「百合」      混合技法  27×35p 2002
      橋の下 コンクリートの橋げたの陰になった所

      川の水は油のように真っ黒で 流れる気配が無い

      そこにたたずむバレリーナの姿

      目を閉じ 白く丸い額の下 濃い睫毛の陰を作る

      薄いピンクの唇は縮んで皺になる

      顎から細い喉への線

      しかし発達した肩の筋肉

      踊るために全身を持ち上げるため

      マリオネットの糸つり枠のような構造

      肩から腰へ続く胸骨から腹筋にいたる細くしなやかなあたり

      手で触れるとビリビリと電気が走る感触

      それはバレリーナの精神の現われ

      長く苦しい稽古の時間の氷結

      布のトウシューズから続く足首は ゆりの花の茎へとつながる箇所

      植物の硬い密度の肌と強靭な形を持つ

      あたり一面に咲くゆりの花の ちょうどその高さぐらいの

      バレリーナが現われるのは決まって夕暮れ

      見ず知らずの男に殺され この川に捨てられた少女

      一年たった今 ゆりの花がこの川辺に咲いた