国境を越える子どもたち(1)

「おてんばマイナンと仲間たち」

 タイとラオスの国境、メコン川のタイ側にあったバンビナイ難民キャンプに、1985年、私はSVA(シャンティ国際ボランティア会)から派遣され、働くことになった。そこで最初に出会った子どもたち。マイナン(6)、オビアン(6)、パンタオ(5)、シェン(5)・・・みんなまだ赤ん坊の頃に親におぶわれ、当時インドシナ戦争後の混乱状態だったラオスから国境を越え、タイに逃れ難民になった子どもたちだ。難民キャンプしか知らない子どもたちに、絵本やおはなしの楽しい世界を伝え、絵を描いたり、一緒に遊ぶというのが私の仕事だった。私はモン語など一言もわからず、絵本だけを抱えてやってきたのだった。当時の日記から。


1人の時は甘えん坊でだだをこねたいオチビさん
でも、妹や弟をおんぶすると、立派なおかあさん

9月19日 キャンプに着き車から降りると、子どもたちが駆けよってきて、私の持つかごに入った絵本をいきなり手にとろうとする。「まだダメだよ」と言っても次々手を伸ばして本を奪い取ろうする。「こら!」私は子どもたちの手から、本を取り返すと、手のひらをつかんで見せた。「ほら、まっくろ」。ぐいぐい手を引き蛇口のところで手を洗わせた。みんなぞろぞろついて来て、今度は先を争うようにして手を洗う。私が、ゴザを取りに行こうと離れたとたん、わぁーっと本を奪い合っている。マイナンは「かいじゅうたちのいるところ」の絵に目を丸くしている。男の子たちは、「さんびきのやぎのがらがらどん」の回りを囲んでいる。シェンは「しょうがパンぼうや」のパンぼうやがきつねに食べられるページで、「あっ」と驚いた顔をして私に見せに来た。後から来た子は、はじめは立って後ろから覗いているが、じきにしゃがみ込み本を手にとりページをめくり出す。


「かいじゅうたちのいるところ」を食い入るように見るマイナン

10月7日  マイナンは本を投げる真似。「ダメだよ」と言うのに、投げて逃げる。私は本気で追いかけると、お尻をたたいた。「ダメって言ったでしょ」。マイナンはコクンとうなづいた。その後、オビアンが本を投げるふりをしてはこっちを見てニヤニヤ。

10月11日 お絵かきをしようとすると、みんな「紙ちょうだい」と我先にと手を伸ばす。シェンは、紙の裏表とも、赤と黒のクレヨンで半分ずつ全勢力をかけ塗っている。オビアンはなぐり描き。「これで終わり?」と言うと、「フン」と紙とクレヨンを投げていく。しばらくすると戻ってきて「一枚ちょうだい」。「きれいに描いてね」今度は丁寧に色を塗って描きあげた。「きれいねぇ」とほめると、ちょっと得意そうな顔をして、またもう一枚描いた。お絵かきが終わると、マイナンが絵本の入ったかごを指す。私が取りに行くと、もうみんな手を洗って待っている。マイナンが、回りの子の手のひらをひっくり返しては「汚れてちゃいけないよ」と見て回る。

「ガンピーさんのふなあそび」を片言のモン語で話す

「ガンピーさんのふなあそび」を見せた。マイナンとオビアンが一番前に陣取る。私がページをめくる前に次の登場動物の鳴き声をすると、子どもたちが我先に言い当てる。「ニャオーン」「ミー(ねこ)」ページをめくって猫が出てくると、二人も顔を見合わせてうれしそう。猫のせりふ「一緒にいってもいい?」それを片言のモン語で子どもたちに尋ねるのだが、他の子が「いいよぉ」というのに、この二人は「ダメー」。ダメと言われてはページがめくれない。「お願い」「ダメー」「にゃーおーん、お願いだよぉん」。二人は実にうれしそうにダメを繰り返した後、「いいよぉ」と言うと、すっかり満足そうだった。

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