哀しみの風






バーハラの戦いの後、ラーナをシレジア城に残し、レヴィン達は奥地に逃れていた。
アーサーと名付けられたレヴィンとティルテュの子供はスクスクと育っていた。

「チチーエー」

片言を話せるようになったアーサーはレヴィンが大好きでいつもまとわりついていた。

「アーサーはお父様が本当に大好きね」

二人目の子がお腹にいるティルテュがそう言って笑った。
レヴィンはアーサーを抱き上げると

「俺達は仲良しだもんなーアーサー」

アーサーは抱き上げられたのが嬉しいのかキャッキャッと笑った。

そこに小さな子供を抱いたフュリーとアレクがやって来た。

「アレク、フュリーやっと来たか。アーサーが遊び相手が来ないとグズッてな」

「そんなこと言ったって、あなた達、家族は隠れて居るんだから
そんなにここに来れるはずないじゃないですか」

アレクは呆れながらレヴィンに言った。

「セティ、皆様にご挨拶を」

「こんにちは」

アレクとフュリーの間にはアーサより1つ上のセティという男の子とバーハラの戦の後に
生まれたフィーという女の子がいた。

「フュリー その子はどうしたの?」

ティルテュはフュリー達の後ろにいる子が気になり聞いてきた。
「この子はパメラの子です。今パメラ達はラーナ様の所に行っているので預かっているの」

「そうだったの。こんにちはあなたのお名前は?」

「ホークです」

「小さいのにしっかりしてるな」

「ええ、両親が留守がちですから」

「ホーク、こちらにいらっしゃい。この子はアーサーって言うの。仲良くしましょうね」

ティルテュはそう言って、子供達を遊び部屋へと連れて行った。

「レヴィン様、グランベルがとうとう仕掛けてくるみたいですよ」

「そうか・・・・」

「まずレンスターを陥落させてから、こっちに来るみたいです」

「だがレンスターもそう安々と攻め落とされないだろ?」

「ですがレンスターはキュアン王子を失いゲイボルグもない。
それに一年前の戦でランスリッターは壊滅状態、どこまで持ちこたえられるか・・・」
「・・・・、だがフィンが生きていたそうじゃないか。それが唯一の朗報だ」
「そうですね・・・・」


