祈りの舞
7
海賊達が寝静まったオーガヒル城を小柄な影が小走りに走っている。
「ったく、ジャムカも人使いが荒いよ。
いくらオイラが身軽でも出来る事と出来ない事が・・・・ん?何だろ喧嘩か?」
「あの三人を解放しろ!グランベルが知ったら此処に押し寄せてくるぞ」
「お頭、大丈夫ですって。奴らはアグストリアの奴らと戦争状態なんだ。
それよりあいつ等を盾にマディノ城から身代金を取りましょうぜ」
「駄目だ!そんな事は絶対にさせないからね。
先代だって海賊が人から物を奪うのは海の上だけだって言っていた」
「また先代ですか、お頭、あんたがいくら先代の事を持ち出しても俺達には意味がないんだ。
俺達は生きていかなきゃいけねえからな」
「っく・・・それじゃあ今の頭であるあたしの言いつけを守ってもらうよ!
あの三人には絶対に手を出すんじゃないよ。いいね!」
そう言うと頭らしき人物は部屋を後にした。
「ふーん三人の身代金か。ノイッシュさん達捕まったな」
デューは三人の居所を探るべくその人物の後を気付かれないように付いて行った。
地下まで降りると見張りに付いていた手下を下がらせてその人物は、
三人を閉じ込めている部屋に入って行った。
デューは部屋の中の様子を探るべくそっとドアに聞き耳をたてた。
「おい俺達をどうするつもりだ?」
「ノイッシュ、喧嘩腰では行けませんよ。
申し訳ありませんが明かりをもう少し頂けませんでしょうか。
彼女が怖がっているのです」
「解った。すぐに持ってこよう」
明かりを取りに部屋を出て行った人物の気配が無くなったのを確認してデューは部屋の鍵を開けた。
「 何やってるんだよノイッシュさん!シルヴィアが心配するでしょうが」
「デュー?お前如何して?」
「ジャムカに偵察を頼まれてさ。潜り込んだら三人の事を話しているのが聞こえたから
さっきのヤツの後をつけてきたんだ」
「ジャムカ王子の?近くに進軍しているのか」
「へへマディノ城に駐屯してるよ」
「そうか!レックス公子が落としたか。それで戦況は?」
「シグルド様達はシルベール城で戦ってる。それより早く此処を出ようよ」
「それは駄目だ」
デューは『しまった』と頭を抱えた。
「まだ仲間が居たのだな。そう怯えるな、お前の事は誰にも言わない」
そう言いながら入って来た人物の顔を見て四人は驚きの声をあげる。
「エーディン様!」
「エーディン姉さま!」
「お姫様?」
「エーディン!?」
「如何したんだ?驚いた顔をしてそれにエーディンとは誰の事だ?
あたしの名はブリギット、このオーガヒルの海賊の一応、頭目だ」
「ブリギット・・ああ何てことだ!運命の輪は更に過酷に紡がれる」
クロードはため息混じりにそう言うと、まだ驚いている三人の代わりに
ブリギットに話しかけた。
「ブリギット、貴方に会って貰いたい人がいるのです。
そうすれば私達が何故、貴方を見て驚いたか解ります」
「今は無理だ。手下どもが浮き足だっているんだ。
お前達を人質にグランベルの者達から身代金を取ろうとしている。
あたしがここから離れる訳にはいかない」
ブリギットがクロードにそう告げると間髪をいれずデューが
「オイラがマディノ城まで戻ってジャムカ達に知らせるよ。
そうすればジャムカ達が動くからここも騒がしくなって身代金どころじゃなくなるでしょ?
