04.組み分け帽子1



ホグワーツ特急を降り、一つ所に集められた新入生を前に 黒髪を一つにまとめた背の高い女性が口を開いた。
「皆さん、入学おめでとう」
彼女は優しく微笑んでいたが、威厳は損なわれる事なく、 リーマスは今まで読んだ本に出てくるどの魔女よりも魔女らしいな、とこっそり思った。
そんなマクゴナガルの声を聞きながら、リーマスは湖を渡る船に乗るときにはぐれてしまったジェームズとシリウスを 目だけでこっそりと探してみた。

まず人込みというものを体験したことのないリーマスは 生徒達の波に流され、気付くと列の最後尾にいた。
なんだかクラクラする頭で周囲を見回してみると、既に2人の姿は見えなかった。
そのことを半分は残念に思うが、残り半分で安心する。
両親以外の人間とあんなに長い時間、話をしたのは今の体質になってから初めてのことだった。
それは思いのほか楽しくて暖かくて、だけどとても怖かった。
今は、まだ自分でもどうしていいのかわからないのだ。

自分の目が届く範囲には二人がいないことを確認して、 リーマスが恨事とも安堵ともつかない小さなため息をこぼした、ちょうどその時。
マクゴナガルの
「これからこの先の大広間で組み分けの儀式があります」
という声が響き、リーマスはハッとした。



組み分け儀式。



ホグワーツに古くからある組み分け帽子が寮を分ける事は両親から聞き、リーマスも知っている。



自分は許されてこのホグワーツにいる。


もしも。

もしも。





組み分け帽子が僕を彼らと同じ寮へ入れてくれたなら。





自分も彼らと同じ時間を過ごすことを、多少は許されるのではないか。








リーマスが微かな期待を胸に抱いたとき、目の前の重厚な扉が開いた。
そこに広がる大広間に生徒達は息を呑む。
リーマスは大広間の奥に鎮座する帽子を見据え、大きく息を吐いた。










刀@ 刀@ 刀@ 刀@ 










上級生達の視線が新入生達に集まる中、壇上にちょこんと置いてある組み分け帽子が高らかに歌い、 そしてマクゴナガルがABC順に生徒の名を呼び上げ始めた。

初めて見る儀式に緊張を隠せず、一様に静かになっている新入生に対し 上級生達は自分たちの後輩となるのはどの生徒かと目は壇上へ向けながらも隣にいる友人とヒソヒソと囁きあっている。
そんな周りの状況が目に入らないくらいに、リーマスは緊張していた。
ドキドキという音が聞こえるくらいに鼓動が早まり、それを持て余すように目を閉じていると、 早い段階で知っている名が呼ばれた。



「ブラック・シリウス」



ハッと目を開くと、どうやら二人は新入生の一団の中でも一番前に陣取っていたらしく 彼はすぐに壇上に踊り出た。

その姿は堂々としていて、まるでどこかの王族のようだった。
古びた帽子を手にする様でさえとても優雅で、そう思っているのがリーマスだけではない証拠に 隣に立っていた少女達が「素敵ね」とうっとりと囁きあうのが聞こえる。
帽子はほとんど間を置かずに「グリフィンドール!」と叫んだ。
帽子の宣言を聞いた後も、落ち着き払った面持ちで先程と同じように優雅に帽子を元の位置へと戻す。
彼は壇上を去る時も、流れるような動きでグリフィンドールの机へと向かい、盛大な拍手で迎え入れられた。
シリウスのその一分の隙もないような洗練された動きを見て、リーマスは列車の中で見た、 ジェームズと軽口を言っている時の彼とはまるで別人のようだと思う。
そう思うと同時に、唐突にあることを悟った。
彼と自分とはあまりに違いすぎる。
彼は、誰がどう見たって選ばれた人間だ。
彼の周囲には光と祝福こそが似合うと、誰もが思う。
闇の中でしか生きられない自分とはそもそも違う生き物なのだ。

リーマスは急に、あの彼と友人になりたいと思った自分が恥ずかしくなった。
同時に、帽子が自分と彼を同じ寮へ分けることもありえないだろうと思う。

だって、彼と自分とは・・・こんなにも。



シリウスの組み分けの後は不思議とドキドキしていた鼓動も収まり、 胸の中に張り詰めていた何かが急激にしぼんでゆくように感じた。
帽子が自分をどこかの寮へ入れてくれさえすれば、 どこでもかまわないというような気持ちになっていた。








「ルーピン・リーマス」

マクゴナガルの声が大広間に響いた。
名前を呼ばれのろのろと足を運ぶと、あと少しで壇上へあがるという所でグイと腕を引かれた。
転びそうになるのをなんとか踏みとどまって振り向くと、そこにジェームズの顔があった。
「あぁ、ごめん。強く引っ張りすぎた。
 途中ではぐれてしまったから心配してたんだよ、リーマス」
「・・・・・ジェームズ」


「ルーピン・リーマス」

壇上へ上がらないリーマスを催促するようにマクゴナガルが再度、名前を呼ぶ。


「僕、行かないと・・・・」
「少しくらい大丈夫さ。
 ねぇ、僕ら、きっと同じ寮になるよ」
ジェームズはリーマスの腕を掴んだまま、顔を覗き込むようにそう言った。
「・・・・・・どうして?」
僕と君らは違うのに、どうして?
「僕が、君と同じ寮がいい!って思ってるから」
「でも、決めるのは帽子だよ」
リーマスが顔を俯かせ、そう言うとジェームズはニッコリと笑った。
「いいや、違うね」
「ジェームズ?」
「リーマス、問題は帽子がどこに振り分けるかじゃない。
 君、そして僕がどう望むかさ」
「でも、僕は・・・」




「ルーピン・リーマス!」


少し苛立ちを含んだ声で再度リーマスの名前が呼ばれる。
ジェームズはやっとリーマスの腕を放した。
そして「行っておいで」と優しく背中を押してくれた。






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