2011年3月13日(日)  図書館に来なくなった子

 日本で大変なことが起こった。ここ数日、落ち着かない。ラオス山の子ども文庫基金の中心人物である方は、仙台の方である。連絡がつかない。海辺ではないので、家が津波に巻き込まれたということは、ないと思うが、災害の中心地である。お宅はどうなっているのだろう?皆様、ご無事だろうか?祈っている。他に図書館活動を応援して下さっている方々も、仙台の方が多い。みなさま、大丈夫だろうか?

 土曜日、私は気もそぞろなまま、図書館を開く。今回は、たくさんの新しい本を仕入れている。子どもたちが、「早く、借りたい!」とカオちゃんが本の登録作業をするのを手伝う。
「早く、借りて読みたいよぉ。読みたいよぉ」と言う。なら、みんなで作業をして、早く借りられるようにしようと、子どもたちが、こういう作業に関わるのは、とってもいい。



 ずっとこの図書館の常連だった、オオンが、ここずっと顔を見せない。彼女は、まだ中1なのに、学校をやめてしまって、アルバイトをしている。家の事情らしい。昨日、久々に顔を見せた。ちょっと大人っぽくなっている。TIGO という、携帯電話のシムカードを売って歩いているそうだ。TIGO のTシャツを着てTIGO の自転車に乗ってやってきた。すっかり、TIGO ガールというわけだ。炎天下を歩いたり、自転車に乗って、売り歩いているそうで、顔はより黒くなっている。
「もう図書館に来ないの?」ときくと「来るよ」と笑ったが、まだまだ身体も細いのに、もう、大人の世界に一歩足を踏み入れたような顔が、少しさびしかった。



 中1で、学校をやめて、どうするんだろう?この後、彼女はどういう人生を送るのだろう?
 
 今日は、オオンより少し年上で、やはりもう中1を辞めてしまった、ユイと二人で、道を歩いているのをみかけた。携帯電話のシムカードを、歩いて売り歩いて、いくらのものなのだろう?疲れるばかりで、大した収入なんかにならないだろうに。でも、小卒の彼らに、今、できる仕事なんか、あまりないのだろう。
 学校には戻りたくないのだろうか? いったい、でも、そこまで、お節介に他人が首を突っ込むことではないのだろうか?

 それにしても、子どもたちの無邪気な時期というのは、短い。

 人間の人生、どうなるか? いつどうなるのか、わからない。それでも、明日がどうなろうが、一生懸命、一歩一歩生きていかなくてはいけないんだろう。



2010年3月26日(土) 子どもたちの寸劇
 
 しばらくやってこなかった、オオンが、再び姿を見せるようになる。前髪をちょっと茶色く染めて、なんだか急に大人っぽい。でも、ティゴのシムカード売りの仕事は、辞めたという。
「だって、日照りの中、真黒になるまで歩いても売れないんだもん」と言う。
 そりゃ、そうだろう・・・それに、年齢も、まだ12か13なんだから、雇ってくれるところも、あまりないだろう・・・・学校をどうするつもりか知らないが・・・・
「学校辞めたんでしょ」
「うん」
「また、戻れないの?」「うん?恥ずかしがらなかったら、戻れるよ」
「戻るつもりないの?」「だってさ・・・・うち貧乏だし・・・・読み書きできるもん」と言う。
「学校の勉強って言うのは、読み書きだけじゃないんだよ・・・・できれば続けてほしいけどなぁ」と言うものの・・・・彼女の家の事情はよく知らない。
 とにかく、図書館に戻ってきてくれたのは、私としては、嬉しい。いつまでやってこられる状況かはわからないが・・・・

 私は、なんとなく、日本の地震や津波や、そしてその後の原発のことで、ずっと気が落ち込んでいて、あぁ、こんな一大事なんだし、日本に帰ろうか・・・でも、私が帰ってもどうしようもないけど・・・などと思っている。でも、図書館に、子どもたちがワァワァとやってきて、わいわいと話していたら、急に気が晴れた。とにかく、ラオスの正月(4月中旬)まではいよう。ラオスの人たちにとっては、大切な時だから・・・・それが、過ぎたら、一度日本に帰ろう・・・・と、ふんぎりがついた。

