イギリス滞在記 第2章〜生活編
15. ケイさんに日本語レッスン


もうひとりのプログラマーのケイ(Kay)さんはイギリス人。
とび色の瞳に黒い髪、スリムでスラりとした身長はゆうに180センチはあります。性格はちょっとおっちょこちょいでよく遅刻をします。あるときも指から血を流しながら遅刻してきてみんなが心配して「どうしたの?」ときくと、朝あわてて家を出るときドアに指を挟まれたんだといいます。
日本語は単語をいくつか知っているくらいで、ほぼ英語しかしゃべれませんが、そんなケイさんがある日、僕が書く仕様書を元にプログラムを作ることになりました。

当然、英語で仕様書を書くわけですが、こちらの英語力はたかが知れているので、正しく仕様を伝えるためにはどうしても行単位の細かい仕様書になってしまい、「あー、こんなことなら自分でプログラム作ったほうがずっと早いのに」と思いつつ、出来上がった仕様書をケイさんに渡しました。
それを受け取ったケイさんは難なくプログラムを作ってしまい、「はやく次の仕様書をく下さい」と催促されるのには泣かされました。

そんなこともあって、ケイさんとも親しくなり、片言の英語でしゃべっていると、ケイさんのほうも「実は日本語を勉強しているの」といって、「これが今勉強している日本語のテキストよ」と本を見せてくれました。
でもその本を開いてみてびっくり、挿絵には着物を着た子供や、髪にかんざしを差した芸者風の女性や山高帽に髭の紳士、蒸気機関車などの絵が載っていて、日本語も「さくら」だの「お正月」だの「きかんしゃ」だの、まるで尋常小学校の「國語」の教科書、どう見ても明治時代かひいきめに見ても昭和初期の代物です。いったいどこの古本屋で手に入れたのか、これにはみんなあきれて笑ってしまいました。

(ケイさんはワケが分からず、きょとんとしてましたけど)

でもこれをきっかけに、みんなでケイさんに日本語を教えようというムードが高まり、ケイさんとはなるべく簡単な日本語でしゃべるようにし、できるだけそのつど単語なんかも教えてあげるようになりました。

ある日の昼休み、遊びで日本語の早口言葉をケイさんに教えると「ママムミ、ママモメ、ママタマゴ」(生麦 生米 生卵)と顔をゆがめて発音するケイさんに、一同大爆笑。
そこでケイさんも負けじとばかりに英語の早口言葉(tongue twister)を僕たちに教えます。
たとえば「She sells sae shells by the sea shore」(彼女は浜辺で貝を売っている)など。
それを僕たちに言わせてケイさんはげらげら笑ってましたが、何回目かに僕が言ったとき、「ホンダサン グッド!」とケイさんに褒められ、僕は得意になりましたが、どうやらまぐれでもう一度言ったときはやっぱり笑われてしまいました。

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