そこにアーサーがトコトコとやってきた。

「チチーエー」

「どうしたアーサー?俺と遊びたくなったか」

「レヴィン様がこれ程、子煩悩だと思いませんでした」

「フュリー笑うなよ。いつまで子供と居れるか分からないからな。
 なるべく一緒にいてやりたいんだ」

「レヴィン様・・・・」

その夜、アレクとフュリーはレヴィン夫婦に引きとめられ泊まることになった。


子供達を寝かしつけた後、フュリーとティルテュは夕食の後片付けをはじめた。
それを横目に、レヴィンがアレクに言った。

「おい、俺は明日にでも母上の所に行こうと思う。帰ってくるまでティルテュ達の事を頼む」

「長くなりそうですか?」

「わからん。イザークに居るはずのセリス達の消息を調べるために
 誰かをイザークに送りたいし」

「ご無事でいるでしょうか・・・・」

「ああ、シャナンがいるからイザークの者達が匿ってくれているとは思うが・・・」

「あそこはドズル公国のダナンが治めるらしいから、残党狩りが厳しいらしいですよ」

「レックス公子の兄上だったな。
アイラとレックスとの子もセリスと一緒に逃れていたから探しているかも知れん・・・・」

「ええ・・・」

「まっ どっちにしても頼んだぞ

「わかりました」



次の日、レヴィンは心配するティルテュを宥めラーナの元へと向かった。

「母上、お久しぶりです」

「まあ レヴィン!こちらに来るなら連絡くらいしてちょうだい」

「お忍びですから、パメラも元気そうだな。そっちは旦那か?」

「お初にお目にかかります。王よ・・・・」

「この国の者ではないな

「はい、アグストリアから来ました、ルッツと申します。」

「まあいい、母上。レンスターがグランベルに攻められるとアレクからききましたが」

「ええ、レンスターがどこまで持ちこたえれるか。こちらも援軍でも出せれば・・・」

「ラーナ様それは・・・・」

「解ってるわパメラ。レヴィン・・・グランベルはシレジアに服従を求めてきました。
 応じれば攻め込まないと」

「ふっそんな事信じられるか!!アルヴィスは俺達をだまし討ちにしたんだ。
 シグルドを殺し、抵抗できない者達をメテオで・・・・」

「レヴィン・・・・」

「レヴィン様、それではシレジアはグランベルと徹底的に戦うということですね」

パメラの夫ルッツが重い口を開いた。


「ああ・・・そうだ。このフォルセティで皆を守ってみせる」

「敵を倒すのではなく?」

「守るというのが、敵を殺す事だというならそうだろう」

「解りました。それで貴方はそれをラーナ様に伝えにきたのですか?」

「それもあるが、イザークにいるセリス達の安否を確かめるに
誰かをイザークに送ろうと思ってな・・・」

「シグルド様のご子息を・・・」

「そうです母上。いずれあの子は我らの希望となる。英雄シグルドの子として・・・」

するとルッツが

「そういう事なら、私が行きましょう」

と名乗りをあげた。

「あなた!!」

「パメラ、反対なのか?」

「いいえ、でもどうして・・・」

「シグルド様の忘れ形見を見てみたい。それにそこからレンスターに行きたいのだ」

「レンスターに?」

レヴィンとパメラは驚きの声を上げた。
するとラーナが

「アレス王子ですか?」

「はい・・・エルトシャン王のお子アレス様は我らアグストリアの者にとって唯一の希望です。
それにあちらにはラケシス様もいらっしゃいます。
騎士として主君の大事な方々をお守りするのは当然の役目」

