会いたくて






カルフ王は部屋にやって来た二人に

「二人ともいつでも城を出れる様に準備をしてくれ」

「陛下それは・・・・」

「再三のグランベルの要求を退けてきたが、あちらももう限界だろう。

いつ戦いが始まってもおかしくない。覚悟だけはしておくように」

「お待ちください!私達も戦います。ここに残る事をお許し下さい」

「まあ待て・・・・まだ負けると決まった訳ではない。
万が一にも城が落ちた時、フィンはリーフの守役としてあの子をしっかりと守るのだ。
これは王命だ」

フィンは俯いていた顔を上げて

「承知いたしました。必ず王命に従います」

「フィン・・・・」

ラケシスは心が決まってしまったであろうフィンには何も言えず見つめるのだった。


一ヵ月後グランベルが挙兵したとの知らせが入る。
カルフ王はすばやく軍を動かすように指示した。
ところが直にトラキア軍がグランベル軍と呼応してレンスター領に
侵攻してきたと報告が入った。

「トラバント王・・・・一気に我らの土地を奪うつもりか!
ドリアス!軍をトラキア大河に向けて進軍させる。先陣として出発せよ」

「陛下!グラベル軍は・・・?」

「口惜しいが今は兵力を二つに分けるだけの数がない。
今は領内に侵入するトラキア軍を何としても防ぐしかない」

レンスターには今、ゲイボルグが無い。
カルフ王は最悪の事態を考えべオウルフを呼んだ。

「陛下 お呼びにより参りました」

「べオウルフ、すまないがもし我等が危ないと分かったら
フィン達をグラーニェの所に連れて行ってくれ」

「解りました。その後は私の判断でよろしいですか?」

「隠れる場所はあるか?」

「木は森に隠せと言うでしょう。
リーフ王子がトラキアに見つからないようにしますのでご安心を。
あえて場所はお教えできませんが」

「貴殿には申し訳ないと思っておる。無理難題を押し付けてしまった。
あの二人は頑固なところがあるからな」

「ぶん殴ってでも生き延びさせます」

「感謝する・・・・」



カルフ王が出撃して一週間、トラキア大河で戦闘に入ったと知らせが入る。

「王妃様・・・・・」

「ラケシス、大丈夫ですよ。ここは我らが領土トラキアの勝手にはさせません」

だが入ってくる知らせはどれもかんばしく無いものばかりだった。
そして衝撃の知らせが入る。

「大変です。マンスターのレイドリック様が裏切りました!」

「なっ!」


広間に集まっていた者達は驚愕する。

「軍は総崩れです」

「陛下はどうなったのです!?」

「分かりません・・・・」


王妃は覚悟を決めた。

「城の者達は篭城戦の用意を!フィン、ラケシスこちらへ・・・・」

「はっ・・・・」

「貴方達は今宵城を出るのです。詳細はべオウルフに聞くように、よろしいですね」

「王妃様!」

「陛下の願いです。リーフを頼みますよ」

王妃はそう言うと広間を後にした。

「フィン・・・・」

「ラケシス・・・・覚悟はいいかい?」

「フィン、王妃様もご一緒に・・・・」

「ラケシス・・・・君が王妃様の立場だったら?」

「そうね。ごめんなさい、埒も無い事を言って・・・・」


その夜、フィンはリーフをラケシスはナンナを腕に抱き
べオウルフを先頭に夜陰に紛れて城を出た。
城の明かりが小さくしか見えない距離まできた時、べオウルフが行き先を二人に告げた。

