Afterwordあとがき

 お読みくださりありがとうございました。適当に駄文です。

 書こうと思ったきっかけは懐黍離です。それまでの私の中でのズオ・ラウの印象を正直に話すと、将進酒ではいけ好かないと感じ、登臨意では「刺客を逃しました…」からの報連相が取れずいいとこなさすぎで笑ってしまい、その後レイズとの食事の席で舌打ちをかますのに笑い、という感じでした。

 そんな懐黍離ではさせ…派遣された先にてシャオマンとのクスッと笑える出会いから始まり、新しく出来た友達兼導き手となるシャオホーと、同行者の筆くんことユン・チンピンのおかげでズオ・ラウが等身大のキャラとして感じられ、親しみを持てるようになったのが大きかったです。星空の下、少年少女が集って和気あいあいときれいな青春に身を投じていて、特に名前の由来を語る話が印象に残りました。みんながみんな不透明だった内面を見せてくれたのは有り難い。そして、ズオ・ラウという生意気そうな官僚も、蓋をあけてみれば、あまりにも馬鹿正直で己の未熟さを努力と背伸びでどうにかしようとする、ものすごい頑張り屋だったわけでした。

 そういった話を目の当たりにしてからふと思い返してみると、将進酒での「ちょっと緊張しちゃって、言いそびれてしまったんですよ」という発言。何やらカッコつけた笑みを浮かべながらのセリフでしたが、だんだん彼なりに虚勢を張っているように見えてきて、「本当に緊張してたのかなぁ…してたのかも…」とか考えはじめると止まらなくなりました。そしてプロファイルのある一文を見てなんともいえない気持ちになり、ちょうど手も空いていた時期だったのでズオ・ラウの喜怒哀楽を書いてみようと思いました。ささっと書いて終わらせようと思ったのですが、思いの外長くなってしまいました。

 書き上げたら「成人前の男女のやり取りか、これが――?」と茫然となったり、「なんか既視感あるなぁ…」と思って過去作確認したらシチュエーションかぶっててミスったなあと思ったけど特に手直しはしません。好きなんです、ゆるして。あと言葉が通じないという設定が足を引っ張り、ほぼ地の文章だけになっている話ができてしまいました。素人が書いた地の文だけとか拷問だと思います。ゆるして。
 以下キャラについての所感とか。取り留めがない萌え語りと言い訳なので、読み飛ばして結構です。

[ズオ・ラウ]
 両親健在かつ出世ルートという運に恵まれて育ったへびにんげん。指に幸運の象徴であるホクロがふたつもあったりして、意図的にそういう星回りのキャラにしたんだろうけど、彼が幸福であるかはまた別の話かと思います。
 プロファイルでは旧帝国陸海軍メンタル『お国のために死ぬ』をチラつかせていて「ちょっとやべえなこいつ…」と思いました。これが夢を書く一番大きな理由にもなった。
 父親が玉門のトップであること、玉門が炎国随一の軍事都市であること、また玉門に普遍的な価値観として敷かれている『移動都市(=伝統ある村社会)に住む共同体の一員』というお仕着せじみた支配的な同調圧力からそこに辿り着いたんだろうけれど、未成年の、しかも10代前半くらいでここに着地してしまったのはなかなかむごい。だから父親のズオ・シュアンリャオはズオ・ラウを都市の学舎に送ったのかも…などと背景を勝手に想像してしまったり。ただ、これは私が勝手に思ってるだけなので、ぜひとも秘録などで掘り下げが欲しい。
 まあ、ズオ・ラウの言う『栄誉ある死』なんてどうせ二階級特進してお金貰って残された遺族が泣いて、それだけで終わってしまうんだから、それよりも100歳まで生きながらえて「おじいちゃん100さいおめでと~」と孫やひ孫に抱きつかれる栄誉を求めて欲しい。どっちが幸せかは明白だと思う。

