4月から5月にかけて咲くヒトリシズカはセンリョウ科の多年草です。やや湿り気のある明るい林に自生し,春,地中から芽を出すと4枚の輪生する葉のまん中から白い花をのぞかせます。 源頼朝の前で義経を慕い,一人舞台に立ち,過酷な運命に耐え,世間の片隅で生き抜いた静御前。ヒトリシズカの名前には,遠い歴史の悲しくも哀れなお話が込められています。 草籠に一人静も刈られたる 秋 櫻子 人がどのような思いでヒトリシズカを刈り取ろうと,花は自分の命を精一杯に咲き続けます。 人生は楽しいことばかりではありません。どちらかというと辛いことのほうが多いものです。そんな時,木陰で辛抱して咲くヒトリシズカを見ると「辛くても我慢して生きるんだよ」と励まされます。 この辺りでは,ヒトリシズカに少し遅れてフタリシズカの花を見ることができます。ヒトリシズカの花がビンの中を洗うブラシのような形をしているのに対してフタリシズカの花穂は白いごま粒をつけたように見えます。比べてみましょう。 ヒトリシズカの葉は生のまま,あるいは干して煎じると,一種のハーブティーになります。良い香りです。 中西 正一 先生 |
ヒトリシズカ (「野草と共に」より) |