「グラーニェ様の所へか?」

「ああ王としてはミストルティンをグランベルに奪われるの危惧してのことだろう。
ちょっと強行軍だが、急ぐぞ」

一行はほとんど休まずにグラーニェがいるアルスター近くの村に向かった。


二日後、村についたフィン達はその惨状に驚いた。

「どういう事だ?グランベルもトラキアもまだこちらへは来ていない筈だ」

「フィン・・・ここら辺に住む貴族は王に忠実か?」

「えっ!?」

「命乞いのためにグラーニェ殿達を討ったのかもしれん」

「そんな!フィン、べオウルフ!はやくお姉さまの所に行かなくては」

ラケシスはそう言って馬を走らせたため、フィン達も後に続いた。
けれども邸は荒らされグラーニェ達の姿はどこにもなかった。

「ちっ 間に合わなかったか」

べオウルフが舌打ちした。

「グラーニェ姉様、アレス・・・」

「ラケシス・・・・」

フィンは放心状態のラケシスを支えるように抱きしめた。



「フィン、ラケシス。此処を急いで離れよう、俺達の身も危ない」

「そんな!お姉様達を捜さないで此処を離れるなんて!」

「ラケシス!あんたはフィンとナンナの事だけ考えろ!」

「べオウルフ?」

「非情なようだが今はリーフ王子を逃がすだけでも困難な状態だ。
グラーニェ殿達の事は無事でいるのを祈るしかない」

そう言ってラケシスを説得している彼の顔は苦悩に歪んでいた。

「べオウルフ・・・・」

ラケシスは何も言えなくなり俯いた。

(お兄様と親しかったこの人はグラーニェ姉様とも何か繋がりがあったのかしら)

このラケシスの考えはフィンの言葉に掻き消された。

「べオウルフ、ラケシス、これからダーナに行こう」

「おい フィン?」

「べオウルフ、貴方は陛下からリーフ王子と私達を匿う様に言われているのだろう?」

「ああ」

「だが今のレンスターに身を置くのは危険だ。一旦ダーナまで退く」

「行けるか解らないぞ」

「頼りにしているからな」

三人は後ろ髪わ引かれる思いで邸を後にした。



数日後、メルゲン城近くの教会にたどり着いたフィン達は相談した結果
情報を集めるためにメルゲンによる事にした。

「フィン、俺が様子をみてくるから此処にいてくれ」

「分かった、べオウルフ悪いが染料を買ってきてくれ」

「染料?何に使うんだ」

「私とラケシスは手配書が回っているかもしれない。髪の色を変える」

「なるほど!解った買ってくる」

べオウルはそう言って教会を出て行った。

「フィン・・・・」

「ラケシス、大丈夫ですか?」

「ええ貴方が側にいてくれるから・・・・フィンこそ大丈夫?」

「はい・・・・ラケシス、貴方とナンナは必ず守って見せます」

「うん 頼りにしてるからフィン」

二人は何ものにも代えられないお互いの存在を確かめるように抱きしめあうのだった。


夜になってべオウルフが戻って来た。

「どうだった?」

「まだグランベルの手は伸びてないが安心はできない・・・」

「そうだな、それより陛下の消息やレンスター城の様子が分かったか?」

「陛下の生存は絶望的だ。味方に裏切られたんだ。
軍が混乱してしまったらしい。城はまだ篭城しているらしい」

「そうか・・・・」

話を聞いているフィンの肩は震えていた。

「今は耐えろ」

「ああ」

それからフィンとラケシスはべオウルフの買ってきた染料で髪を染めた。
フィンは黒髪、ラケシスは赤茶色の髪になったがリーフが二人を本人と認めずグズッたため
あやすのにとても苦労するのだった。



メルゲン城下に入ったフィン達は
ダーナは封鎖されていて中に入れ無いために、足止めくらってしまった。
その為、べオウルフが見つけてくれた宿屋に滞在する事になった。
小さいが主人が気さくな男で色々と街の噂を彼らに教えてくれた。
ある朝、べオウルフが起きると部屋にはフィンの姿は無く。泣きはらした顔のラケシスと
子供達だけがいた。

