| イギリス滞在記 第2章〜生活編 | ||
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| 6. フラットに引越し | ||
ホテル暮らしは1週間で終わりとなりました、フラットが見つかったのです。 イギリスでは日本でいう賃貸マンションのような物件は家具付きが一般的で、そういう物件を「フラット」と呼びます。 ロンドンに来て4〜5日目の事、支店長に呼ばれたので行ってみると・・・ 「本多君、手頃なフラットが見つかったそうなので明日不動産屋の人と一緒に見て来たまえ、場所や家賃のことはすでに聞いているので、実際に物件を見て問題がなければその場で契約してきて欲しい、早ければ今週末にも引越しできるはずなんだがね。」といわれました。 そして翌日の午後、会社を出て待ち合わせ場所に指定されたセント・ジョーンズ・ウッドの駅に着くと、待っていた不動産屋さんは中年の日本人女性Tさん。(よかったー、日本人で)、ここからTさんの運転する車に乗せてもらいましたが、目指すフラットは歩いてもすぐの場所でした。 案内されたグローブエンドガーデンというその建物は、グローブエンドロードに面した8階建てで、外観は1〜2階までは白い壁で、3階から上がレンガ造りになっていて、凝った装飾などはないものの、かなりの年数が経っている様子です、日本でいえば明治のレトロ調建築といった雰囲気でしょうか。 白い石造りの門柱のある入り口から建物の敷地内に入るとエントランスまでの通路の脇には狭いながらもよく手入れされたイングリッシュガーデンがあります。そして建物の玄関には格子状の木枠にガラスがはめ込まれた重厚なドアがあり(もちろん自動ドアではありません)そのドアをギギィーと開けて中に入るとそこはロビーのような空間になっていています。 ロビー左手にはホテルのフロントのようなデスクがあり、下士官の軍服といった感じの制服に帽子をかぶった品のよさそうな初老の男性(管理人?)が控えていました。 Tさんが来意を告げるとその管理人が部屋まで案内してくれました、ロビーから奥へまっすぐに延びる長い長い通路をどんどん進んでいくと、つきあたりにエレベータがあります、よく昔の外国映画に出てくるような扉が開閉式の鉄格子で出来ているやつです。 エレベーターを呼ぶボタンを押すとジリジリジリという音がして、やがてノロノロとエレベータが降りてきて止まります、そこで1枚目の鉄格子を手で開け、さらにエレベータの箱側の鉄格子を開けて乗り込むという時代がかった代物でした。 4階で止まったエレベータから再び”よっこらしょ”と2枚の鉄格子を手で開けて降り、廊下を右に進み左手2つ目のドアがこれから住む事になるであろう部屋でした。 ノックをすると中から東洋人の男性がドアを開けて我々を招き入れます、彼は所有者の代理人で部屋の下見の立会いに来ていました。間取りは2Kです。 ![]() リビングルームは10畳くらいの広さでしょうか、家具はガラス天板の6人掛けのダイニングテープル、どっしりとした造りの1人掛けと3人掛けの赤い柄の布張りのソファーがそれぞれ一脚つずつ、クッションもちゃんとあります。白い木枠の窓が僅かにカーブを描いて張り出していて、落ち着いたグリーンのカーテンが下がっています、窓から外を見ると左手はL字状に折れ曲がったこの建物の壁が続いていて、右隣の教会との間がちょうど中庭のようになっていて、芝生の緑で覆われています。太陽の方向から考えてこの部屋はほぼ南向きです。 隣は6畳ほどのベットルームなっていて、やはり同じ向きに窓があります、そして僕の腰の高さほどもあるベットが2つ、それだけで部屋のほとんどを占領してしまっています。2つのベッドの間にはナイトテーブルがあり、その上にピンクのシェードが付いた電気スタンドとベージュのダイヤル式電話が置かれています、奥側の壁は造り付けのクローゼット、反対の窓辺にはチェストが置かれています。 バスルームにはトイレと洗面台とバスタブがあり、バスタブの蛇口をひねるとお湯がものすごい勢いで出てきました。 キッチンには渦巻き型の電熱式レンジが3口、調理台の下の引き出しには包丁やナイフ、フォーク、スプーン類、その下の扉の中にフライパンやなべ類、その右側、調理台の下にはドラム式の洗濯機が収まっています。流しの上のガラス扉の付いた造り付けの戸棚にはグラスから大小の皿やサラダボウル、果ては10客分はあるティーカップとティーポットまで、およそ一人暮らしには十分すぎるほどの食器類がびっしりとならんでいます。 Tさんは部屋の隅々をチェックして回りながら僕にあれこれと説明します。それまでは問題は無かったのに冷蔵庫を開けると中には飲みかけで腐った牛乳パックや食品が入っているらしい密閉容器が残っていて、棚も何かがこぼれて汚れています。 これを見た不動産屋のTさんは、すかさず立会いの男性に何か(英語で)抗議しはじめました。Tさんは「これから賃貸する物件なのにこれでは問題だ、今すぐにきれいに片付けるように。」と要求している様なのですが、これに対して立会人のほうは我関せずという態度、たぶん「自分は立会いを頼まれただけで掃除までするのは自分の責任の範囲外だ。」といっているようで、これを聞いてTさんはますます声を荒げて文句を言っています、僕はその横で呆然として立っているだけ、とうとう業を煮やしたTさんは自分で冷蔵庫の掃除に取り掛かりました、牛乳パックを流しに捨てると中からクリーム色に変色した液体が出てきました、そして冷蔵庫から他に残っていたものを全部出して冷蔵庫を空にし、そのへんにあった布巾を洗って絞り、冷蔵庫内の棚を拭き始めました、Tさんはその間中ぶつぶつと文句を言っていましたが、立会人は相変わらず知らん顔をしています。 気まずい雰囲気の中、部屋のチェックは一通り完了しました。冷蔵庫もきれいになり他には特に問題は無かったので僕は「OKです。」とTさんに伝えました、するとTさんはカバンから契約書類を取り出し、貸主はMiss S.Chan(中国人?)家賃は1ヶ月680ポンドで会社から直接払ってもらう手はずになっていることなどを説明し、入居はいつからでも可能だけとどうするかと聞かれました、僕は「じゃあ今度の土曜日に」と答えると、「支店長に渡すように」と貸主欄にすでにサインが記された契約書を渡され、最後に部屋の鍵を受け取りました。 |
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