 子どもたちを集めて、ラオスのお正月前に、図書館で行事をやるかどうかを話し合う。
「お正月会をやる?」
「やるやるぅ〜、コープン(ラオスの素麺)を作ろう!」
「あのさ、何を食べるかじゃなくてぇ、実際に何やる?」
「うーん、みんなで、スークワン(幸運を願って、糸を結びあうような儀式)をして・・・・」
 4月10日(お正月前の日曜日)に、子どもたちとみんなで朝からご飯を作り、それから、儀式をして、後は、歌えや踊れや?のパーティをすることになった。

「で、何か、出し物はやらないわけ?いつもの紙芝居じゃなくてさ、何か、お芝居とか・・・」
と、私が言うと、みんなで、寸劇をやろうという。急に、みんなで、出し物の話し合いをはじめる。
「お金を借りて返さなかった人の話」だの、「友だちに騙されて、身売りをさせられた女の子の話」だの・・・・・子どもたちが演じるのにいいんだか悪いんだか・・・だけど、どうも、学校やら地域にやってきた、どこかの援助団体が援助して行われた芝居の内容らしい。みんなが見たことがあるようである。
 彼らは、さっそく、ごっこ遊びのように、芝居の練習をはじめたが、驚くことに結構上手なのである。

「あぁ、今日は畑が疲れたわねぇ、お父さん」と、中1なのに、もうお母さんの雰囲気が漂うスムが言う。スムは母ちゃん役だ。すると、隣に座った、同じ中1だけど、身体が小さくて、とてもスムと同級生には見えないターが
「えっ?ぼく何か言うの?」とか、おどおどして言う。
「あんた、お父さんなんだから、何か言いなさいよ」とスムに言われ、ターは
「うん、疲れたなぁ」とか言う。まったく、ノミの夫婦で、可笑しい。

「あらぁ、それにしても・・・こんなに親が働いているのに、娘はどこに行っちゃったのかしら?」
とスム母さんが言うと、娘役のピーが
「お母さん、学校に行くから、お小遣い頂戴」と、やってくる。
「あんた、学校へ行くって・・・・いくらいるの?」と、スム母さん。
「1万キップ頂戴」
「なんで、あんたそんなにいるの?お母さんは5000キップしかないわ」
「じゃあ、お父さんは?」と、ピーはしゃあしゃあと言う。
 そう言われて、ター父さんはおずおず、
「お父さんは、1キップもお金を持ってないよ」と言う。スム母さんは、
「まったく、お父さんはあてにならないし・・・・もう、これしかないのよ」
と、5000キップ渡すと、娘ピーは、ふくれて出て行く。

 娘ピーのところに、女友だち2人(いろいろ配役が変わるが、オオンたら、プーとか)が、「遊びに行こうよ」と誘いに来る。「どこ行くの?」「どこでも、うろうろと」「行くわ」と、3人が連れだって行くと、悪の手下役のユイが、「あんたたちどこ行くの?いい仕事があるわよ」と誘う。
「なーに、いい仕事って?」「給仕よ」
「いくらなの?」「月100ドル」
「わぁ、それはいいわよ。じゃあ、やろうか」
 と、3人は悪の手下についていく。
 そこは、給仕といえども、男にサービスする場所だった。

 そこには、客の男(レェとボビー)がいて、
「おいおい、新しいねえちゃん、若くて、熱いのはいないのかい?(おいおい、その年齢で、そんなこと言っていいのかよ・・・・と思うが、この辺りの子は、タイのテレビの影響か?それとも、子どもたちが見たことのある芝居が、そのセリフなのか?)」と言う。
 悪の手下ユイ。
「3人もいますよ。新しい子が入ってますよ」
「おいおい連れてこい」
 ほら、あんたたち、お客よ」と3人に。
「えー?お客って、私たち、ウェイトレスでしょ?」
「食事のウェイトレスじゃないわよ。男のよ」
「えぇ!そんなのやらないわ。家に帰るわよ」
「ダメよ、もう来ちゃったんだもの。ほら、あんたたち自分で連れていってよ」
と言うと、レェとボビーが来て、女の子たちを引っ張って行く。(でも、その後、男の子たち(特にボビーが)恥ずかしがって、男同士で並んで座っていたりして、笑える。)


