僕待ってる。父上と母上が迎えに来てくれるの」
デルムットは笑顔で言うと食堂へ行くため部屋をでた。
それにトリスタンも続いた。
「可哀想だけど無理だわ」
「後で、それとなく言っておきます。期待をさせてしまい駄目だと解ったら可哀想です」
「お願いねフリッツ」
エーディンはデルムットの笑顔が為るべく雲らない事を祈った。
デルムットとトリスタンが食堂に行くと、ラクチェとレスターは相変わらず
言い合いをしていてそれをセリスが宥めていた。
「デルム!話は終わったの?」
「なになに?何の話?」
「えっとー」
「だめだぞラクチェ。話せない事だってあるんだから」
「なによ。レスターだって気にしてたくせに」
「なっ!」
「デルム、トリスタン。おやつ二人の分とっておいたからね」
「セリス様、ありがとう」
「ありがとうございます」
二人はセリスに礼を言って席についた。
「ねーデルム。なんだったのよ」
「ラクチェ!」
「あの・・・エーディン様が父上と母上が生きてレンスターに居るって教えてくれたの」
「えっ!?」
三人は驚きの声をあげる。
「デルムの母上ってたしか砂漠で行方不明って聞いたけど生きていたの?」
「よかったなデルムット」
「よかったねデルムット」
三人は我が事のように喜んだ。
「それじゃあデルムットはレンスターに行くの?」
「えっ?」
「だって迎えに来てくれるんじゃない」
ラクチェが少し羨ましそうに言う。
「でも遠いよ。レンスターなんて・・・」
「うーん」
「そうだ!僕達でレンスターに行けば良いんだ」
「へっ?セリス様?」
「だから乗馬の練習しようねデルムット」
セリスはそう言ってデルムットに笑顔を向けた。
「うっ・・・それは」
デルムットは乗馬が苦手だった。
苦手というか馬に近づけなかったのだ。
アグストリアは騎士の国だったので、フリッツは何度か乗せようとしたが駄目だったのだ。
「そうですよデルムット様、馬ならレンスターでもあっというまです」
トリスタンもここぞとばかりに乗馬を進めた。
「わかった。でも最初はセリス様の後ろにする」
「うん、いいよ。一緒に乗ろう」
トリスタンとセリスは、デルムットに気づかれないように微笑みあうのだった。
***
数日後、セリスとデルムットそれにトリスタンが乗馬の訓練をしていると
エーディンとレスターが慌ててやってきた。
「皆、大変よ!グランベルが近くの村に来たって。私達は外に出ないようにって」
「ここが見つかったの?エーディン」
「セリス大丈夫よ。
近くといっても村はこの広い砂漠を渡らないと駄目なんだから」
「うん・・・あっ!村ってもしかしてラクチェが遊びに行っている村?」
ラクチェはデルムットの両親の話を聞いてから、少し元気がなかった。
見かねたエーディンが気晴らしに、友人のいる村に遊びに行かせたのだった。
「そうだわ。なんて事なの・・」
エーディンは事態をジャムカ達に知らせるために城の中へと戻って行き
セリス達もそれに続いた。
その頃、ラクチェは友人と共に家の中で震えていた。
(どうしよう、おばさんもおじさんも出て行ったきり戻ってこない。
もし今グランベルの奴らがやって来たら)
ラクチェは両親を探しに行こうとする友人を必死に宥めながら、何もできない
自分に苛立ちを感じていた。
「あっ!かあさん」
突然友人のリリーが立ち上がり家を飛び出した。
「待ってリリー、危ないわ!」
ラクチェも慌てて飛び出した。
そこで見た光景にラクチェは立ちすくんだ。
優しくしてくれた村の人達が無残にも殺されていた。
仲良くしてくれた少女達が、目を覆いたくなるような姿で横たわっている。
(なんで?どうして・・・私達が何をしたって言うの?)
そんなラクチェの耳にリリーの悲鳴が聞こえた。
「リリー!?」
ラクチェは悲鳴のするほうに走った。
けれどラクチェの見た光景は無残に斬られた、友人の姿であった。
「うわあー」
ラクチェは叫ぶとそばにあった剣を拾う。
「許さない」
「おっ、まだいたか」
グランベル兵はラクチェの姿を見て、ニヤニヤと笑いながらにじり寄って来た。
「絶対に許さないんだから」
「へっ嬢ちゃんに何が出来るのかな。いい子にしてたら生かしてやるから
俺達の言うこと聞くんだな」
「黙れー!!」
ラクチェは地面を蹴るとグランベル兵達に切りかかった。
兵隊達は子供だと侮っていたのだが、
向かってくる少女が一瞬緑に光ると見えなくなった。
「なんだ?」
それは一瞬の出来事だった。数人の兵が倒れていた。
「このやろー何をやりやがった」
残った兵士がラクチェに踊りかかった。
(やられる・・・・)
ラクチェに跳ね返す力はなく死を覚悟した。
「エルウインド!」
突然、後ろのほうから魔法唱和が聞こえグランベル兵は次々と倒れていく。
(なにこれ・・・・?)
ラクチェは呆然とその光景を見つめた。
「大丈夫か?」
ラクチェは応えようとしたが意識がフッと途切れていった。
「おい・・・」
声を掛けた魔道士はラクチェに駆け寄った。
そして彼女を抱き起こしその顔を見て驚きの声をあげた。
「まじかよ!この子は・・・・」
その時
「おい、その子を離せ」
「この子の身内か?俺は助けただけだ。武器を下ろせ」
ラクチェを抱き上げながら振り向いた姿に、声を掛けた人物が驚く。
「レヴィン?」
「うん?お前、俺を知っているのか?」
「そっか六年ぶりだもんな・・・」
レヴィンはじっと青年を見つめた。
「まさかシャナンか?」
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