「おいフィンはどうした?喧嘩でもしたのか」

「べオウルフ・・・・王妃様が・・・・」

ラケシスの目からまた涙が流れた。

「城が落ちたか・・・・」

「ええ 朝ここの主人がそっと知らせてくれたの。
フィンはそれを聞いて頭を冷やしてくると言って出ていったの」

「そうか・・・・そっとしといてやれ。騎士として奴にはこたえる話だ。

主君が死に自分が生き残っているというのはな・・・・」

「ええ・・・・」

その日、遅くに帰ってきたフィンに二人は何も言わなかった。



レンスターが落ちた知らせを聞いた数日後、突如グランベル軍がメルゲン城に攻め込んできた。

「フィン、ラケシス 荷物は惜しいがここに置いて行こう。身軽な方が何かと良い」

二人は頷くと子供達を抱き上げべオウルフに続いて宿を後にした。

「馬を城の外に出していて正解だった。今なら街中混乱していて城の外に出やすい」

「これからどうするの?」

ラケシスが不安げに聞いた。

「ダーナに行こう」

「そうだな」

フィンの言葉にべオウルフも同意したので、一行はダーナへ向かった。


数日後、まだ戦いの匂いがないダーナに着いた。

「ここはまだ平和ね」

「ああだが気は抜けない。
お前達はここで待っていてくれ。知り合いがここで傭兵の斡旋をしているから
ちょっと話をつけてくる」

べオウルフはそう言うとフィン達を宿屋に残して行ってしまった。

「べオウルフって顔が広いわね」

「本当だ。ラケシスは彼の事エルトシャン様から聞いていないのかい?」

「ほとんど知らないの。だいぶ昔からの知り合いらしいけど」

「不思議な男だ」

「そうね」

二人がべオウルフに思いを馳せていると

「フィン!おなか減ったよー」

「リーフ様、申し訳ごさいません。今何か持って参りますから」

フィンがそう言って立ち上がると

「待ってフィン、皆で行きましょう。私もお腹減っちゃった」

「だが・・・」

「ここから出るわけじゃないんだから大丈夫よ」

ラケシスはそう言ってぐずり始めたナンナを抱き上げた。

一階の食堂にはメルゲンから逃げてきた者やグランベル軍に仕官しようとする騎士などで混雑していた。

「凄い人ね。フィンあそこ空いてるわ」

ラケシスはフィンにそう言って窓側のテーブルに向かった。
食事を注文し待っている間、二人は窓から見える人々を見ていた。

「ねえ此処の人達はグランベルが怖くないのかしら」

「庶民には上の者達が争っているようにしか見えないのでしょう。
自分達に危害が及べは別でしょうけど」

「私は皆のために命を懸けてるつもりだったのにな」

「ラケシスはエルトシャン様に守られていたのだから
政治的な事は解らないのも無理ないです」

「そうだけど・・・・」

だが話はメイドが持ってきた食事の匂いで中断された。

食事を済ませお茶を飲みながら窓を見ているとべオウルフが戻ってきた。
べオウルフもフィン達を見つけて宿屋に入ると直にフィン達の下にやってきた。

「よお、食事は済ませたみたいだな」
「ええ、ごめんなさい、待たずに食べてしまって」

「大丈夫だ、俺もあっちで食べてきたから。それより明日ここを出るぞ」

「何かあったのか?」

「安心しろ、傭兵隊の頭と話がついたから俺は傭兵隊に入ることにした。
お前達には目立たない所に家を借りたからそっちに移れ」

「べオウルフ?」

「ダーナは自由都市だ。今の所はグランベルが難癖つけてきたら戦うらしい」

「だけど貴方まで戦うなんて・・・・」

「どうせ黙って隠れるのも性に合わないからな。それに情報も入る。
心配するな折角生き残ったんだ無茶はしないって」

「でも・・・・」

「ラケシス べオウルフが決めたことだ。べオウルフよろしく頼む」

フィンは頭を下げた。

「良いさ。お礼は出世払いだ」

べオウルフはそう言って笑った。



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