 父と母。
「おかしいわねぇ、こんなに遅くなっても、娘が帰ってこないわ」
 そこへ、先生が来る。
「お宅の娘さん、ここのところ学校に来ないんですけど」
「えぇ?そんなはずないでしょ。娘は、毎日、学校へ行っているし・・・・今朝も、学校へ行くからお金頂戴って・・・」「そう言っても、来てないですよ。お友達とどこかへ行くのを見たんですけど」
「じゃあ、ぜひ、そこへ連れていってくれますか?」「一緒に行きましょう」
 と、店に行くと、娘が男に囲まれて、タバコを吸っている。

「あんた、何しているの?」
「お、おまえこんなところで何しているんだ?」
(最初は、お父さん役もお母さん役も、やけに冷静に言うので、「そんな言い方じゃダメよ」と何度もダメだしをして、少し、驚いて言うようになった。)
「さぁ、家に帰りなさい」
 すると、レェが
「ダメだ。これは俺の女だぜ」
 すると、スム母さんが
「あんた、お母さんを選ぶの、他の人を選ぶの?」
 娘ピーは
「お母さんを選ぶわ」
と言うと、「じゃあ、帰りましょう」と娘を家に連れて帰って、娘は両親にごめんなさいをして、めでたしめでたし?終わり・・・・・という物語。

最後はみんなで歌うたって終わりにしようか・・・

 これを、ラオスの正月にやるのも??だが、みんな、大笑いしながらも、一生懸命練習しているし、ラオスの社会の中では、大人の話題と子どもの話題が、あまり区別がない・・・・というのも、そうである。特に、この地域の子たちは、結構身近な話なのかもしれない。
 オオンのように、学校を早々に辞めて、大人の中でもまれて行かなくてはいけない子がいる・・・・だけど、そういう状況の子だって、まだまだ子どもで、実は、もっと普通の子どもでいたいだろう。いろんな事情の子が、子どもの時間を満喫できる、図書館でありたい・・・・と思う。


  



3月27日(日) 子どもたちの共同体?

 昨日の昼は、やっぱり10人くらいが図書館に残っていた。私は黙っていたら、カオちゃんがお金を出したらしい。1万キップで、タム・ミー(麺を入れたパパイヤサラダみたいなもの)を、子どもたちがに買いに行かせ、10人ほどで食べる。
 私も一緒におすそ分けをもらいながら、
「どうしりゃいいんだ?これじゃ、育ち盛りの子どもが、腹がいっぱいになるわけはない。家に帰れと言ったって、きっとろくなものは食べれないから、帰らないんだろうし・・・・でも、図書館で、お昼を出すのもなぁ・・・・」
 みんな、少しずつ分け合って食べているわけだから、腹がいっぱいになっているわけはない。でも、ラオスでは、自然に、みんなが分け合う。元から少ないのに、ちゃんとみんなを呼んで食べる。その辺りの心持は、子どもでも立派なもんである。

 今朝、市場で、さつまいもを買った。1kg6000キップ(約70円)。2kgで12000キップ(約140円)である。日本円で考えたら、大したことない。でも、これはお金の問題じゃなくて、それをやるか、やらないか・・・・の問題なのである。図書館の仕事の範囲内で・・・・(もちろん、安くあげないと続かない)

 さつまいもの方が、腹もふくれて、ビタミンもあるだろう・・・・と思ったわけ。
 時間をかけて作る余裕はなし。でも、さつまいもを蒸したら、その方が、昨日のタムミーよりも栄養はあろう。などと思い、さつまいもを買う。

 11時頃に、家の方へ(図書館の隣)に行き、さつまいもを洗い、適当に切って、外で炭をおこし、蒸す準備をしていると、オオンが来て、「何やってるの?」と言う。
「さつまいもをお昼に蒸そうと思ってさ」と言うと、彼女は、炭が全然おきてないのを見て、
「キヨコは炭をおこせないの?」と言う。
「できる時もあるけど、下手なのよ」
と私が言うと、「任せてよ」と、彼女は、炭をおこして、火をつけてくれた。
「きよこは、炭をおこせないよ」
と、子どもたちが嬉しそうに言う。「そうよ、できないのよ。だから、あんたたちやってよ」
 
