国境を越える子どもたち(5)

「難民キャンプの人形劇」

 難民キャンプは広い。一時は3万人以上の人々が暮らしていたのである。キャンプの端っこにあった「子ども小屋」に来られるのは一部の子で、ほとんどの子どもたちには絵本を見るチャンスなどなかった。そこで、私は常連の子どもたちと、絵本と手作りの人形や紙芝居を持って、出かけることにした。トゥーやチュー、12,3歳の男の子たちが中心メンバーとなり、小さい子どもたちもぞろぞろついていく。


「あかいかさ」は私が一番はじめに演じたペープサート。
「ぼくがやる」とチュー。歌いながら上手に演じる。

 

 私たちは道ばたに、手作りのダンボール舞台を立てて客寄せ。「ミニュア−(子どもたち)、人形劇やるから見においで−」すると、もうあちこちから子どもたちが駆け寄ってくるのだ。はだしの子、はだかんぼの子、妹や弟をおんぶしてる子・・・大人も何ごとだと集まってくる。


段ボール箱の舞台を、難民キャンプの道ばたに立てると
たちまち、子どもたちが集まる。「何がはじまるんだろう?」

 

 ダンボ−ル箱に入った男の子たちは何やらごちょごちょ相談すると、人形劇を始める。実際、ありあわせの人形で、ほとんど即興なのだ。「あかずきんちゃん」のトラ版のようなお話や、「よい子悪い子」というのは、学校へ行く道々拾い食いしてお腹をこわす男の子の話。お話はあちこちの絵本から題材を得ているのだろうけれど、ちゃんとモン風にアレンジがきいている。「今度お礼に、山でとれる新米を食べにおいでね」とあかずきんちゃんは言うのである。これは、モンの人にとっては最高のごちそうなのだ。

 ある時、子どもたちは「おおきなかぶ」を演じた。おじいさんがまいたかぶ。おおきなかぶになる。おじいさんがひっぱって抜けない。おばあさんがきて、孫がきて、ぬけない。次は本当のおはなしでは犬だが、人形がないので、ここでは豚が登場。豚もひっぱる。ぬけない。そしてサルがくる。サルが子どもたちに言う。「みんなも1、2、3って応援してよ」と。見ている子供たちは、夢中になって人形を見つめながら「イ、オ、ペ(1、2、3)」と大声をだした。「もう一回!」「イー、オー、ペー」子どもたちは、必死になって叫んでいる。「わ−!抜けた−!ありがとう!家に持って帰ってたべるね。じゃあ今日はこれでさよなら−!」

 こんなダンボール舞台での、ふぞろいな小さな人形たちに、見ている子どもたちの目は大きく開かれて、口をあんぐり開け、真剣そのもの。笑ったり神妙な面持ちになったり・・おはなしの世界に引き込まれている。

 「子ども小屋」に絵本を見に来て、おはなしを聞いていた子どもたちは、いつのまにか、自分が語る方になっていた。もちろん遊び半分で楽しいからやっているのであるけれど、子どもたちはいつのまにか、おはなしを語りかける楽しさを身につけていたのだ。

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