 そんなズオ・ラウは生真面目でストイック、軽功が得意という事もあって素早い決断力に勇気もある…かと思えば生き馬の目を抜けるほど器用な立ち回りができるわけではなく、二重の意味で脇が甘すぎるのが難点。探究心がとにかく強く、自分の理念・理想・目的を優先するあまり、課題の分離がうまくできていない時もあって見ていて少しハラハラする。絶対的な父権が敷かれているにも関わらず、父親の前で真相を解明したいと正直な意思を示すのはかなり美味しい。勝敗にこだわるところもあったりして、勝ちを逃すとムキになるのも面白い。応援したくなるのはこういう所から来てるんじゃないかな。
 ゲーム中の立ち絵は防御力が高くて、初見でびっくりして見入ったのは覚えています。笑った顔も下向きでオブラートに包んでる感じがするし、言葉もかしこまった長文で鉄壁のガードを築いてる。そのくせついうっかりな失言で防御力の低さを見せるのが本当に面白い。肝心なところでうろたえたり、むせたり、丁寧な態度が剥がれちゃったり、目伏せがちにして黙り込んだり。「チュ、チューお姉さん」の場面は思わずニヤッとした。
 
 タイホーとの会話で「(男女の情に関して)持燭人はそういったものとは無縁ですから」と言っていたので、もし気になった人がいても一線を引いて、無意識に鈍感に振る舞うタイプかなと考えました。だからこそ自分が相手のことを好意的に見ていると気付いた瞬間の反動は見てて面白いだろうと。夜に自室のベッドの上で一人で丸まって、母音だけの唸り声を上げながら、たまにのたうち回ってるとなおいい。
 彼を一言で表すと「優しい」と評する方が多く見受けられますが、それはどの世界の誰にでも当てはまってしまう言葉です。じゃあどう優しいのか? 使い古されてぼろぼろになったお世辞の「優しい」ではなく、彼なりに不器用な優しさ――駄獣の子供を連れてきてしまったり、タイホーを怪我させた相手への怒りに身を任せて失敗したり、ジエユンの目的を尊重して道を示したり、等々――を自分なりに掘り下げました。これがおおよその主題となりました。キャラのイメージを壊してしまったら申し訳ありません。

[夢主]
 あんまり書くもんじゃないのはわかってますが、どうしてこんな感情移入しにくい設定にしたのか言い訳を。
 副題のひとつめを「二項対立から相互理解に向かうまで」にしようと思っていたので、ズオ・ラウが炎国の砂漠に近い移動都市出身なのでサルゴンの砂漠地帯に近い非移動都市出身にして、難しい言葉遣いなので簡単な喋り方にして、いい子だから悪い子にして、子供っぽくして、狡猾さ、道徳心の欠如とかを主体にしました。取り巻く環境が優しいからこそ反発して周辺化されてしまったりとかはただの趣味です。かといって油と水だと完全に混ざりきらないので、それなりに寄せられそうな所は寄せました。
 副題のふたつめが「記憶の塗替え」です。5、6歳までの経験に伴う記憶の蓄積が人格を形成するなどと言われていますが、そこで記憶の塗替えが行われるとどうなるか?という疑問があったので書いてみたかった。悲惨な幼少期に蜘蛛の糸を垂らすがごとくズオ・ラウを投げ込んだら何かしら影響を与えそうだなと。ズオ・ラウの場合は蜘蛛の糸みたいな一縷の望みではなくがっちりして絶対に切れない鈎縄になるだろうけど。
 あと、ズオ・ラウは最初年上が好きそうかなと思ったのですが、いろんな話を読み解くうちになんだか年上のお姉さんに辟易して同年代か年下に惹かれそうかなと思ったので『お姉ちゃんと妹 両方の性質を併せ持つ』みたいな同年代にしました。

 ―― 所感ここまで ――

 表題の由来は北村透谷という大昔の作家の小編です。彼はおそらく「冥契」という言葉または概念が好きだったようで、頻出とまでいきませんがこの単語が出てきます。青空文庫に保管されているので暇な人は読んでみてください。ちなみに死人と結婚するという意味ではなく心を通わせるという意味の方で使っています。
 サブタイトルの由来はレイ・ブラッドベリの『火星年代記』および『メランコリィの妙薬』の各小編のタイトルを引用・改変しています。SFの一時代を築いた作家ですので読んだことがない方は『華氏451度』あたりから手に取ってみるとよいと思います。
 この場を借りてお礼とお詫び申し上げます。

 2024年の8月14日から書き始めて、仕上げるまでに時間がかかってしまいました。読んだ方は楽しめたかわかりませんが、私は色んなシチュエーションを書けて楽しかったです。
 書いた当人は満足しました。結局書いてて楽しいのが一番だなと思いました。
 やっぱり夢小説を書くのは楽しいです。

終わり。