だからブリギットの姉御はそれまで手下の人達を抑えててよ!」
デューはそう言うと皆の意見も聞かずに、部屋を出て行ってしまった。
「なんだったんだ?それよりあんた達には危害は加えないように言って置いたから
不自由だろうが辛抱して欲しい」
ブリギットはそう言うとノイッシュに持ってきた明かりを渡して部屋を出て行った。
「クロード様、あの人はきっと」
「ええノイッシュ、失われた片翼です。これでユングィは聖弓イチイバルは主を得ました。
そしてノイッシュ、貴方の心の重荷も減りますね」
「クロード様」
「ねえクロード様、あの人がエーディン姉様の双子のお姉様なのね?」
「そうですよティルテュ。ですが今はまだ彼女には言ってはいけません。
彼女の身が危険になりますから」
「はーい」
ティルテュは心得ているからと頷くと明るくなった部屋に安心したのか
海賊に奪われなかった荷物をガサコソとしだした。
「ティルテュ様?」
「へへ塔で見つけた棒なんだけど何かの役にたたないかな?」
そう言って二人に見せた棒にクロードが驚きの声をあげる。
「ティ・ティルテュ・・・・・その棒を貸して下さい」
「えっいいけど神父様何か思いつきました?」
ティルテュはクロードに棒を渡した。
すると突然クロードが光に包まれた。
「キャ!」
「クロード様!」
光が消えるとクロードが持っていた棒が何故か神々しい杖に変わっている。
「クロード様、まさかその杖は!」
「バルキリーの杖です。ティルテュ貴方のおかげです」
「そんな私なんか何も、でもバルキリーの杖が現われるって事は・・・」
「運命に逆らっても生き返らせる価値のある者がいるということです」
「クロード様、ブラギの塔で見たのですか?」
「ティルテュ、運命はまだ定まりきっていないのです。
貴方の選択一つで幾重にも未来が変わるのですから」
「なんか怖い」
「大丈夫ですよ。私もノイッシュもいるのですからさあ明るくて
眠れないかもしれませんがお眠りなさい」
クロードは少し落ち込んでしまったティルテュの頭を撫でると安心させるように
抱きしめるのだった。
******
それから数日後、三人はブリギットと共にオーガヒル城近くの海岸を海賊達を撃退しながら逃げていた。
「ちっ矢が残り少ない。三人とも大丈夫かい?」
「でもリライブの杖もあと少ししか使えませんね。
ティルテュ貴方は如何ですか?」
「まだなんとかなるけどあんまり近づかれたら無理だよ」
「くっまた来るぞ!」
四人は着かず離れずに追いかけてくる海賊を五人程倒したが
ついにブリギットの矢が無くなってしまった。
接近してくる者はノイッシュが剣で撃退したがそれでも疲れが見えてきていた。
「クロード様、私がなんとか食い止めます。逃げれる所まで逃げてください」
「無茶だよ!ノイッシュ」
ティルテュが反対する。
「くっあたしが説得してみる」
ブリギットがそう言って前に出ようとしたがそれはクロードに止められた。
「何故止める?」
「まだ神は私達を見捨ててはいません」
クロードはそう言うと空を見上げた。
「天馬?えっ!クロード様後ろに乗っているのは!」
「彼女は本当に大胆な女性です」
天馬は四人のちかく舞い降りそして直ぐに一人の女性が滑り落ちるように降りると
ブリギットに駆け寄った。
「ブリギットお姉様!」
「なっ私と同じ顔!?」
「エーディン、慌ててはいけません。ブリギットは幼い頃の記憶を忘れているのですよ。
いきなり姉と言われても困惑するだけです」
クロードはそう言ったが、エーディンは首を横に振り
「いいえ 私達は二人で一つの者。お姉様は感じてくれている筈です。
お姉様、これをお姉様だけが扱える武器、聖弓イチイバルを・・・・・」
エーディンはそう言ってブリギットにイチイバルを渡した。
「この弓は何故か懐かしい・・・・・」
ブリギットはエーディンから渡されたイチイバルを懐かしげに見つめ意識せずに弦を引いた。
「この感覚は・・・・・」
ブリギットの頭の中に不確かな記憶が確かな物として甦ってきた。
「私はユングウィの公女ブリギット。魂の片割れは愛しき妹エーディン・・・・・」
「お姉様・・・・・・」
「思い出したよエーディン!でも積もる話はまた後で!」
ブリギットはそう言うと、いきなり襲ってきた海賊をイチイバルで射抜いた。
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