「猫」     混合技法  27×35p 2002
      黒猫の毛並みは、それが大きく背伸びをするたび、

      微妙に動く。

      この獣には余分な肉というものが無く、媚を感じない。

      頭から背を手で撫でると、

      人の手の油と、猫の体の油が反応するのか、

      黒い毛並みはなめし皮のように艶を発し、 

      悪魔的な美しさを見せる。

      この形は古代エジプトの図版で見た、動物神ではないか。

      この獣には匂いが無い。

      その瞳の中には放射状の紋があり、

      まるで透明な海にひそむヒトデだ。

      どの精巧な金細工も、この形にかなわない。

      この美しい高貴な獣を、祖母は飼っていた。

      女神のような祖母。

      今は天を駈ける。