 果たして結局、お昼には、蒸したサツマイモと、カオちゃんがお金を出して買ってきた、パパイヤで、パパイヤサラダを作り、炊いてあったご飯と、残り物の魚で食べた。

 この図書館は、本を読むだけの場所に、終わりそうにない。

 この図書館で面白いと思うのは、集まる子どもたちの、子ども共同体?子ども社会?があることだ。家族でもない、学校でもない、でも、自主的に集まるこの場所で、その時間を一緒に生きる時間。
 図書館・・・・・だけでは収まりきれない、この活動を、実は結構、面白がっている。

 ここの子どもたちは、結構、みんな仲がいい。それは、図書館ができる前から、子どもたちは友だち同士だったのだろうが、この図書館で、うまく、その子どもの社会を活かしていければ・・・と思う。学校に行っている子も、学校をやめた子も・・・いろんな事情をみな抱えている。それを越えて、仲良く、楽しく過ごせる場所でありたい。子どもたちが「自分の居場所」と、思える場所であることが、もしかしたら、ここの「図書館」の目的なのかもしれないな・・・と思う。 

 不思議でもある。私が、ラオス人と結婚して、一番、嫌だったのは、家族だけでは済まされない。プライベートが守られないことであった。家の中に、平気で他人が踏み込んでくる・・・・自分の時間を他人に費やすことがいろいろ起こる・・・・このことが一番嫌だった。それで、どれだけ、この場所に住んだことを後悔して、こんなことなら、私はおかしくなってしまう・・・とか思ったりしていたのに・・・今、図書館だけでなく、自宅の方に、子どもたちが入り込んでくる。自分の時間をこんなに子どもたちに費やしていて、全然平気である。自分でも不思議だな・・・・と思う。


 オオンが、「私は、まだ一回も、パン作りをやっていない。どうしても、今日やってよ」と言う。
「でも、、今日は、ダンナがいないから、窯に火を入れるのが大変なんだけど」 と言うと、
「私がやる」と言う。
「じゃあ、お願いね」
「うん、大丈夫」
とのことで、パンこねも、やる。まったく、忙しいことである。でも、ラオスの子どもたちは
「カオピアック(ラオスのうどんみたいなもの)を、こねたことあるし、任せてよ」
てな具合で、結構、材料を混ぜた後は、任せて、こねてもらう。オオンに、「火、お願いね」と、つけてもらったのはいいが、窯の中に入れた薪に火がついた後は、本人が、パンの形作りに一生懸命になってしまったから、私が、一生懸命、火を見る。前回、日本に行った時に、300度まで測れる温度計を買ってきたのだが、結構、温度が上がらない。そこで、一生懸命、薪やら炭やらを入れた。もういいかな・・・・と思って、パンを入れたら、今日は大失敗。結局、パンが炭だらけになってしまった。私の窯の番を、なんだか興味深そうにずっと見ていたプンが、
「だってさぁ、椅子の脚の木を入れたでしょ。だから、煙が出たのよ」と言う。
「あっそう・・そうだった?」と私。
 まったく、どんな薪を入れて、煙がもくもく出たとか・・・・に関して無知な私・・・・まったく、「きよこは火がおこせない」ということに、反論はできない。生まれてこの方、ガスで料理してきたんだから・・・・仕方ないか。
 ってなことで、炭色のパンができたのだが、子どもたちはあっという間に、食べる。
 こんなこと、あんなこと・・・・をみんなで、試行錯誤しながら、図書館で一緒に・・・・一緒にいる時間は、みんなで一生懸命生きようよ・・・・というのが、まぁ、この図書館の目指すところなのかもしれないな・・・・と思う。

 4時ぎりぎりまで、寸劇の練習をしたり、本をハンモックで読んだり、炭色のパンも食べ、子どもたちは大騒ぎで遊び、「4時だよ」と言うと、わぁ〜、じゃあねぇ〜、とあっという間に、みんな走って帰って行った。
「あれだけ遊んだら、満足だろうよ」
と、息をふぅっと吐きながら、駆けて行く子どもたちの後ろ姿を見送った。


新たに花を買ってきて植えた。美しい蝶が花によってくる。子どもたちが、いい香りだよ、と鼻を近づける。本当にいい香り。
 
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