「貴方、いままでどうして言ってくれなかったの。
言ってくれればここに引き止めたりはしなかったのに」

「お前や子供達を重荷に思ったことはない。
レヴィン様がこの話を持ってこなければ、もう少し待つつもりでいた」

「いいのか、危険な仕事だぞ」

「大丈夫です。それより何人か人を付けてほしいのですが」

「わかった」

「では早速、準備を」

ルッツはそう言うと部屋を出て行った。

「いいのかパメラ?」

「はい、同じ騎士として気持ちは解りますから」

「子供にはなんと言う?利発そうだったがまだ幼いぞ」

「ホークに会われたのですか?」

「フュリー達が一緒に連れて来た」

「大丈夫です。あの子なら解ってくれます」

「ですがパメラ、フェミナはまだ赤ん坊なのですよ。
万が一なにかあれば父親の顔を知らずに育つ事に・・・・」

「いいえ それでも彼を止める事はしません」

「すまないパメラ」

「レヴィン様・・・・・」



****



それから一年後、イザークからルッツに従った者がセリスの無事を知らせる手紙を携え戻ってきた。

「それでルッツは?」

「はい、イード砂漠からレンスターに行く商隊に混じってお一人でレンスターに向かわれました」

「そうか」

「あのこれを家族にと」

それはパメラに宛てた手紙と光の魔道書ライトニングである。

「この魔道書は?」

「イザークで見つけた物です。使える時がきたら渡して欲しいと」

「あいつ・・・・」

レヴィンは察しのいいルッツに驚いた。

彼の息子ホークは幼いながらも魔法に興味を覚え、その飲み込みも早く才能もあったのだ。

「解った、これは俺から渡しておく」

「お願いします」

レヴィンは使者を下がらせるとパメラの元に向かった。


「あっレヴィン様」

「パメラ、ルッツから手紙が来たぞ」

「本当ですか!?無事にたどりついたのですね」

「ああ、使者の話だともうレンスターに向かったらしい」

「そうですか」

「それよりこれから奥地に戻るんだがお前も一緒に行かないか?
 子供達にも随分会っていないんだろ」

「ええ、でもフュリーがよく面倒みてくれますし」

「ったく、なに遠慮してるんだ。きっとホークも待っているぞ。用意しとけ」

「あっはい!」




数日後、隠れ家にたどり着いたレヴィンにアーサは抱きついた。

「ちちうえー」

「アーサー、いい子にしてたか」

「うん。あのねー、ティニーすぐ泣くの」

「そうか、でもティニーは泣くのが仕事だからいいんだよ」

「ふーうん、あっパメラだ」

アーサはホークを抱きしめている彼女を見つけ叫んだ。

「アーサー様、お元気でしたか」

「うん。ホーク兄様、遊んでくれたの」

アーサーは三つ年上のホークにすごく懐いていた。

「ホーク偉いわね。これからもアーサー様と仲良くするのよ」

「はい母様」

「アーサー、母上は家かい?」

「うん。アレクおじちゃんもいるよ」

「そうか、じゃ家にはいるか」

レヴィンはアーサーを抱き上げ玄関へと向かいパメラ達もそれにつづいた。

「ははうえー、ちちうえーかえってきたよー」

「レヴィン? あっ貴方お帰りなさい」

「ただいま。何事もなかったみたいだな」

「当ったり前です。毎日俺とフュリーで見回りしてるんだから」

アレクが間髪いれずにいった。

「そうだな感謝してる。それよりアレク、セリスの消息が解ったぞ」

「ほんとうですか!セリス様はどこに?」

「残党狩りが激しいので隠れ家を替えながら生活してるらしい。
もう少しして落ち着いたらあっちから連絡するとの事だ」

「くそう・・ダナンめ・・・・」

「アレク・・・・」

「大丈夫だフュリー、俺にはレヴィン様から家族を守って欲しいと言われている。
飛び出したりしない。それに今の話だと会えるかも解らないみたいだし」

「すまん・・・・」

「よしてください。ここにはフュリー達だっているんだ、自分の家族を守るのは当たり前の事です」

「何か居心地の悪いはなしね」

そう言ってパメラが苦笑いした。

「パメラすまない」

アレクは気まずそうに謝った。

「いいのよ、貴方達のお陰て騎士としての役目を果たせているのだし
子供達には寂しい思いをさせているでしょうけど」

「ははうえ。僕ならだいじょうぶです」

「ありがとうホーク」

「偉いなホーク、これは父上からの贈り物だぞ」

レヴィンはそう言ってホークにルッツから届いた魔道書を渡した。

「レヴィン様それは?」

「ホークの強い精神力ならいつか使えるだろう。父上と一緒みたいで嬉しいだろうし」

「ありがとうこざいます。レヴィン様これで僕アーサー達を守ります」

ホークは幼心にも両親が守っている者を感じ取っていたのだった。

「たのむなホーク」

「うん」

「すごいホーク兄様」

ひょっこりと顔を出したセティとアーサーがそう言ってホークに笑いかけた。

「さあ、子供達はあっちで遊んでなさい」

「「「はーい」」」

三人はパタパタと子供部屋に走って行った。


「セティもホークみたいに育ってくれるといいけど」

「いい子じゃないセティは」

「そうだけどあの子、アーサー様と取っ組み合いの喧嘩をするのよパメラ」

「元気があっていいじゃない」

「ティルテュ様もそう言ってくださるけど」

「いつかは一線を引いてしまう時がくるか・・・・」

「ええ、その時が少し寂しい気がして」

「まあ後7、8年は大丈夫だ」

レヴィンがそう言って笑った。



****



数年後、レヴィンは相変わらずシレジア城と隠れ家を行ったり来たりしていたが、
グランベルの侵攻が来たとの情報が入り、アーサー達は別の隠れ家へ避難することになり
その護衛にパメラがついていた。

「さあ、アーサー様お早く!」

「うん。でもパメラ、父上は?」

「お父上は後で来られます。さあ早く」

「パメラ隊長、大変です。敵が!!」

「なに!?どうして」

「海を渡りセイレーン城のほうから攻めてきたもようです」

「しまった。陸路ばかりに気をとられた」

とそこに

「母上!!」

「ホーク!アーサ様を連れて早く逃げなさい」

「フェミナとティニー様がいないんです」

「なんですって!!いいわ。二人は私がが探します。二人は先にいって」

「ヤダ!僕も行く。ティニーは僕が守る」

「アーサー様、だめだよ危険だよ」

「一緒に探そうよホーク」

身の危険を感じてアーサーは気が高ぶっているのか、髪の毛が逆立っていた。


その時

「アーサー何処にいるの!?」

ティルテュの悲痛な声が聞こえた。

「母上!!」

「アーサー!!無事だったのね」

「母上!ティニーは!?」

「大丈夫よフェミナと一緒に向こうで待ってるわ。さあパメラも行きましょう」

「ティルテュ様、子供達を連れてお逃げ下さい。敵はここで喰い止めます」

グランベル兵がパメラ達を見つけ迫っていた。

「でも・・・」

「はやく!!」

ティルテュ達はパメラの部下達に引きずられるようにその場から立去った。


「貴方達も早く行きなさい」

「いいえ、人数が多い方が喰い止められますよ」

「ふっ来るぞ」

パメラ達は敵兵の多さに死を覚悟した。
その時、突風が吹き荒れグランベル兵は次々と倒れていった。

「パメラ、大丈夫か?」

「レヴィン様、どうしてここに?」

「ああ 何かやな予感がしてな。ティルテュ達は?」

「はい、兵を付けてお逃がしいたしました」

「そうか、ここは俺が食い止める。お前達は先に行け!!」

パメラ達はレヴィンの足手まといになると思いその場を離れた。

「さあ、フォルセティの洗礼を受けたい者は前へでろ。この地ではお前らの好きにはさせない」

「ほう、さすが聖戦士の末裔だ。それだけの魔力があればここにいる者すべて殺せるな」

「お前は・・・・マンフロイ」

「覚えていてくれたかな。シレジアの王子。いや もう王だったな」

「お前だけは許さない。お前達、暗黒教団の所為で何人の人間の運命が・・・」

「わしは、ただ人間の欲望を導いただけだ。踊らせられたお前達が愚かなのだ」

「だまれ!!」

レヴィンはフォルセティを放った。

「フフ 効かぬぞ」

「クソッ」

「ではつぎはこちらからだ」

マンフロイはそう言ってフェンリルを放った。

「グッ 何故だ、そんな力をどこで・・・・」

「お前が知る必要はない。死ね!!」

だがその時、空から槍がマンフロイに突き刺さった。

「グッおのれ!!」

「レヴィン様!?ご無事ですか」

「助かった。すまんフュリー」

「クッ天馬騎士団の登場か・・・。
まあいい今日の所は引くがいずれお前達の苦痛に歪む姿を楽しんでやる」

そう言うとマンフロイはこつ然と姿を消した。
その時にはグランべル軍の姿も退却し遠ざかっていた。



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